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ブラッドファング  作者: ことりピヨネ
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49.レッドウッドパークのひさめ

 俺はトニーを背負って、コンサバトリーから走り出た。


 背後からショットガンの銃声が響く。

 後方をギリーに任せ、俺はひた走る。てか、重い。


「う、うぐぐ……俺の尻がぁ」

「しっかりしろ。ケツにトゲ刺さったぐらいで死なねえから」


 足を進ませながら、苦しそうな声をもらすトニーを励ます。大胸筋ばかりじゃなくて、今度は大殿筋も鍛えておいてくれ。


「ギリー。ついてきているか?」


 返事のかわりにM870の発砲音が響く。


 どうやら無事らしい。ちらりと横目で確認すると、ちゃんと一メートルぐらい離れたところにいた。


 けどまあ、そのさらに後ろから牙獣たちがわんさかやってくる。

 こいつらなんだってこんなところに、そんなにたくさんいるんだよ。追いたててるんじゃなかったのか。


 疾走する俺の前方に、低木の繁みが見えた。

 隠れるのにはちょうどいい高さだ。どのみち、このままじゃ追いつかれちまう。


「こっちだ、ギリー」


 俺は声をかけながら、藪の中に飛び込んだ。


 ありがたいことに生い茂った木々は、鳩尾ぐらいまでの高さがある。しゃがめば体を隠すことぐらいはできるだろう。


「背を低くするんだ。ギリー」

「わかってるわよ」


 俺たちは息をひそめて、牙獣が通過するのを待った。


 ところが、騎馬の追手を横切る位置に着物姿が現れた。


「姉さぁーん、どこですかぁ!! たぁーすけてぇ~!」


 着物の裾を乱して走るひさめが、通り過ぎていった。


 こんなところで何やってんだ、あの子は。


 どうやらむこうも、別の牙獣に追われているらしい。

 うまい具合に、こっちを追ってきた連中も引き連れていってくれたのはいいのだが、今度は彼女があぶないことは間違いない。


「やれやれだぜ」


 俺はひさめを助けるべく、その場にトニーを寝かせて立ち上がった。


「どこに行くつもり?」


 もちろん、呼び止めたのはギリーだ。


「勝手な行動は許さないわよ」

「さっきの女の子を助けに行かないといけないだろ」

「それなら、私が……」

「いいや。そっちは無線で救援を呼べ。トニーをこのままにするわけにはいかない」

「くっ」


 そんなくやしそうな顔するな。


「あんたがこの騒ぎの張本人じゃないって、証拠はあるの?」


 疑わしいといった態度を隠そうともせずに、ギリーは言った。


 なんで、そんなことを疑われなきゃならんのだ。

 たぶんこれ、理由を聞いたら『女の勘』とか言いそうなやつだ。めんどくせえ。


 しかしまあ、前にミララメラから聞いたことが本当なら、と仮定しよう。

 牙獣は俺のいるところに集まる、と言っていたはずだ。それならば、この騒動は俺にも原因の一端があるということになる。


 となるとギリーの勘も、あながち的外れではない。だが今はあいにく、それを事細かに説明している時間はなさそうだ。


「悪いが、その話は後回しだ。人の命がかかっていることぐらいは、おまえさんにだって理解できるだろ」

「…………」

「じゃあ、行くぜ。トニーのこと、頼んだぞ」


 俺が背を向けると、ギリーがぽつりと言った。


「私が捕まえるまで、死ぬんじゃないわよ」

「あいよ。せいぜい気をつけるさ」


 背後に手を振り、俺は藪から出た。


 ひさめが逃げていった方向をめざして走りだす。


 ましろを探していたので、これはこれでおあつらえむきだ。

 ついでにひさめを助けておけば、恩を売るとまではいかなくても、話すきっかけぐらいにはなるだろう。


「たぁすけてぇ~!! 誰かぁ……」


 さっそく悲鳴が聞こえてきた。


 これなら足跡を探すまでもない。

 声の源を追って走ると、すぐに牙獣の後ろ姿が見えてきた。


「ひさめ!!  ひさめさん!」


 まずは大声で名前を呼んでみた。


 ひさめは俺の呼びかけに、まったく気づいた様子もなく走り続けた。

 爆走する彼女の進路に、数メートル間隔で樹木が並ぶ林が立ちふさがった。


「ハッ―――!!」


 ひと声放ったひさめが、目の前に太い樹にしがみつく。


