4.管理局のヴェロニカ
仕事に励んでいる間に、日が暮れていた。
ようやく手の空いた俺は、管理局の門をくぐった。
仕事の斡旋そのものは通報にもとづいて警察からハンター個人に直接行われるが、そことは別にハンターを管理する部署がある。
ハンターの登録。保険加入の案内。その他、法的な手続きのすべて。銃砲店の紹介。蒼牙結晶の換金―――。
それらが管理局の役目だ。
まあ実際のところ、登録だなんだというのは一回顔を出せばそれで済む。
しかし、金の受け取りだけはそうもいかない。一応、郵送の制度もあるが、使っている者はほとんどいないのが実情だ、と聞いたことがある。
『―――二十七番の番号札をお持ちの方、窓口までお越しください』
管理局の待合室で雑誌を読んでいた俺に、お待ちかねの呼び出しがかかる。
小躍りしたくなりそうな気分を抑えて、窓口に向かう。あまりに嬉しかったので支払い担当のブロンド美人に、ウインクぐらいはしていたかもしれない。
「金額のご確認をお願いします」
窓口の横にあるモニターが、引き渡した結晶から換算された金額を表示する。
その数字を見て、俺は思わず顔がニヤけそうになるのをこらえた。
「すごい稼ぎじゃない、ファング」
顔見知りのブロンド美人が微笑む。
俺としては、彼女と一緒にダンスでも踊り出したいぐらいのテンションになっていた―――ここでそんなことをしたら、怒られそうだが。
「ありがとう。ヴェロニカ」
「よかったら、このあとお食事に誘ってくださらないかしら」
今の俺なら、社交辞令を聞かされても悪い気はしない。何事にもおおらかな気持ちで対応できそうだった。
「予算の使い込みがバレると、ボスに大目玉をくらっちまうんだ」
「何よ、それ。意気地がないのね」
「身元保証人には逆らえないさ。悪いな」
「一度ぐらい誘ってくれてもいいじゃない」
ヴェロニカが食い下がる。
俺のわずかな稼ぎを狙っているのか。正直、そこまで魅力的な稼ぎじゃないと思うぞ。
「故郷の母親が、そろそろ身を固めろってうるさいのよ」
「ヴェロニカお姉さんなら、よりどりみどりだろ」
「一番のお気に入りは、まったくなびいてくれないの。会うたびに仕事、仕事って。私のことなんか気にもかけてくれないわ」
そりゃお気の毒。
話しながら端末のバーコードを読み取ってもらう。
入金確認。今なら窓口嬢のグチぐらいには、つきあう余裕もあるってもんだ。
「このままじゃ私、お婆ちゃんになっちゃうわ」
「そいつはよろしくないな。俺がヴェロニカの立場だったら、そのお気に入りのケツを蹴飛ばして、市役所に婚姻届けを出させるんだがな」
「お尻を見せてくださる」
なんで俺? もしかして、やつあたりか。
女性にとって、婚期の問題はかなりデリケートな話題であるらしい。
またぞろ不用意な発言をして、雷でも落ちてはかなわない。危険からはさっさと逃げるにかぎる。君子危うきになんとやら、だ。
ところが、別れの挨拶を告げるより先に、窓口のむこうから伸びてきた手が俺の手に重なった。
「待ってよ。大事な話があるの」
「すまないが、婚姻制度の問題については俺じゃなくて―――」
「違うってば。あなたの仕事と関係ある話」
ヴェロニカは真剣な表情だった。
それに引かれたわけではないが、俺は話を聞いてみることにした。
「最近の牙獣の発生場所について、データが検証されてることはご存知?」
「もちろん。俺はハンターだぜ」
「さすがね、ファング。でも、警察内部の動きまでは知らないでしょう」
無言で話の先をうながす。
「近いうちにFBCUが動くわよ」
その言葉を聞いて、俺は眉をかすかに動かした。
警察の牙獣対策部隊―――通称、FBCUはハンターの商売敵だ。
なにしろ俺らの飯の種を奪っていってしまうのだから、いわば犬猿の仲である。FBCUの連中と口をきくぐらいなら、パトロール警官と仲良く写真撮影しろとでも言われたほうがずっとましだと、すべてのハンターがそう答えるだろう。
つまり、FBCUの登場を歓迎するハンターはいない。そいつらが出てきて牙獣を倒してしまえば、俺たちハンターは全員そろって明日から職業安定所に通うことになる。
とはいえFBCUが動くような事態は、めったにない。
あるとすれば、大規模な避難誘導が発生する状況だとか、政府施設など民間人が立ち入ることのできない場所に牙獣が出た場合ぐらいだ。
