表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブラッドファング  作者: ことりピヨネ
48/72

38.俺の部屋まで来てくれたリタ

 トン、トン。


 ドアを軽くノックする音で、俺は目を覚ました。


「んむ……開いてるぞ」


 扉がわずかに開いて、隙間から誰かが顔をのぞかせた。


「おはようございます、ファングさん」

「―――!?」


 まったく予想してなかったリタの出現に、俺は気が動転しそうになった。


 店はどうしたんだ、店は。


「待ってくれ。目は覚めたが、まだ服を着ていない」

「えっ。あ、はい。えっと……見てても?」


 俺の着替えなんか、見てどうするんだよ。


「ドア閉めて。外で待っててほしい」

「はい」


 ぱたり、とドアが閉まったので俺は服を床から拾い上げた。


 服を着ながら、昨晩の出来事を思い返す。


 昨晩はミララメラに帰れと言われて、そのまままっすぐ帰宅した。

 正直、いいように扱われているところは気に入らなかったが、あいつも悪意があるわけじゃないことはわかってる。


 なので、素直に従うことにした。

 やつの言うとおり、本当に牙獣が街にあふれて、そうなってから後悔しても遅い。もし嘘だったとしても、俺が騙される程度で済んだほうがずっとましだ。


 しかしまあ、嘘と言うことはまずあるまい。

 ミララメラのやつ、一万年も生きているなどと言うわりに面倒見がいい、というか、よっぽどのお人好しじゃないかと思わせるようなところがある。


 あいつを信じて損するようなことがあっても、納得できる。

 友達って、そういうもんだろ。 


「それはそれとして、だ」


 着替えを終えた俺は、扉を開けた。


「どうしてリタがここに? オセロットはどうしたんだ」


 ドアの脇で壁に背を預けていたリタが、小首をかしげる。


「ええと、さっきお店についたとき、ちょうどオセロットさんとすれ違ったんですよ。そしたら、ファングさんが寝てるから起こしてほしい、って頼まれました」


 その言葉を聞いて、俺の眉がヒクついた。


 あいつは何やってんだ。

 昨日、帰ってきたときに『明日は家でじっとしてろ』って言っておいたはずだぞ。


 それに、朝になって俺が寝ていたら起こしてほしいとも、たしかに頼んだ。

 だからって、赤の他人に頼むことはないだろ。しかも、カギを開けっ放しにして出ていったってことか。もっと防犯意識高めろ。


 俺の顔を見たせいか、リタの表情がちょっと不安そうになった。


「あの、ご迷惑でしたか」

「いや。そんなことはないよ」


 時計を見ると、まだ六時を少し回ったところだ。


 まずはニュースでも確認するべきか。

 今日は何が起きるか、はっきり言ってわからん。これだけつかみどころがないと、状況にあわせて臨機応変にやっていくしかなかろう。


「店を開けるには、まだ時間があるだろ。コーヒーでも飲んで行くか」

「い、いいんですか?」

「ああ。いつもコーヒーを飲ませてもらってるからな。たまには俺が用意しよう」

「じゃあ、ひとつだけお願いが……」

「ン?」


 リタは唇をムニムニと動かしてから、ようやく口を開いた。


「ファングさんのお部屋で飲みたいです。い、一緒に……」

「椅子、ないけど」

「ベッドに並んで座って、とか」


 なんだそりゃ。


 まるで恋人同士みたいだな。

 妹みたいに思っていたが、この子もそういうのにあこがれるお年頃ってことか。


 いいぜ。俺でよければ彼氏ができたときの練習ぐらい、受けて立ってやる。


「ダメ……ですか」

「いいよ。部屋で待ってな」

「はいっ!」


 リタは元気よく返事をすると、俺の部屋に入っていった。


 あんな何もない部屋で喜んでくれるなんて、なんて良い子だろう。彼女の彼氏になる男は、財布の中身の使い道に困るに違いない。


 俺はコーヒーの用意をして、トレーに乗せて運んだ。


「はいよ。お待たせ」

「わーい。ありがとうございますっ」

「店のコーヒーと違って、安物だけどな」

「そんなことないですよ。ほら、いい香り」


 カップを手にしたリタが、コーヒーの香りを味わう。


 俺も真似てみた―――やっぱ、いつものだ。がっかりテイスト。

