L.レッドウッドパークのファング
穏やかな陽射しの中、私は彼と並んで歩いておりました。
彼とはじめて会ってから、数日後のことでございます。
管理局でふたたび顔を合わせた彼は、『牙獣のよく出る場所を探している』と言いました。
そういうことでしたら、と。
私は相談に乗るふりをして、彼をレッドウッドパークに連れ出しました。用事を言いつけて、ひさめを追い払うところまでは、たいへんうまくいったのです。
うまくいってないところが、ひとつだけ。
そうです。
私、嘘をついてしまいました。
恋は人を狂わせる、などという言い回しがございます。
ですが、まさか自分がそんなあさはかな行いに手を染めるなど、思ってもおりませんでした。
「ましろさん。それで、この公園のどのあたりに牙獣がよく出るんですか」
「にゃあぁぁ……」
変な声が出てしまいました。
彼と、二人きりになりたいだけだったのに。
そのために騙すようなことまで、してしまうなんて。
もう自分を信じることができません。どうして、このような愚かな振る舞いをしでかしてしまったのでしょうか。
「どうしました。ましろさん」
「えぇと、あの……その」
どう言い繕うべきかと悩んでいると、次第に舌が回らなくなってまいりました。
「あうあうあう」
「ああ。なるほど。そういうことですか。つまり、休暇と」
「にゃわわわ……ふぇ?」
しどろもどろになっている私に、彼が笑いかけてくれました。
「僕が毎日、仕事ばかりしているから気を使ってくれたんですね」
「あ、あの、あう……はい」
「ありがとう。ましろさん」
にこりと微笑んで、彼が私の手を取りました。
心臓が。
止まってしまうかと、思いました。
彼は私の手を引いて、そのまま歩き続けます。
「今日はここで、のんびりしましょう」
私は頷いてみたのですが、思うように首が動いたのか、自分でもはっきりとわかりませんでした。
彼の表情から、自信が少しばかり消えていったのです。
「僕と一緒で、お嫌でなければ」
「いっ、いいい、嫌なんてことは、ないですっ」
我ながら必死な声が出てしまいました。
彼は無言で笑顔を見せると、私の手を引いてゆっくりと歩きだします。
それからの時間は、本当に―――言葉にならないほど、すばらしいものでした。
時が過ぎていくに任せて、二人で公園のあちこちを歩いて回りました。
その途中、ときおり彼が問いかける以外は、特に言葉を交わすでもありませんでした。足場の悪いところや、小さな段差を越えるとき。そんなときに、ふと短く声をかけあうだけでございます。
それでも、私にとってはたいへん心地よい時間が流れていったのです。
このひとときが、永遠に続いてくれればいい。
そんなことを、心に願ってしまうほどに―――。
幸せな時だけが満ちる散策を続けると、背の高い木々が見えてきました。
セコイアの樹はレッドウッドとも呼ばれ、この公園の名前になるほど見事なものでありました。その並木を抜けると、池の畔に白塗りのコンサバトリーがあったので、足が自然とそちらに進んでいきます。
コンサバトリーの内部は、植物園になっておりました。
中には色とりどりの草木があったのですが、よくおぼえておりません。だって、繋いだ彼の手を放さないように、懸命になっていたものですから。
そののち私たちは、ガラス張りになった建物の脇にあるベンチに座り、休憩をとることにしたのです。
「今日は、ありがとうございました」
彼の頬に、穏やかな笑みが浮かんでおりました。
「仕事で疲れたら、またここに来ようと思います」
「そ、そのときは……」
口を開こうとした私の声が、震えてしまいました。
「そのときは、ご……ご一緒させても、もっ、もっも……」
続く言葉が、喉から出てきません。
彼から拒まれたら、立ち直れないかもしれない。
大げさに聞こえるかもしれませんが、そのときの私は本当にそういう気持ちでした。もし断られでもしたら、魂まで消えてしまうような、そんな気さえしていたのです。
私の不安を吹き消すように、彼がはっきりとした声で言いました。
「また、ましろさんと一緒に来たいです」
「―――!!」
その言葉を聞いた私は、胸の高鳴りが抑えきれなくなっていました。
自分でも知らないうちに、瞳が潤んで、涙がこぼれてしまいそうでした。
私が彼の目をみつめると、彼も私を見返してきます。
不思議なもので、こういうときの男と女は視線を重ねていると、それだけで心が通じ合わせることができるのではないかと思えるほどでした。
彼の顔がすうっと近づいてきて、私は目を閉じました。
自然と、まるでそうなるのが当然であるかのように、唇が重なりました。
お爺様、ごめんなさい。
ましろは、ふしだらな女になってしまいました。
おたがいにふたたび目を開き、声をかけようとしたそのときでした。
遠くから絹を裂くような悲鳴が響いてきたのでございます。
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一人称の練習で書いています。
読みにくい部分が多く、たいへん申し訳ありません。
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