 そのままスルスルと幹を上がる。ほんのひと瞬きする間に、太い枝の張った樹上に登ってしまった。

 和服を着ているというのに、驚異的な登攀力だ。猿か。


 それでも牙獣が相手では意味がない。

 俺がビルを駆け上がったときもそうだったが、あいつら普通に登ってくるだろ。


 今回も、もちろんそうだった。

 騎士の姿をしたままで、牙獣が幹を駆け上がっていく。


 ひさめは、くるりと牙獣に背をむける。


 そして、跳んだ。


「えっ……」


 枝から跳躍したひさめが、三メートルほど離れた木に移動していた。


 なんだありゃ。

 あんな距離をひと跳びで移ってのけるとか、忍者かよ。


 牙獣のほうは、そういかないようだった。

 あいつら空中に浮いていたりするけれど、地面から離れると高速では移動できないらしい。それどころか、ゆっくりと落ちてきてさえいる。


 そんなおっとりとした追跡者を尻目に、ひさめはぴょいぴょい樹上を飛ぶ。


 いや、俺ものんびり見ている場合じゃない。追わないと。


「おい、ひさめ! 待てって。聞いてんのか」


 俺はめいっぱい大声で呼びかけつつ走った。


 あいかわらず、ひさめに声が届いている様子はない。またヘッドホンでもつけているんじゃないだろうな。


 牙獣のほうはと言えば、結構がんばっている。

 樹間を飛ぶのは無理だったらしく地面に落ちてはいたが、そのせいで追跡の速度が上がっていた。


 俺も必死で、その後を追う。

 そしたらふいに先頭を走るひさめが、木からぴょーいと飛び降りた。


 どうやら林を抜けたらしい。

 目の前には、見覚えのある小さな池があった。もしかしてこれ、ぐるっと回って元の場所に戻ってきたんじゃなかろうか。


 ひさめはまっすぐ池にむかった走っていた。


「―――りゃっ!!」


 池のすぐそばまで近づくと、かけ声なんか発しながら小脇に抱えた枝を投げた。


 どうやら木の上にいる間に集めていたらしい。

 走りながら手にした枝を水面に等間隔で投じていく。


 そんでもって、跳んだ。

 信じがたいことに池に浮かぶ枝の上に足先がついた瞬間、さらに跳ぶ。


「マジかよ……」


 跳躍を繰り返し、対岸に渡りきったひさめを目にして、俺の口から力の抜けた声が出た。どんな足腰の鍛え方してるんだ、あの娘は。


 そんなひさめを追う牙獣は、やっと水辺に到着したところである。


 そして、俺もそのすぐ後ろまで追いついてしまった。


 なんか納得いかねえが、まあ撃っとくか。

 ホルスターをから銃を抜いた俺の視界に、さらに遠ざかるひさめの後ろ姿があった。


 あいつ、まだ走る気か。

 っていうか、いいかげんにしろ。追ってるこっちの身にもなれ。


 それともあれか。

 あの変な名前で呼ばないと、気づいてもらえないってことか。そうなのか。そういうことなのか。ふざけんなコンチクショウ。


 俺は肺一杯に空気を吸い込んだ。


「止まれってんだよ! スカーレットシャァァァァァクッ!!」


 呼びたくもないあだ名を叫びつつ、俺は牙獣を背後から撃って始末した。


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 一人称の練習で書いています。

 読みにくい部分が多く、たいへん申し訳ありません。

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・校正をなさってくださる方へ

 お手数ですが、ご指摘等をなさっていただく際には、下記の例文にならって記載をお願いいたします。


(例文)

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>~(←ココに修正箇所を引用する)

この部分は、(あきらかな誤用orきわめてわかりにくい表現or前後の文脈にそぐわない内容、等)であるため、「~(←ココに修正の内容を記入する)」と変更してみてはいかがでしょうか。

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 以上の形式で送っていただければ、こちらで妥当と判断した場合にのみ、本文に修正を加えます。

 みだりに修正を試みることなく、校閲作業者としての節度を保ってお読みいただけると幸いです。

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