5.グリル・ブレイヴィカのギリー
ジョンジーの事務所から、通りを三本はさんだあたり。
そこにノルウェー料理の店がある。
グリル・ブレイヴィカという名の店が、俺の最近のお気に入りだ。仕事帰りに寄り道するにもちょうどいい距離なので、面倒なときはそこでテイクアウトする日々を送っている。
ノルウェーの料理で世界的に有名な、と言えばスモークサーモンがある。
山地のジビエなども、また独特でよろしい。ヘラジカやトナカイといった、ご当地ならではの食材を使ってハンバーグやシチューを作るそうだ。その方面での有名どころでは、羊の頭を燻製にする地方もあると聞く。あいにく食ったことはないのだが。
俺が個人的にその店を気に入っている理由としては、やはり魚を使った料理のレパートリーの豊富さにあるだろうか。
鮭はもちろんのこと、俺にとってもなじみ深いイワシやニシン、それからサバも使う。
サバをトマトで煮込んで、そのままパンではさんだサンドイッチが俺の好物である。水気を飛ばしたトマトペーストに、軽く火を通したフレッシュトマトの酸味を組み合わせた濃厚な味わいは、警察の四〇口径弾なんぞとは比べ物にならないうまさだ。
「武器を捨てて。両手を上にあげて、壁に手をついて」
店に入って、十五分ぐらいが経過したときのことだ。
注文を済ませてテイクアウト待ちの行列に並んでいたところ、小型の牙獣が店の入り口をぶち壊して入ってきた。
俺は射線方向にビルの隙間があること、それから通りをブラついているボンクラがいないことを確認して、低い姿勢から銃を撃った。
一瞬遅れて、店内にいたポニテの女がジャンパーの内側から抜いたS&WのM&Pをぶっぱなす。
もちろん店内は大騒ぎだ。悲鳴とともに、全員その場にしゃがみ込む。
幸いなことに、牙獣は一瞬で粉々になっていた。
俺は職業的な習慣から、牙の残骸をさぐって蒼牙結晶を拾おうとした。
「現場に手を触れないで」
ポニテ女の四〇口径が俺を狙っている。
同業者だろうか。それにしては、見たことのない顔だ。
「先に当てたのは俺だ。俺の獲物だぜ」
「動かないで。FBCUよ」
警察手帳を見せながら、彼女が言う。
俺は言うとおりに従った。撃たれたあとに賠償金をふんだくる裁判費用も、命の予備も持ちあわせてはいない。
ただまあ、俺の銃を投げ捨てたりするわけにはいかなかった。
マレブ社の受注生産限定品、カルテット・パーティの五〇口径モデル。装薬時には総重量十七.七キログラムになる。こいつは、半年前のあのときから俺の相棒だ。
こんなゴツい銃を放り出して床に大穴を開けたら、店が請求書を切ることは間違いない。なので、テイクアウトの受け取りカウンターに乗せておくことにした。おかげでブルネットのウェイトレスをびっくりさせちまったもんだから、チップのかわりにウインクを送っておいた。
「内ポケットの右側にハンターの証明証が入っている」
壁際でボディチェックを受けながら、俺はFBCUの女に伝える。
彼女は手順通りのことを済ませてから、俺の証明証を確認した。
「嘘はついていないようね」
「あんたの名前は?」
「答える必要はないでしょ」
「そんなことないさ。もし裁判になったら必要だろ。そのときに現場に居合わせた警察官のナントカさんに助けられました、ってさ」
できるだけ丁寧に氏名確認の必要性を説明したが、彼女は気に入らなかったらしい。
下から見上げるようにして、俺をにらんでくる。小柄で美人だが、なかなか気の強い性格のようだ。あと、ジャンパーのチャックを閉じられなさそうなほど胸がデカい。
「ギリーよ」
ハンターなんぞと口を聞きたくもない、といった態度をギリーは隠そうともしなかった。それはこちらとらも、おたがいさまだ。
そういう訳なので、さっさと退散して別の店で晩飯を買うとしよう。
カウンターの上から銃を取り、ホルスターに押し込んで、くるりと身を翻す。
「それじゃあ、俺はこのへんで」
「待ちなさい」
「まだ何かあるのか」
「事情聴取で署まで同行してもらうわ」
おいおい。勘弁してくれ。
予定通りなら、俺はこれから晩飯だったんだぞ。
「俺は仕事をしただけだ」
「警察官の前でね」
ギリーは、ふふんと胸をそらす。ちっこいくせにバストと態度がやたらとデカい。
なんとも面倒なことになってきた。
と、同時に腹も立ってきた。
ひとつ、こいつをからかって腹いせといこう。なぁに、気にすることはない。相手は俺たちハンターの仇敵、憎きFBCUの隊員なのだ。
「すると俺は、朝までお嬢さんと二人っきりかってわけか」
「は?」
「夜中に男を退屈させないマナーぐらいは、心得ているんだろうな。お嬢ちゃん」
「ななな……何よそれ!! いやらしいこと言わないで!」
「顔が真っ赤だぜ。取り調べするだけだろ。朝まで」
「くっ……!!」
ギリーの口惜しそうな顔を見ると、多少は溜飲が下がるというものだ。もうひと押しくれてやろう。
「あんたなんかの取り調べを私がするわけないでしょ!」
「そうかい。俺はあんたのその、胸につけてるぶ厚い防護ベストの着心地を試させてくれると思っていたんだがな」
「……こっ、この……」
ギリーは銃を抜きそうな身構えをとったが、思いとどまった。
よしよし。なかなかに真面目な警官ぶりだ。
「あんたの取り調べをするのは夜勤のトニーよ」
「そいつは美人かい?」
「ええ」
すごい目で俺をにらんでくるギリー。
ちょっと、やりすぎちまったかな。
「FBCUで一番の胸囲を誇る隊員よ」
「ほほう」
そいつはたいへん興味深い。これより上がいるのか。そこ就職したい。
ギリーの顔に、してやったりとばかりの笑みが浮かぶ。
「署内トップクラスの汗クサゴリラと、朝まで一緒にたっぷり汗をかくといいわ。ハンターさん」
なにそれ。最悪。
俺の悲痛な心の叫びをかき消すようなサイレンが鳴り響く。
やってきたパトカーが店の前に止まった。
今夜は、どうやら長い夜になりそうだ。
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一人称の練習で書いています。
読みにくい部分が多く、たいへん申し訳ありません。
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