40.裏通りのメイプル
「こっち!」
サラが指で行き先を示しつつ、どんどん走っていく。
まるでメイプルのいる場所が、わかっているみたいだ。
いやまあ、俺だって周囲の被害状況からある程度は察することはできる。道端にあるゴミ箱だのがあきらかに蹴散らされていれば、ああこっちだな、ぐらい誰でもわかるだろ。
けれど、それにしたってサラの判断は速い。
どうやら俺以外のこの街の住人は、探知機でも内臓しているらしい。俺もミララメラから、牙獣の居場所を察知する方法でも教わっておけばよかった。
右に左に、と曲がり角を三回ほど折れただろうか。
ふいに視界がパッと開けて、俺たちは裏通りに出た。
「メイプル!!」
サラの視線を追うと、今まさに騎士の姿をした牙獣がメイプルに剣を振り下ろすところだった。
メイプルは非常階段の柱に跳びついた。細いポール部分を両手でつかむと、逆上がりの要領で回転する。その動作のついでに、牙獣の攻撃を躱していく。
半回転したところで体をねじると、足先が上に向いた。膝関節と足首を垂直に立った柱にひっかけると、姿勢が固定される。
なんだ、その動き。ポールダンスか。
柱にぶら下がったまま、メイプルがナイフを投げる。
投じられた刃物は狙いあたわず馬の頭に飛んでいくが、額からにゅっと伸びた牙が刀身をはじく。牙獣のツラがユニコーンみたいになった。
「馬野郎!! その女から離れろ!」
怒鳴りながら三回、トリガーを絞る。
バスッ!! バスッ!! バスッ……!
小気味よい連射音に続いて、キンキンキンと鋭い響きが路地裏に鳴り渡る。
三発の銃弾は、剣、盾、角の三ヶ所で防がれた。
がら空きになっていた前足のつけ根に最後の一発をぶちこむ―――が、そこでも無造作に生えてきた牙が防御壁がわりになって防がれた。
おいおい。騎士の格好してんだから、もうちょっとそれっぽい動きをしろよ。
空中にいるメイプルが、俺の名を呼んだ。
「ファング!!」
「よう、メイプル。清らかな乙女は大変だな。ユニコーンに目をつけられるなんてよ」
俺は手指の感覚だけでラッチを押し込み、エキストラクターを操作した。
視線は牙獣に据えたまま、地面に落ちる薬莢の響きを耳にとらえる。
「おまえの相手はこっちだ。よそ見するんじゃねえぞ」
言葉が通じないことをわかっていながら、俺はそう言わずにはいられなかった。
ぶら下がって無防備なメイプルにやつの注意が向かないように念じつつ、左手でポケットを探る。
指の間にはさんだ四発の銃弾を見せつけるようにして、俺は言った。
「こいよ。こいつを銃に込める前に俺を倒せたら、おまえの勝ちだ」
牙獣が前足で二回、地面を軽く蹴った。馬っぽい。
俺はゆっくりと歩を進め、やつの位置を円の中心に据え、馬体の左に回り込む。
相手の動きは、もっと単純だった。
右手から生えている剣の形をした牙が突きこまれてくる。
俺の上半身がスウェーで攻撃を避けた、と同時に指先が弾丸を一発、装填した。
続けざまに、今度は馬体の左右から伸びた二本の牙が、ハサミみたいに変形した。
思わず苦笑が浮かんだ。こいつらは騎馬の姿をしていても、見た目を真似ているだけのようだ。
なりふり構わない攻撃に、俺はじりじりと後退していく。
―――と、背中が壁に触れた。
俺が追いつめられたと見たのか、牙の騎士が猛然とつっこんできた。
地面を蹴って突進してくる相手に対し―――銃を撃つか、あるいは避けるか。
俺の脳が、その判断をするコンマ数秒の刹那、サラの声が響いた。
「ファングさんから離れろ!! 馬野郎!」
掃除機の本体をリュックみたいに背負い、ホースを両手で構えるサラ。
次の瞬間、ノズルの先端から爆発的な光が放たれた。
筒の先からバビッと迸り出た光条が、路地裏を白く染めるほどまばゆく輝き、牙獣を貫く。
黒い騎馬は、一撃で粉々に砕け散った。
「やった!! やった、やった! これ、ちゃんと動くよ! メイプルぅ!」
よほど嬉しかったのかサラははしゃいで、その場でぴょんぴょんと跳ねる。
