42.ケインズ銃砲店のミリー
ケインズ銃砲店の店先には、シャッターが下りていた。
「あー……開店は十時からだっけ」
ガラス扉に書かれた営業時間を見てから、端末の時計をチェックする。
時刻は九時四十三分。
開店には、まだちょっと早い。
「待つしかないか」
そう思って、入り口の前で立っていたら奥から人が出てきた。
言わずと知れた、店主様。
もちろん、ケインズだ。俺は笑顔で、手を振って挨拶する。
むこうも揉み手でニッコリ笑う。
だが、ケインズはそのままカウンターに居座り、レジの準備かなんかを始めた。
おい。さっさと開けろ。
シャッターにしがみついてガシャガシャ鳴らすと、ケインズの目線がちらと俺に向く。そこで俺は扉を開ける仕草をしてやった。
ご期待通りに、ケインズがのっそりと入り口の近くまでやってきた。
まったく最初からそうしてくれればいいんだ。などと思っていたら、入り口のガラスをコンコンと指でたたく音がした。
そこにはもちろん、さっき目にした営業時間が書いてあった。
どうせあと十分ちょっとだろ。そのぐらいいいじゃねえか。
俺は空の薬莢を見せたり、銃を取り出して弾丸の装填されていないシリンダーを見せてやった。こっちは弾切れ寸前で困ってるんだ。わかってくれ。
ケインズは軽く頷いたあと、両腕を肩の高さにまで上げて、水平の線を描く。体で描いた十字架のポーズだった。そのまま磔にしてやりたい。
直後、ケインズの両腕がバッと動いて、胸の前で交差する。
そうやって×印を描きつつ、この世の終わりみたいな顔しやがった。マジ許せん。
情け容赦のないダメ出しをくらうと、さすがの俺でもイラついてきた。
シャッターを蹴飛ばしてやろうと思ったところで、店の奥からバット持って出てきたミリーが親父の腰に一撃を加えた。たまらずよろけるケインズ。ざまあみろ。
「ごめんね。ファングさん」
ミリーが扉を開けて、シャッターを上げてくれた。
「中から防犯カメラで見えてるのに、親父ってば『俺が行ってきてやるよ』なんて言いながらファングさんに意地悪するなんて。ほんと最低」
「み、ミリーちゃぁぁぁん……今日は、警報が……出ていて、臨時、きゅ、休業だから……」
床に転がったケインズが、息苦しそうな声を出した。
そりゃまあ、警報も出てるし店なんか開けてられないよな。
弾丸不足があったとはいえ、そんなところに押しかけてしまって、迷惑きわまりない客になってしまった。ちょっと反省する気持ちが湧く。
「休みのところすまない。その警報のせいで、ちょっとばかり追加の弾丸が必要なんだ」
「う、うん……」
ミリーがわずかに口ごもる。
「迷惑だったか」
「ち、違うの。そうじゃないのっ。あのね、あの、ファングさんに話しておきたいことがあって……」
「俺に?」
彼女の目が、床に寝そべる父親を確かめるみたいに、わずかに動いた。
何か、父親の前では言えないようなことなのだろうか。
「何か言っておきたいがあるなら、伝えてほしい。今は、街にわんさかいる牙獣の相手をするために、急いで戻らないといけないんだ」
「あの、あの……」
「ウボァー。どっこいしょ」
ケインズが冬眠明けのクマみたいな声を出して起き上がった。
「弾は俺が用意しとく」
「……パパ」
「大丈夫だ。今度は意地悪なんてしないよ」
思いのほか優しげな口調だった。娘を安心させるためかもしれない。
ケインズが店の奥に去ったところで、俺はたずねた。
「それで? 俺に言いたいことってのは」
「なんだか、悪い予感がするの」
俺は黙って、話の続きをうながす。
「悪い夢でも見たのか。俺のことなら心配いらないぜ」
「ファングさんは大丈夫だって、わかっているんだけど」
ミリーは少し言葉を切ってから、言った。
「私が心配なのは、ましろお姉ちゃんのことなんだ」
「ましろ……?」
