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ブラッドファング  作者: ことりピヨネ
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33.クララタウン通りのミララメラ

 日没から一時間後。


 俺はクララタウン通りの路地裏で、ゴミ箱の中に身を潜めていた。


 どうして、こんなことになってしまったのか。

 まずは状況を整理しよう。


 路地裏の周辺には、騎士の姿をした牙獣が七匹いる。

 もうこれだけで絶体絶命ということが、おわかりいただけるだろうか。


 そもそもの発端は、街の西側で仕事をするようになった数日前。

 俺はましろの家、彼女が祖父と暮らす道場があるという、このクララタウン通りをうろつくようになっていた。


 依頼がこのあたりに集中したというのもあるし、ついでにましろから牙の騎士が八本牙であるという情報についての確認が行うことができれば、と考えたからだ。


 でもまあ、いつものあれだ。

 なんか、ましろと直接、顔を合わせたくなかったので。


 まあ、そういうわけだけど会ってしまったら仕方がない、ぐらいの気持ちでこのへんを行ったり来たりを繰り返していた。


 それで、その状態のまま数日が過ぎた。


 そしたら今日、すっかり日も沈んで、そろそろ帰ろうとしたら、だ。


 馬に乗った騎兵みたいな牙獣と出くわしたわけである。


 しかも、全部で七匹。

 囲まれて、追い回された俺は、このゴミ箱の中に逃げ込んで、今にいたるというわけだ。


 いやもう、これ本当にどうしたらいいんだろうな。


 なにしろやつらが本当に八本牙のだろうか、とかそんなことを確認する余裕もなく、この状況だ。

 やつらがここからいなくなるまで静かにしてるか、おとなしく助けを待つかしかない。そんな対応しかとれない感じであった。


 ハンターとしては情けないが、いっそ端末の緊急通報を鳴らしてFBCUに通報しようかなと思い始めたところで、ポケットから振動が伝わってきた。


「なんだよ。こんなときに」


 着信はドクター・アリエルからだった。


 即座に電話の電源を切った。


 このまま放置してたら、ずっと鳴らされるだろう。バイブレーターのかすかな音で、外の連中に気づかれないともかぎらない。


 念のため、俺はそっとゴミ箱のフタを細く開けてみた。


 黒いものが三つ。

 銀色のひらめきがかすかに見えたと同時に、視界に三本の赤い矢印が灯った。


「―――クッソがぁ!!」


 俺はゴミ箱のフタを跳ね上げ、外に飛び出した。


 ……ガギャン!


