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ブラッドファング  作者: ことりピヨネ
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F.パーティー会場のファング

「―――いや、ご覧のとおり。昔の名前は、会社と一緒に娘に譲りましてね」


 父のジョークに、相手は表情を固くしておりました。


 うちの会社の前歴を知っていれば、ドン引きものの発言じゃないかしら。

 けれど、年老いた父には、そのことが理解できないようですの。


 困ったことに、私もそのことを口には出せません。


 会社の設立から、十周年の記念として父は自宅でパーティーを催したのです。

 そして、会社の主だった役員と客を招きました。


 自分の権力を見せつけるために、です。


 表向きには、娘の私に会社を譲ったと嘯いてはいるのですが、会社の経営に関する権利はいまだに父が握っています。


 肩書だけの社長である私が自由にできるものと言えば、対外的なクレーム案件の処理室の人員ぐらいなもので、実権などないに等しいとでも言いましょうか。

 今もこうして、お人形のように父の横で立ち尽くしていることしかできません。


 そんな場所に―――彼は来てくれるでしょうか。


 彼とはじめて出会ったのは、ほんの少し前のことです。


 いつものように、社員が同業者とハンター業務上のトラブルを起こしたことがありました。

 その際に、会社とハンターの間で仲裁に入ってくれたのが彼なのです。


 それだけでなく、彼はいまだにならず者であった頃の癖が抜けない古株の社員たちに、ハンターとしてのうまいやり方を教えてくれました。

 そのおかげで、処理室に届くクレームの件数は激減したのです。


「あの、ファングさん。いつもありがとうございます」


 いつものように、トラブルを起こした社員をオフィスまで送り届けてきてくれた彼に、私は声をかけました。


 すると、彼は少しはにかんだ様子で、


「いえ。いいんです。じつは僕も、まだハンターになったばかりですから。人に教えながら、自分も勉強中の見習いなんです」


 と謙虚なことをおっしゃいますの。


 私はと言えば、これまで話したことのある男の人と言えば、父の下で働く荒事を生業とするような人たちばかりでした。

 それに、父から与えられたこの右腕のせいで、ごく一般的な男性とはまったく話す機会がなかったのです。


 そんな理由があったからなのでしょうか。

 私は彼と話すだけで、なぜだかそわそわしてくるような、特別な気分になってしまっていたのです。


 だから、私は―――社外の人間であるはずの彼に、このパーティーの招待状を送りました。


 もし、彼が来てくれたなら、私は生まれてはじめて自分の意志を貫くことができるような気がしたからです。


「こんばんは、ジェシカ」


 彼は大きな花束を手にして、私の前に現れました。


「今日はお招きしてくれて、ありがとう。それから、これを」


 花束をさし出しながら、彼はいつものはにかんだ笑みを浮かべました。


「こういう集まりのマナーは詳しくないんだ。つまらないものだけど、受けとってもらえると嬉しい」

「あ、あなたが来てくれただけで、私……」


 それ以上は、言葉になりませんでした。


 胸が詰まってしまうほど、私の気持ちはいっぱいになってしまったのです。

 