ふいに出てきた名前に、俺の胸がちくんと痛んだ。
そういえば、この親子はましろと知り合いだったっけか。
もしかして先日の一件も、ミリーの耳に入っているというのだろうか。
「ましろお姉ちゃんが牙獣に襲われてる夢を見たの、それで」
「心配いらねえ」
ミリーが不安がらないように、俺は笑った。
「あいつは腕の立つハンターだ。けどまあ、もし見かけたらケガしないように手助けしておくよ。それに……」
「それに?」
「いや。ちょっと、あいつとは個人的に話したいこともあってな」
「ふーん。まあ、ましろお姉ちゃんは美人だし、私よりもキレイだし、大人だし。ファングさんが変な気を起こすのも、わからないでもないけど」
なんだか、ふくみのある言い方をされてしまった。
「そういうのじゃないよ。ただ、ちょっとな。ご機嫌を損ねちまったみたいだから、謝りたいと思ってさ。それだけだよ」
「そうなんだ。会ったら、私からも伝えおく?」
「いや。いいよ。こういうのは、自分で伝えないとさ」
「そうね。それがいいと思う」
二人でそんな話をしていると、がしゃりと重い音が店の奥から響いた。
ケインズがカウンターの上に、ベルト状のものを置いた。
12.7mmの弾帯だ。それから、弾倉ポーチがいくつもぶら下がったベストも並べられた。
「おいおい。通常弾じゃ困るぜ」
「バカ言え。おまえさんのAFBBで、ちゃんと工場に発注した品だ。特注品だぞ。こっちへ来い。外し方を教えてやる」
俺は店に入って、カウンターまで進んだ。
「いいか。こいつは特注品と言っただろ。リンクの端にある爪で薬莢のケツの溝をはさんで、落ちないようにしっかり固定してある。この出っ張ったところを押すと、ラッチが外れるって仕組みだ」
「わざわざロックされてるのか? そんな複雑な仕組みのもの、機関銃に入れたら給弾不良おこすんじゃねえの」
「あたりまえだろ。おまえさんが持ち歩くためだけの代物だからな。バカな使い方するんじゃないぞ」
「あいにく銃は、この一丁しか持ってねえんだ。その心配はいらねえな」
携帯することしかできない弾帯って、映画用の小道具かよ。
本来の用途から外れていること、はなはだしい代物だ。とはいえ、今の俺にはありがたい。ポケットに詰められるだけ詰めても、弾が足りなくなることは明白だからだ。
「リンクベルトは使い捨てだが、四本単位で切り離しもできる。重かったら捨てちまえ」
「ずいぶん気前がいいな」
「支払いはツケにしといてやるよ」
「そうくると思ったぜ」
ケインズはベストを取り出した。
厚みは薄めで、脇腹まできっちり覆う作りになっている。ボディーアーマーではなく、防刃用といったところだろうか。
「こいつは上着の下に着ておくんだな。付属のポーチに弾丸も入れてあるし、防弾よりも耐刃性能が高いから、牙獣相手にはこっちのほうがいいだろう」
「こいつはご機嫌だぜ。で、お代は?」
「もちろんツケだ。払うまで死ぬんじゃねえぞ」
「だったら、こいつを担保で預かってくれ」
ジャケットを脱いでベストと弾帯を身に着けたあと、俺は結晶をつめ込んだナップザックをカウンターに置いた。
「委任状を書くヒマがねえから、サインを渡しておくぜ。紙とペンをくれ」
「そんなものいいから、無事に戻ってこい」
「万が一のためだよ。別に、死ぬつもりなんかねえっての」
ケインズは肩をすくめた。
「ミリー。事務室の机にあるレターケースの三番目に、ハンターからの資産譲渡用の書類がある。とってきてくれ」
「なんで、そんなのがお店にあるのよ」
「そりゃおまえ、命知らずを相手に商売するときの知恵ってもんだ。さあ、急いで持ってきてくれ。こいつがさっさと稼ぎに行けるように、手際のいい商人らしいところを見せてやりな」
「わかった。待っててね、ファングさん」
ミリーが店の奥に走っていく。
