30.管理局のヴェロニカ
「で、どういう理由で俺は呼び出されたんだ」
朝っぱらから管理局に出頭を命じられ、俺は窓口に肘ついてたずねた。
アクリル板ごしのヴェロニカは、ご機嫌斜めの俺を前にしても平然としていた。まったく肝の太い女だぜ。
「悪いわね、ファング。頼みがあるのよ」
「ヴェロニカ姉さんの頼みなら断りゃしませんよ」
「その口調なんなの? カウボーイみたいよ」
見たことあるのか、そんなの。
「朝飯食って、さあひと仕事ってタイミングで、理由も教えられずに呼ばれたんだ。いい話じゃなきゃ困るぜ」
「いい話よ」
「じゃあ聞く」
我ながら現金だと思うが、しょうがない。
先日の演習に参加してから以後、あまり稼げていないのだ。
「ええと、順番に説明するわね。まず、街の西側で仕事をしてほしいの」
「あっちは夜勤専門がいるんじゃなかったのか」
「話をさえぎらないで」
「悪かったよ。続けてくれ」
俺は口をつぐんだ。
「まあ、その夜勤専門の人からヘルプの要請があったのね」
ヴェロニカが書類に目をやった。
「知っての通り、普段は川のむこう側で活動してるハンターは少ないの。それで地理に明るい地元の人間か、あるいは仕事ぶりがお上品なハンターを向かわせろ、って」
「へぇ。管理局にそんな命令を出せるスポンサーがいるとは、知らなかったな」
「ファング。お上品に、よ」
にらまれたので、俺はまた黙った。
「それに、他にも理由があるのよ。端末で一斉送信をしても、遠いから誰も行かないとか、家に十人もハンターが押しかけてきた、だとか……とにかくクレームがこっちにたくさん来てるわけ」
心底から嫌そうな口調だった。
言われてみれば、たしかにわざわざ長い橋を渡って現場に行くような、間抜けなハンターはいないだろう。なぜなら移動している間に、獲物をかっさらわれてるはずだろうから。駆けつけやすい場所なら、その逆が起きることも、まあ理解できる。
橋のかかった川のむこう側―――市街の西側は高級住宅街なので、クレームが多いと市政をやってる連中にもいろいろと不都合があるのだろう。
それで上からせっつかれたヴェロニカが俺に泣きついている、という事情があることぐらいはわかろうというものだ。
しかし、その夜勤専門のやつってのは、何やってるんだ。
そもそも、そいつが普段通りにしっかり仕事をしていれば、俺らに声がかかることもなかったんじゃないだろうか。
「それで、夜勤専門の人からヘルプが出た理由なんだけど」
ヴェロニカが説明を続けた。
「SNSで話題が出てる、騎士みたいな牙獣の話は聞いたことある?」
「知ってるよ。会ったことはないけどな」
「その馬に乗った騎士みたいなのの相手をするので忙しいから、それ以外は昼間にこっちの人員で対応してほしいって、そういうことらしいの」
疲れきった声を聞きながら、俺はちょっと頭の中を整理した。
つまり、ネットのガセネタだと思っていた牙の騎士とやらは、実在しているということになる。
その夜勤専門が本当のことを言っているのならば、だが。
そうなってくるとケインズから得た情報も、裏を取る必要が出てくる。
俺にとっては、会いたくない相手と顔を合わせなきゃいけない、という面倒事がひとつ増えたわけだ。
おあつらえむきに街の西側には、ましろの道場がある。
行くにはいい機会だと言えなくもない。
と、そこで俺は橋を渡った先にいる、もう一人の知人を思い出した。
「待てよ。K&Dのオフィスも、あっちにあるだろ。女社長に話を通して、人手を出してもらうわけにはいかないのか」
「そのK&Dの仕事ぶりが、クレームの元なの」
「おいおい。そりゃあ言い過ぎだろ」
「本当よ。もちろんあの会社にだって、まともな人材がいるわよ。けれどね、今回にかぎって回されてきた人員は、社内から選りすぐりのトラブルメーカーばかりとしか思えないくらいだったの。もう信じられなぐらいに、ひどいありさまだったのよ」
「さいですか」
ヴェロニカが声をひそめて言った。
「それに、建前上はハンターとしての活動が許可されているけれど、やっぱりあそこは元が元でしょ。管理局としては、おおっぴらに借りを作りたくないのよ」
「職業差別は良くないぜ」
「私がしてるわけじゃないわ。上の判断よ。ついでに言うと、今回の件であなたを推薦したのは、あそこの社長さんなの」
「わかったわかった。俺が行くよ。それでいいんだろ」
俺はヴェロニカをなだめた。
これまでの話をまとめると、だ。
ようするに、こんなところで長話してる場合じゃない。
一件でも多く、通報に対応しないと被害が広がる一方だ。
「橋渡って、そっちで待機してるからよ。警察からの連絡がこっちにくるように手配しといてくれ」
「それなんだけど」
背を向けようとした俺に、ヴェロニカが声をかけた。
「さっそくご指名があるのよ」
「ご指名?」
「そのK&Dの前社長から、あなたに来てほしいって」
「なんで?」
思い当たる理由がなかったので、間抜けな声が出てしまった。
K&Dの前社長と言えば、ジェシカの父親だ。
ギャング時代はルーク・ザ・アイアンハンドと呼ばれ、街中から恐れられていた強面の武闘派だったとか聞いたことがある。
会ったことは、もちろん一度もない。
個人的に呼ばれる理由なんて、まったく思い浮かばなかった。
そんな俺の疑問に、ヴェロニカはあっさりと答えた。
「庭に牙獣が出てるんですって」
「そうじゃなくてよ。なんで娘の会社じゃなくて、俺のところに話がくるんだ」
「知らないわ」
「そうかい。んじゃ、行ってくるよ」
何かわからんが、複雑な事情がありそうだ。
とにかく行ってみるしかない。
まずは仕事だ。仕事。
まあ、いきなり撃たれたりはしないだろ。
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一人称の練習で書いています。
読みにくい部分が多く、たいへん申し訳ありません。
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