「ジェシカ。そいつは誰だ」


 けれど、父がそれを許しはしませんでした。


「その男から離れろ。今日は、おまえの結婚相手も招いているんだ。俺に恥をかかせるな」

「い、嫌です」


 私は勇気をふりしぼって、父の言葉に抗ったのです。


「私は結婚なんてしません。好きな人がいるんです」


 そう言うと、父の顔がみるみるうちに赤く染まり、激しく怒っているのが伝わってきます。


「そいつをつまみ出せ!」


 父が命じると、すぐに周囲の男たちが動きました。


 その一瞬で、私はいっさいのためらいを捨てたのです。


 ほんのわずかに警戒心を働かせるだけで、機械の右手が動きました。

 走り寄ってきた男の鼻と唇の間、鎖骨の中間、そして鳩尾の三ヶ所に、刃のように揃えた四本の指先がすばやく打ち込まれます。相手はその場で、ぱたりと倒れました。


 彼に近づいた男たちも、同様でした。

 父の手下は、彼の体に触れることもなく、床に転がり、あるいは投げ飛ばされていきます。


 私の右腕と彼の体は、まるで同じものでできているかのようです。


 いいえ。

 この瞬間、彼と私はまったく同一の存在でした。

 一体感と言ってもいいような、そんな気分に私は満たされていたのです。


 ファングさんも、きっと同じ気持ちになってくれている。

 そう確信できる言葉が、彼の口から出たのです。


「彼女は嫌がっている。父親なら、娘の気持ちぐらい考えてやったらどうだ」

「黙れ!」


 父が部下の懐から奪った銃を彼に向けました。


「やめて、お父さん!!」


 私は彼をかばって、銃口の前に身を晒します。


「ジェシカ。そこをどけっ」

「嫌です!」


 そのとき、父が左手をポケットの中に入れるのが見えたのです。


「え―――」


 直後に、私の右手が硬直いたしました。


 機械の腕は、まるで動力を絶たれたようにぴくりとも動きません。

 私が無防備になった、そのタイミングを狙って、父の部下たちが動きます。


「いやぁっ!!」

「ジェシカ!」


 取り押さえられそうになった私を助けようと、彼が手を伸ばした、そのとき―――。


 一発の銃声が鳴り響きます。


 そして、彼が胸から血を噴いて、倒れるところを目にしたとたん、私の視界は暗闇に包まれました。

 

 次に目を開いたとき、私は信じられない出来事に遭遇していたのです。


 彼と出会うよりも前。

 およそ六か月前に、私の時間が戻っていました。


 何が起きたかは、私にはわかりません。

 もしかすると私を憐れに思った神様が、もう一度やりなおすチャンスをくれたのだろう、と私は考えるようになりました。


 今度は、もっとうまくやらないといけない。


 父が彼の命を奪うよりも先に。

 私が父から、すべてを奪い去る必要があるのです。


「みなさまにお伝えしたいことがあります」


 私は、自分の権限で集められるだけの部下を集めました。


「私は本日をもって、業務の効率化と会社経営の正常化に着手いたします。つきましては、前経営者である父が持つ権限のすべてを私に集約するために、この場にいる社員のみなさまにご協力を願います」

「社長」


 一人の社員が立ち上がりました。


「ここはあなたのお父君の会社であることをお忘れですか」

「存じております」

「だとしたら、バカげた行いはおやめなさい。会社をふたつに割ってM&Aを仕掛けるなんて、何の意味があるんですか」

「会社を分社化することはいたしません。ただ、全権を私に移譲していただきます。これは各役員が所有する、株式などの資産すべてを含みます」

「いけませんな。何をとち狂ったことを……」


 私の右手が、逆らう社員の顔面を握り潰しました。


「今日から、私がアイアンハンドです」


 最初の粛清対象となった社員が、私の手の中でぴくぴくと痙攣しています。


 しゃべれなくなった相手を持ったまま、私は残った社員たちを見渡しました。

 誰もが凍りついた表情のまま固まり、身じろぎひとつしません


「他に反対する方がいれば、すべてこの場で処分いたします。残った人たちの最初の仕事は、その後始末です。何か質問はありますか?」


 幸いなことに、私に逆らう者は一人もおりませんでした。


 私が会社のすべてを掌握するに至るまで、そう時間はかかりませんでした。。

 こうして父の持っていた物すべてが、私の物となったのです。


 ですが、たったひとつだけ誤算がありました。


 業務のマニュアル化を徹底させたことが原因です。

 社員がトラブルを起こさなくなり、その結果、私はファングさんと出会う機会を失いました。


 そこで私は、早急に計画を変更しました。


 古株の社員たちには、マニュアルに従った業務の履行を徹底させないことで、わざと同業者間のいざこざが起きるように仕向けたのです。


 そして私は、ようやく彼と再会することができました。


「悪いな、社長さん。俺のボスが、その、おたくの社員さんとトラブっちまってな。それで、まあ、あれだ。こいつら全員、骨の二、三本ぐらいは折れてるかもしれんが。いや、まあ、これは俺がやっちまったんだがな。その、悪かった。今日のところは、これで手打ちにしてくれないか……え? 許す? ありがとうよ、美人の社長さん」


 ひさしぶりに会った彼は、以前とだいぶイメージが変わっていたのです。


 だけど、私、ますます彼のことが―――。


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 一人称の練習で書いています。

 読みにくい部分が多く、たいへん申し訳ありません。

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・校正をなさってくださる方へ

 お手数ですが、ご指摘等をなさっていただく際には、下記の例文にならって記載をお願いいたします。


(例文)

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>~(←ココに修正箇所を引用する)

この部分は、(あきらかな誤用orきわめてわかりにくい表現or前後の文脈にそぐわない内容、等)であるため、「~(←ココに修正の内容を記入する)」と変更してみてはいかがでしょうか。

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 以上の形式で送っていただければ、こちらで妥当と判断した場合にのみ、本文に修正を加えます。

 みだりに修正を試みることなく、校閲作業者としての節度を保ってお読みいただけると幸いです。

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