ケインズは娘の背中を見送ると、親指で外に出るようにうながした。
「書類は待たなくていいのか」
「ありゃ嘘だ。それより、頼みがある」
「頼みって?」
「今日はな、本当は臨時休業じゃなくてな」
ケインズは、重い息を吐き出すように言った。
「ましろお嬢さんから、今日は店を閉めておいたほうがいいって言われてたんだ」
「またかよ」
親子そろってましろのことばかり口にするものだから、ついそんな言葉が出ちまった。
「また、ってなんだ」
「なんでもねえ。それで?」
「お嬢さんは何か知ってるんだろうな。けどまあ、それは俺にはわからねえ」
「わかったわかった。頼みってのはそいつを俺に手伝え、ってことか」
「逆だ、逆」
髭面がプルプルと左右に振られた。
「ましろお嬢さんの邪魔はするな。おまえは牙獣でも撃ってろ。だから、それだけ弾を用意してやったんだよ」
ひどい言い草だ。
俺のこと、お邪魔虫みたいに言いやがって。
俺たちは話しながら通りに出た。バイクを止めた店先まで戻って来たときに、ケインズが手に持っていた紙袋を押しつけてくる。中を見ると、ホイルに包みが入っていた。
「なんだこりゃ」
「俺のお手製サンドイッチだ。どうせ、どこも店なんかやってないだろうから持っていけ。ランチタイムになるまで、開けるんじゃないぞ」
「ピーナッツバターにレタス一枚みたいな、貧相なもんじゃないだろうな」
「そいつは開けてのお楽しみだな。ほら、さっさと行け」
店のほうから、『書類なんてどこにあるのよ』とミリーが声を響かせた。
そろそろ退散したほうが良さそうだ。
どうせ、やることは山ほどあるわけだし。
「じゃあな。店に牙獣が押し寄せてきたら電話してくれ。すぐ戻ってくる」
「おまえの世話にはならねえよ。銃も弾丸も売るほどあるんだ」
「そうかい。またな」
俺は苦笑を残して、バイクを走らせた。
走りながらミラーを見ると、店を飛び出してきたミリーとそれを押しとどめるケインズの姿が見えた。次に会ったときには、土産のひとつも渡してやれるといいんだが。
ひとまず、行き先はクーゲートブリッジだ。
橋さえ渡れば、レッドウッドパークまではそう遠くない。
無人の街を走り抜けていると、ふいにましろの泣き顔が目に浮かんだ。
あの親子が二人して言うもんだから、記憶が刺激されたらしい。
「会う前に死なれでもしたら、寝覚めが悪いってもんだ」
ケインズには悪いが、ましろをもし見かけるようなことがあれば、声かけるぐらいのことはさせてもらおう。
「いや。会ったら、ちゃんと謝るんだぞ。謝れよ、俺」
顔を見たら、とっさにいつもの憎まれ口が出てこないともかぎらない。
そうならないように、俺は今のうちからしっかりと体に教え込んでおくことにした。
---------------------------------------------
一人称の練習で書いています。
読みにくい部分が多く、たいへん申し訳ありません。
---------------------------------------------
・校正をなさってくださる方へ
お手数ですが、ご指摘等をなさっていただく際には、下記の例文にならって記載をお願いいたします。
(例文)
----------
>~(←ココに修正箇所を引用する)
この部分は、(あきらかな誤用orきわめてわかりにくい表現or前後の文脈にそぐわない内容、等)であるため、「~(←ココに修正の内容を記入する)」と変更してみてはいかがでしょうか。
----------
以上の形式で送っていただければ、こちらで妥当と判断した場合にのみ、本文に修正を加えます。
みだりに修正を試みることなく、校閲作業者としての節度を保ってお読みいただけると幸いです。
---------------------------------------------