ただし、この情報が本当ならば、話は違ってくる。
「出動要請もないのに、FBCUが動くのか」
「動くのよ。ここからは、とびっきりの極秘情報なんだから」
ヴェロニカはそこで口を閉ざした。まるで、俺の言葉を待っているかのように。
「それで、どんな極秘情報なんだ」
「ただでは教えられないわ」
「わかったわかった。俺の知り合いに、銃砲店を経営している子持ちのやもめがいるんだが―――」
「未婚の知人はいないのかしら」
「行きつけのダイナーで働いている料理人に聞いてみよう」
「ハンターの知り合いに確認してほしいのだけれど」
それは困った。
べつに自慢するわけじゃないのだが、同業の知り合いと言えばなぜか女しかいない。男のハンターは俺の顔を見ると、だいたい嫌そうな顔をするから仲良くなるのは難しい場合がほとんどだ。
「あいにくだが、男の同業者に知り合いが少なくてな」
「そうじゃなくて……ああもう。この鈍感」
俺は肩をすくめた。
どうやら極秘情報とやらは聞けそうにない。
あきらめて夕食の店探しでもしようかと思ったところで、ヴェロニカがふてくされた顔で言った。
「牙獣の出現予測システムが近々、運用される計画があるのよ」
「ほう」
そいつは、すごい情報だ。
俺が身を乗り出すと、アクリルボードごしに彼女も顔を寄せてきた。この邪魔者がいなければ、キスのひとつでもしてやりたいのだが。
「そんなものができたら、俺たちハンターは失業しそうだな」
「それが、まだ完全じゃないみたい。それでテストを兼ねて、ってわけ」
「いつだ?」
「いつって?」
「いつから運用が開始されるんだ」
「そこまでは知らないわ」
ヴェロニカは唇をとがらせた。なかなかにキュートな表情になっていた。
「でも、そう遠くないはずよ。少なくとも一週間かそこらぐらいには」
「なぜわかる」
「FBCUのスケジュールに演習の予定があるんですって」
「どこからの情報なんだ」
「私、あそこの隊員に言い寄られて困っているのよ」
「そいつに婚約指輪をねだったりしないのかい」
「冗談でしょ。あんな汗クサゴリラ、ご免だわ」
俺は胸の中で、純朴な警察官に同情した。
大丈夫。人は見た目じゃないよ。
話はそれで終わりのようだった。
しかし、ヴェロニカは俺を解放する気がないようだ。なぜなら袖口をつかんで、アヒル顔になっている。なかなか愛嬌があってよろしい。
「ねえ。いいこと教えてあげたんだから、デートに誘ってよ」
「なあ、ヴェロニカ」
「何よ」
「おまえさんほどの女が、そんなにあせって男を探す必要ないと思うぜ」
「どうしてそう思うの」
「綺麗な手をしてるからに決まってるだろ」
俺の袖をつかんでいた手がサッと引っ込んだ。
事務仕事のせいでデコレーションすることもできない指先は、連日のキーボード作業で酷使されているためなのか、桜色の爪がだいぶ短くなっていた。
「よしてよ。こんなボロボロの爪、見せられたもんじゃないわ」
「ヴェロニカ。その手をバカにするやつがいたら、すぐに俺を呼べ。俺がそいつの歯を上も下も残らず全部へし折ってやる。絶対にだ」
ヴェロニカは泣きそうな顔で言った。
「あんたって、世界一のバカだわ」
親身になってやったというのに、ひどい言い草だ。
さて。長話もそろそろ打ち切らないといけない。
なぜなら、後ろにいるおっさんが、今にもブチ切れそうな顔で俺を見ているからだ。時刻もそろそろ晩飯時が近いし、よほど腹を減らしているのだろう。もしかすると、二十八番の番号札でも持っているのかもしれないが。
「そろそろ行くよ」
「ねえ。待ってよ」
「俺、後ろの男に狙われているんだ」
「それって本当なの?」
「冗談だ。やつの支払いをちょろまかしたりするんじゃないぞ」
「そんなことしないわよ」
ヴェロニカは苦笑した。
彼女の顔に笑顔が戻って、ひと安心。
口座に振り込みされた金額を見て、俺もご満悦。
世はなべて事もなし、ってなもんだ。
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一人称の練習で書いています。
読みにくい部分が多く、たいへん申し訳ありません。
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(例文)
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