 直後に三本の牙がゴミ箱をスクラップに変える。町内会のみなさん、ごめんなさい。


 転がり出た位置は、ちょうど相手の真横だった。


「くたばれ!」


 二発を撃ったが、一発は牙ではじかれた。


 もう一発は当たった。

 黒い馬体のど真ん中に12.7mmが命中すると、牙の騎士の一体がパッと黒い塵を散らして消えた。


 よし。こいつらは倒せる。

 そうとわかれば、恐れることもない。と言いたいところだが、二体を同時に相手にするのはちと厳しい。


 防御をコンフー・マーキナ任せにして撃ちまくるという手もあるが、それはあくまで最後の手段だ。

 というわけで俺は装弾の時間を稼ぐため、やつらに背を向け、路地の奥をめざして走り出した。


 当然、残った二体の騎士が追ってきた。

 ご丁寧に本物の騎士みたいに、牙を槍の構えた二騎が轡を並べて迫る。


 ここで追いつかれるわけにはいかない。

 ところが今度は正面だ。疾走する俺の進路をふさぐように、もう一体の騎士が現れる。


 はさまれるのは、ちとまずい。

 俺は地面を蹴って、体の制御をコンフー・マーキナに丸投げした。


 上へ。

 上だ、とにかく上に行け。


 俺が壁にむかって跳躍すると、身体制御AIはその性能を遺憾なく発揮してくれた。


 ビルの壁面に対して足先が触れると、俺の体は九十度の角度で立つ姿勢となった。そのポーズを保ったまま足裏で、パン、パンとリズミカルに壁を蹴って走り出した。


 コンフー・マーキナに軽身功のデータがあるからこその離れ業だ。

 ところがやはり、専門的に鍛えられた肉体ではないためなのか、あるいは日頃の不摂生が祟ったか。

 俺の体は重力の導きに従い、自然と傾いていった。


 ええい。根性みせろAI。

 このままじゃ三騎に囲まれて串を打たれちまうぞ。


 そんな俺の願いが通じたか、右足が壁を強く蹴って体が空中を舞う。

 頭と足先の位置を入れ替えるようにして、空中で半回転。


 そのまま路地の反対側の壁に着地すると同時に、逆方向に疾走する。体が傾くと、また跳躍して対面の壁面を逆走し、動作を繰り返す。そのまま徐々に、上に登っていく。

 離れた位置にあるふたつの壁の間を跳ね、あるいは駆ける。そうして螺旋めいた軌道を描きつつ、俺は壁面を登っていった。


「あらよっ……っとぉ!!」


 最後は屋上の縁に手をかけて、走る勢いを利用して体を引っ張り上げる。


 瞬く間に、四階分を駆けあがってしまった。

 人間やればできるもんだ。いや。この場合はコンフー・マーキナのおかげというか、身体制御用のAIがすごい。


 とにかくこれで、ひとまずは助かった。

 とりあえず警察に通報して助けを求めよう、と思った瞬間だった。


 三体の牙の騎士が、ビルの壁を垂直に走りながら追ってきた。


 ちくしょう、なんてこった。

 人が苦労してここまで上がってきたというのに、あいつらあっさり真似してきやがった。


 こうなったら隣のビルに飛び移って、逃げるしかない。

 なとど思っていたら、俺の進路をふさぐように三方から牙の騎士が姿を現れた。


 こいつはやばい。

 一気に六体を相手にするなんて、シャレになってないぞ。


「やるしかねえか」


 逃げきれないと悟った俺は、覚悟を決めた。


 装填してある弾丸は残り二発。ポケットの中に残弾はしこたまあるが、装弾している時間はない。

 こうなると、あとはいかに相手の攻撃を避けながら、隙をついて弾を込めるかだ。


 まあ、物は考えようである。

 こいつら全員を倒せば、いい稼ぎになるはずだ。


 そしたら、今度こそ女とデートしよう。

 よし。気持ちが前向きになってきたぞ。


 などと考えているうちに、俺はすっかり牙の騎士に囲まれていた。

 六体の作る円陣の中心。牙獣は言葉なんぞを発したりはしないが、絶対にここでしとめるという殺意が伝わってくる。


 やる気なら俺も負けちゃいねえ。

 女とデートするまでは、絶対に死ぬわけにはいかない。なので、今の俺は最強だ。


 銃を握った腕から力を抜いて、だらりと垂らし、息を整える。

 すると背後で、


 キィン……!