なんだよ、その超兵器。
せっかくメイプルの前でカッコイイところを見せようと思っていたのに、俺の面目丸つぶれである。
まあ、サラを相手に僻んでもしょうがない。
地面に落ちて紫煙をくすぶらせている牙の残骸に、銃口をつき入れて探った。
中から出てきた青い大粒の結晶を拾い、下りてきたメイプルにぽいと投げて渡す。
「無事でよかったな。今日はそれ持って帰れ」
結晶を受け取ったメイプルが、俺の前までやってきた。
ところが彼女はそこで立ち止まらずに、さらに一歩前進する。
え、顔近い。
と思ったとたんに、グーパンで殴られた。
「いてえ」
「こんなところまで、サラを連れてくるからだ」
メイプルが目を鋭くさせて、俺をにらんだ。
にしても、いいパンチだった。コンフー・マーキナが首を動かしてダメージをそらしてくれなかったら、ぶっ倒れていたかもしれない。
痛む頬をさすりながら、怒っているメイプルを見返す。
「俺はサラを足手まといだとは思っていない。おまえも、そうじゃないのか」
そう言ってやったら、今度は襟首をつかまれた。
やれやれ、またか。もう一発殴られる覚悟をしたところにメイプルの顔がさっきよりも近づいてきて、唇にやわらかいものが触れた。
呆然としている俺に、メイプルは言った。
「助けてもらった礼だよ」
つかんでいた俺のジャケットから手を放し、メイプルがサラに近づいていく。
「ねえ!! 今ちゅーした! ちゅーしちゃった!? ちゅーしたの?」
メイプルは上着を脱ぐと、ジッパーを閉じてからサラの頭にかぶせた。
上半身をすっぽり包んだ状態にしてから袖を結ぶと、そのまま小柄な少女の体を小脇に抱えて運んでいく。手際のいい誘拐犯みたいだった。
「もがー、もあー」
すたすたと歩いていくメイプルに抱えられたまま、サラが足をバタつかせる。
俺は二人の後に続いた。
「あー、あのな。メイプル」
言いたいことの整理がつかなくて、俺は口ごもった。
だって俺、女とキスするなんて、はじめてだったんだぞ。
もうちょっと、なんかこう、甘ったるい空気だとか。ラブラブな雰囲気だとか。そういう色々があってもいいだろ。全体的にイチャイチャ感が足りてない。
いや。今は、そんなことを言ってる場合じゃないか。
俺はメイプルに、最優先で言うべきことを伝えた。
「いいか。今日は、さっきみたいな大物の牙獣が街をうろつくらしい」
「理由は?」
「理由なんて知らねえよ。知り合いから、そう聞いたんだ。詳しくは説明できないけど、とにかく街をうろつくのは危険だ、ってさ」
うまい言い方が思いつかなくて、理屈までは伝えられそうになかった。
「とりあえず今日はもう教会に戻って、バルセラを手伝ってやれ。あそこにいる子供たちを守るのにも、人手がいるだろ」
「わかった」
メイプルはすんなり理解してくれた。
物分かりがよくて助かる。
あとなんか、言っておくことあったかな。
「あと、そのな。俺、女とキスするのなんか、はじめてで……」
「もがー、もわあー!!」
「サラ。静かに」
俺の話は、サラのわめき声で遮られてしまった。
「なんか言った? よく聞こえなかったけど」
「なんでもねえよ」
胸の中に生じた、モヤモヤする気持ちをひとまず脇に押しやる。
今は他に、やるべきことがある。
一匹でも多く、牙獣を狩らなければならない。
今日はとびきり、忙しい一日になりそうだ。
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一人称の練習で書いています。
読みにくい部分が多く、たいへん申し訳ありません。
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・校正をなさってくださる方へ
お手数ですが、ご指摘等をなさっていただく際には、下記の例文にならって記載をお願いいたします。
(例文)
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