41.電話ごしのヴェロニカ
地面の上に、数十本分の牙の残骸が転がっていた。
「うーし。大漁、大漁」
バイクで走ってる途中で出くわした、牙の騎士が四匹ほどいた。
あまりに堂々と路上を行進していたものだから、俺は迷わず狙い撃ちにした。
獲物はこいつらだけではなかった。
さっきから、数百メートル移動するごとに牙獣の小集団と出会うので、そのつど弾丸をお見舞いしてやった。
「いやぁ、うめえなあ。これ」
拾った結晶をナップザックに投げ込みながら、うめえうめえと声が出てしまうありさまだ。
「これ換金したら、事務所の家賃一年分ぐらいになるんじゃねえか」
ぱっつんぱっつんに膨らんだナップザックを見ているだけで、気分が盛り上がってきた。
ここ最近の稼ぎもあわせると、かなりの額になりそうだ。一気にまとめて管理局まで届けたら、職員がどんな顔するか見てみたい。
さて。もうひと稼ぎに行こう。
と、バイクに跨ったところで、一台のパトカーが通りのむこうからやってきた。
「おい。おまえ、こんなところで、何してるんだ」
ハンドルを握っていた警官が、窓から顔だけ出して問いかけてきた。
「特別警戒警報が出てるんだぞ。端末を見てないのか?」
「えっと。俺、ハンターなんすよ」
「ハンターでも危険だから避難しろ。公民館だ。場所はわかるか」
俺は頷いた。
そりゃまあ、たしかに普通のハンターなら、あの牙の騎士に太刀打ちできないってのはわかる。
一対一で、となれば、なおさらだ。
それが可能なのは、俺の見たところ千人に一人ぐらいか。チームでも組んでいれば話は別だろうが、そういうのは一匹狼の多いハンターではまず見かけない。
そういうわけで、この警官たちが俺に避難しろと言うのも、わからないでもなかった。
「じゃあ、俺はこのへんで」
いちいち説明するのも面倒なので、俺はその場から去ろうとした。
「ちょっと待ちなさい」
助手席に座っていた警官が、ふいに身を乗り出してきた。
何か俺に、不審な点でもあったのだろうか。
べつだん心当たりはないが、やや不安になる。
警官が厳しい表情で俺を見てから、おもむろに口を開いた。
「法定速度は守って走るようにな。こんなときに事故でも起こしたら、救助がくるかどうかもわからんぞ」
「あ、はい」
「他に逃げ遅れている連中をみつけたら、避難場所を教えてやってくれ。気をつけて走れよ」
それだけ言って、パトカーは走り去った。
顔はおっかないが普通にやさしい警官だった。あんな人もいるんだなあ。
などと感心はしたものの、指示に従うわけにはいかないのがつらいところだ。
「ごめんな。お巡りさん」
遠ざかるパトカーを見送り、俺はバイクを走らせ―――ようとしたところで、ポケットの中の端末がすごい勢いで震えた。
メッセージを送信してきたのではなく、直電で鳴らしているらしい。
相手は誰かと思ったら、管理局からだった。この忙しいときにわざわざ電話をする余裕があるだなんて、まったく緊張感に欠けた部署である。
「はいはーい。こちらいつもニコニコ笑顔で営業、オセロットハンター事務所所属のファングでございます」
『この忙しいときに、ふざけないで』
「なんだ、ヴェロニカか。俺になんか用か?」
『残念だけど、デートのお誘いじゃないのよ』
「冗談はいいから、本題に入れよ」
『かわいくないわね。じゃあ、手短かに言うわ。警察から、あなたに直接、ご指名が入りました。今すぐレッドウッドパークに向かってちょうだい』
「警察から?」
なんだって警察が、俺に用があるんだ。
いやまあ思い当たるっちゃ思い当たるんだが。
この前の演習のときのことだ。
たぶん、俺を大型の牙獣に対して有効な道具として扱いたいのではないか、という気がする。気がする、というよりもほぼ確実に、それしか思い浮かばないのだが。
善良な一市民としては、もちろん協力すべきだ。
しかし、それはそれとして気が進まないという気持ちがある。だって俺、七十二時間も拘束されたんだぜ。
もちろん俺のそんな事情は、管理局サイドの人間には関係ないらしい。
『いい? 公園についたら、管理局の指示で来たって伝えるのよ。そうすれば、むこうにはわかるはずだから』
「正直、行く気しないんだけどさ」
『だったら、好きにするといいわ。私は自分の仕事をしたから、関係ないもの』
電話が切れた。
ヴェロニカ姉さんは、ずいぶんご機嫌斜めらしい。
そりゃまあ、出勤してすぐの時間に特別警戒警報だのといった、面倒事があれば機嫌も損ねようというものだ。
さて、俺はどうするべきか。
このまま知らんぷりを決め込んでもいいのだが、ここらで警察に恩を売っておくのも悪くない。また収入を減らされてはたまらんし。
一般市民として協力的なところを見せておけば、これ以上は悪いことにはならないだろう。
それに警官が出回っていてくれるおかげで、俺があちこち駆け回る必要もなさそうだ。街の東側をうろつく牙獣のことは、FBCUの連中にでも任せておこう。
そんでもって、だ。
このまま、まっすぐ指定の場所にむかってもいいのだが、ひとつだけ気がかりなことがあった。
ポケットに詰めた、残弾の数が心許ない。
不本意ながら、予想していたよりも弾丸の消費が激しい。今日の事態を知らされたのが、昨日の日没後だったから準備しておく時間がなかったというのもある。
「ちょいと寄り道してから行っても、まあ文句はねえだろ」
なじみの銃砲店にむかうべく、俺はバイクを全力で走らせた。
お巡りさん、ごめんなさい。
今からちょっとだけ速度オーバーします。
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一人称の練習で書いています。
読みにくい部分が多く、たいへん申し訳ありません。
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