 と、牙を形成する音が響いた。


 それが合図となった。

 俺は姿勢を低くして、首を狙って後方から繰り出された横薙ぎの一撃を躱した。続けざまに、正面の二騎が空中に躍り上がる。


 槍のように構えられた二本の牙が、頭上から迫る。

 その攻撃を回避するため、俺は後ろに転がり、最初に仕掛けてきた牙獣の下にもぐり込む。


 馬部分の腹が丸見えだ、と思った瞬間そこから剣山みたいに数本の細い針が飛び出してくる。穴だらけになるのは願い下げだ。もちろん、すぐさま横方向に転がり出た。


 転がる勢いを殺さずに、左手で床をはじいて立ち上がる。

 屋上の床に牙が突き刺さって、動けなくなった相手に一発ぶちこんでやりたいところだったが、そうもいかない。


 槍を構えていた別の牙獣は、そのまま突撃してくるかと思ったら、馬上の人型部分が持つ武器を剣のような形に変えた。

 ズルい。こっちは銃しか持っていないのに。


「いや別に、ズルいってことはないか」


 俺はコンフー・マーキナの誘導に従って、上半身を傾ける。


 振り下ろされた剣の軌道とすれ違った直後、がら空きになった相手の右半身に銃口をつきつける。引き金を絞ると、そいつは一発で黒い塵と化した。

 カランカラン、と牙の残骸が乾いた音をたてた。


「まず一匹、と」


 このまま逃げるだけの隙はあったが、あいにく位置が悪い。

 背後に背負っているのは車道側だった。建物の間が開きすぎている。さすがに、この距離を飛んで逃げるわけにはいかなかった。


 どうやら、このまま第二ラウンドをやるしかない。


 そう思っていた俺の頭上を何かが飛び越えていった。

 通りをはさんだ、むこうのビルから飛んできたらしいそれは、一直線に牙の騎士めがけて空中をすべるように進んだ。


 牙獣は黒い人影を迎撃するために、針状の牙を広げた。

 その反撃の甲斐もなく、小柄なコート姿を貫く前に細い針がペキペキとへし折られていく。まるで見えない壁にぶつかったかのように。


 飛来してきた長い髪の持ち主は、手にしたステッキを牙の騎士に突き込んだ。


「なんだ、おまえら。こんなところに固まって何してるんだ」


 パッと散っていく塵となった牙獣の残骸を髪から払い落とし、ミララメラは右手のステッキをくるりと回転させた。


「もしかして、僕に狩られるために集まってくれたのか。だとしたら、殊勝な……」

「よう。ひさしぶり」

「うわわああああっ!?」


 声をかけたら、ものすごく驚かれた。よほどビックリしたせいなのか、一瞬だけど髪の毛がウニみたいになった。


「どどど、どこからわいて出てきたっ!」


 人のことをボウフラみたいに言わないでほしい。


「さっきからここにいたぞ」

「そうか。まさか、貴様それだけの魔力を持ちながら、気配を完全に消せるだけの隠形を使えるのか。ありえないだろ、この化け物め」

「化け物はないだろ、化け物は」


 話している最中だってのに、横から牙獣が槍ぶん回してつっこんできた。


 会話の途中なのだから、少しは遠慮してほしい。

 俺は体をねじって向きを傾け、交差する二本の牙の間をくぐると同時に、腕を背中に回して背面にいた牙の騎士に一発お見舞いしてやった。


「なんだ。その下品な音をたてる武器は」


 銃声に眉をひそめながら、ミララメラは頭を狙って伸びてきた牙を手払った。

 牙獣の一撃はパキンと軽い音ととに、銀色の欠片となって散った。


「えっ? 今、何やったの?」

「うるさい。おまえには関係ないだろ」

「いや、待てよ。素手で、さ。牙、を」


 間断なく繰り出される牙の突きを避けながら、俺は弾丸を再装填した。


 ミララメラは俺の質問を無視して、ステッキで牙の騎士を貫く。


「いいから黙って、こいつらをかたづけろ」

「終わったら教えてくれよ」

「い・や・だ・ね!!」


 俺たちは背中合わせになった。


「こらっ。こっちにくるな」

「俺じゃなくて、こいつらに言ってくれよ」


 攻撃を躱したら、たまたまこの位置になっただけである。


 今だって、しゃがんで牙の斬撃を避けたら、その攻撃がミララメラのほうに行ったけれど、わざとじゃない。

 もちろん、その一撃はミララメラの体に触れる直前、あっさりと砕かれてしまったが。


 いったい、どうやっているのだろう。

 気功とかの類だろうか。それとも、俺の知らないテクノロジーで作られた、バリアの発生装置でも持っているのだろうか。さっぱりわからん。


「俺よりおまえのほうが化け物みたいだぜ」

「あたりまえだ。僕は吸血鬼なんだからな」

「へえ。そうなのか。俺は異世界から来たんだぜ」


 俺の言葉に答えながら、ミララメラがステッキで突いて、牙の騎士を一体しとめた。


「知ってるよ!! 見ればわかる」

「えっ!? 本当に? やったぁ!」


 カルテット・パーティーのトリガーがまばゆい光を放つ。


 この世界に来てから、はじめての理解者に出会えた、俺の気持ちを理解できるものなどそう多くはいなかろう。

 喜びのあまり、俺は最後に残った騎馬めがけて残弾をすべてぶち込んでいた。 


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 一人称の練習で書いています。

 読みにくい部分が多く、たいへん申し訳ありません。

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・校正をなさってくださる方へ

 お手数ですが、ご指摘等をなさっていただく際には、下記の例文にならって記載をお願いいたします。


(例文)

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>~(←ココに修正箇所を引用する)

この部分は、(あきらかな誤用orきわめてわかりにくい表現or前後の文脈にそぐわない内容、等)であるため、「~(←ココに修正の内容を記入する)」と変更してみてはいかがでしょうか。

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 以上の形式で送っていただければ、こちらで妥当と判断した場合にのみ、本文に修正を加えます。

 みだりに修正を試みることなく、校閲作業者としての節度を保ってお読みいただけると幸いです。

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