 今度オセロットに、来客用に上物の豆を用意しておくべきではないかと提案しよう。


 それはそれとして、今日のことをリタにも告げておいたほうがいいのだろうか。

 何か危険があるといけないから、軽く伝えておくぐらいはしたほうが安全かもしれない。


「なあ、リタ」

「はい?」

「今日は、できるだけ誰かと一緒にいたほうがいいぞ。特に、出歩くときは」

「それなら、ファングさんと一緒がいいな」

「いや。今日は仕事が」


 リタの頭が、あからさまに項垂れた。


 いかんいかん。彼氏ができたとき練習をするんだった。


「今日は仕事で手一杯だから、別の日ならいいぜ」

「そ、それじゃあ……」


 コーヒーをみつめながら、リタが言った。


「こ、今度、私が学校も、お店も休みのときに……で、デートしてくださいっ」 


 デートの練習なんてして、この子はどうするつもりなんだろう。


 ああいうのは、こう、なんていうか。

 これから何が起きるかわからないけど、好きな人と一緒ならなんでも楽しいね、だとか。

 ドキドキしたり、ワクワクしたり、そういう気分を味わうものだと思うのだが。いや俺だって、そんな経験ろくにしたことないけどさ。


 好きでもない男とデートしても、かえってがっかりするんじゃないだろうか。

 それともあれか。体験版とか、経験値とか、そういう概念か。ゲーム世代的な慣習のひとつとして、デートしておきたいみたいなものなのだろうか。


「わかった。じゃあ、休みの日が決まったら……」

「明日でお願いしますっ!!」

「はい」


 すごい勢いだったので、思わず頷いてしまった。


 まあ、いいか。

 たぶん、明日はきっと平和に過ごせる日常が戻ってくるに違いない。


「あ。いけない。もうこんな時間」


 リタが自分の端末を見ながら言った。


 時刻は四十分を過ぎていた。

 七時に開店する店の準備をするには、ちょうどいい頃合いだろうか。


「どうしよう。まだ全部飲んでないのに」

「かたづけておくよ。貸しな」


 俺はカップを受け取り、ぐいと呷った。


「……え? え。あ、あ……」


 リタが目を白黒させる。


「わわ、私もファングさんのコーヒーをかたづけますっ」


 俺の手からカップを奪い去ったリタは、コーヒーの残りをぐいっと飲んだ。わざわざカップを半周だけ回して、俺が口つけた飲み口にかぶりつくみたいな勢いだった。


 一気に飲んだあと、リタはのぼせたような顔でカップを俺に渡す。


「こ、こここ、コーヒーごちそうさまでしたっ。それじゃ」


 頬を真っ赤に染めながら、それだけ言うとリタは部屋を飛び出していった。


 コーヒー熱くなかったかな。舌でも火傷してないだろうか。


 そんな心配をしていると、俺の端末が盛大に震えた。

 そういえば、寝る前にバイブレーションにしておいたままだった。


「ん……?」


 着信と同時に来たメッセージを見て、俺は大急ぎで部屋を出て、バイクに飛び乗った。


 緊急事態だ。

 さっそく朝から、のんびりしてはいられなくなってきた。


---------------------------------------------

 一人称の練習で書いています。

 読みにくい部分が多く、たいへん申し訳ありません。

---------------------------------------------

・校正をなさってくださる方へ

 お手数ですが、ご指摘等をなさっていただく際には、下記の例文にならって記載をお願いいたします。


(例文)

----------

>~(←ココに修正箇所を引用する)

この部分は、(あきらかな誤用orきわめてわかりにくい表現or前後の文脈にそぐわない内容、等)であるため、「~(←ココに修正の内容を記入する)」と変更してみてはいかがでしょうか。

----------


 以上の形式で送っていただければ、こちらで妥当と判断した場合にのみ、本文に修正を加えます。

 みだりに修正を試みることなく、校閲作業者としての節度を保ってお読みいただけると幸いです。

---------------------------------------------

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