48.トニーの尻を守るんだギリー
裏口めざして進もうとした俺を、ギリーが呼び止める。
「ちょっと。どこに行くのよ」
「こっちだ」
「いいえ。こっちよ」
ギリーはコンサバトリーのガラス壁めがけて、ショットガンをぶっ放した。
バッキャォォォン……!!
轟音とともに破片が飛び散る。
あまりに唐突な発砲で、俺は開いた口がふさがらなかった。
「どうしたんだ。牙獣がいたのか」
「くるわよ」
ポンプアクションで次弾を装填した直後、屋内にひそんでいた牙獣が飛び出そうとしてきた。
ギリーがそいつに12ゲージを連続してたたき込む。
さしもの牙獣も、至近距離から散弾の連射を浴びせられては防ぎきれなかったようだ。黒い霧状の馬体は、たちまちのうちに塵と化した。
あっけにとられている俺に、ギリーが短く告げた。
「上」
「え?」
屋根を見上げると、たしかにそこにも牙獣がいた。
俺より先にギリーが撃った。一発、二発と散弾が放たれ、三発目は俺。しかも、牙獣をしとめたのはギリーの撃った四発目だった。
ギリーは散弾を装填すると、ぼそりと言った。
「ついてきな」
ギャング映画の姐さんみたいな口調とともに、ショットガンを構えて建物の中に入っていく。
俺は黙って、ついていくことにした。
ここで下手に逆らって、また機嫌を悪くされても困る。
「なあ、ギリー。少し冷静に……」
多少は落ち着かせようと思って口を開いたとたんに、また撃った。
屋内に展示されていた植物の影に、たしかに牙獣が一体いた。
それにしても、機械の作業でも見せられているかのような、この徹底した無機質感は何事だろうか。
まるで未来から来た殺人ロボットみたいな動きなのである。やるべきことがあらかじめわかっていて、必要な最小限にまで行動が研ぎ澄まされているみたいなアレだ。
裏口に回ってから、すでに三体の牙獣を倒している。
次は何をするのだろうかと思っていたら、ギリーは天井に狙いをつけて発砲を始めた。
たしかにさっき屋根の上に牙獣がいたけれど、どうしてまた撃っているのだろう。
二体目がいるとでもいうのだろうか。なんというか、本当にそこに敵がいることがわかっている、としか言いようのない挙動だった。
ところがそのとき、景気よく天井を撃ちまくっていたギリーの頭上で、ミシミシと不穏な音がした。
木屑がパラパラと降りそそいだかと思うと、撃ち砕かれた梁の一部が落ちてきた。
俺はすぐさま、ギリーに飛びついた。
「あぶない!!」
「何を―――うわっ!」
落ちてきた木片を避けた俺たちは、二人もつれて転がった。
「そんなバンバン撃つな……よ?」
仰向けになったギリーの上に、俺は覆いかぶさる体勢になっていた。
「どいて」
「いや。あの、そんなに撃つと、あぶないからさ。その」
「どけ」
ギリーの口調が、ひたすらトゲトゲしい。
あぶないところを助けてくれてありがとう、みたいな雰囲気ではない。もう少し、感謝してくれてもいいと思うんだが。
「二人とも無事か? すごい音がしたぞ」
入り口のほうに並んだサボテンの影から、トニーが顔を出した。
床の上で体を重ねている俺たちを見て、ぶ厚い胸板の上の表情が固まる。
「おいおい。俺はたしかに、おまえらに仲良くしろとは言ったがな」
「違うわよ!」
「違うっての!」
俺とギリーは同時に怒鳴った。
トニーがさらに何か言おうとしたとき、崩れかけた天井の穴から黒いものが降ってきた。
牙獣はそいつだけではなかった。
俺たちが通ってきた裏口や、ぶち破ったガラスのむこうからさらに数体。いったいどこに隠れていたんだ、という数である。
「くっそ!」
「地獄に落ちろ!!」
「ファング! ギリー! 二人とも、こっちだ」
事態はたちまち混乱した。
起き上がる俺。ショットガンを撃つギリー。銃で支援しながら、入り口側に後退するトニー。狭い屋内で暴れる黒い騎士。
その混乱の最中、俺は見た。
後ろに下がるトニーの進行方向。
入り口の脇に、サボテンの植えられた鉢があった。
それも、ものすごくトゲの長いやつだ。
「トニー!!」
ギリーも気がついたのか、俺と声を重ねて呼びかけた。
「なんだ! はやく、こっちに……ア――――――ッ!!」
サボテンの棘がトニーの尻に刺さる。
コンサバトリーの中に、すさまじい絶叫が響き渡った。
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一人称の練習で書いています。
読みにくい部分が多く、たいへん申し訳ありません。
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