28.事務所のジョンジー
フラつく足取りで事務所まで、どうにか帰り着いた。
疲れきった俺を待っていたのは、ソファで寝転がりながらピザ食ってる眼帯女だった。
「お。ひさしぶり」
ジョンジーの気楽そうな呼びかけを無視して、俺は隣のソファにへたり込むように腰を下ろした。
「なんだよ。元気ねえな」
「うるへえ」
やる気なく声を返した。
もうヘトヘトだ。
はっきり言ってしゃべるのも、つらい。
なにしろ、あの演習が中断したあと、警察で七十二時間も拘束されていたのだ。とても、つらい。ただひたすらに、つらい。
「んで、何があったんだよ」
ソファの上でグッタリしている俺の頬に、冷めたピザを押しつけながらジョンジーが問う。
「むぐ。知るか。警察に聞け」
ピザにかぶりつくと、自然に愛想のない声が出た。
正直、説明するのもだるい。
身柄を拘束されていた、と言っても監禁されていたというわけではなかった。
食事と、それからシャワーを浴びるぐらいはさせてもらった。けれど、取り調べそのものは二度と御免だと思うほどにキツかった。
「なんか飲むか? コーヒーとジュースのどっちがいい」
「コーヒーなんてしばらく飲みたくねえよ」
「あいあい」
警察署で死ぬほど飲んだ、煮詰まった薄いコーヒーの味が口の中に湧いてくる。
思い出すだけで、吐き気がしてきそうだ。
などと思っていると、ジョンジーがカップを渡してきた。
ひと口飲んで、スポーツドリンクだとわかった。柑橘類のほのかな酸味と、じわりとやさしい甘味が胃に染みる。
たまには、こいつも気の利いたするものだ。
カップの中身をちびちびと舐めるように飲んでいると、ジョンジーが言った。
「んで、タダメシ食らってきたんだろ」
「あれはメシなんてもんじゃねえ」
俺は口の両端を下げた。
「パサパサのパンではさんだサンドイッチが三食続くんだぞ。しかも、具は靴底みたいに硬いハムと、硫黄の匂いがするエッグディップに生臭いツナマヨしかねえんだ。タダでくれるって言われても、もう一回食いたいとは思わねえな」
「うぇ」
ジョンジーが舌を出す。
俺だって同じ気分だ。
そこまで舌が肥えてるってわけでもない俺でもそう思うくらいなんだから、警察にはあのサンドイッチの仕入れ先を変えるように検討してほしい。
毒を吐いたおかげで、俺の気分が多少は落ち着いてきた、
そこでまた、ジョンジーの質問が続く。
「それで、何があったんだよ」
「いろいろあったよ」
「演習のときに、だ。なんかあったから、とっ捕まったわけだろ」
「ああ。それか」
ぼんやりしている頭をフル回転で働かせながら、俺は三日前の出来事を整理した。
「えぇと……演習の途中で、デカい牙獣が出てきたんだよ。五本牙の」
「それで?」
「俺がそいつから必死こいて逃げ回るはめになって、警察はそいつと撃ち合いを始めて、それで」
「うん」
「最終的に、俺が撃ったら五本牙はあっさり消えた」
俺は端的に事実を述べた。
警察署でも同じ話を何度もした。
はっきり言って何回ぐらい説明したかもわからんほど、繰り返し話したのだ。
この三日間、食事とシャワーとトイレの時間以外は、ずっとそれだけだったのである。警察官の中でも偉そうな背広組の選任調査官とやらの口から、「もう一度、聞こう」とアホみたいにリピートされた光景が脳裏に焼きついている。
「あっさり消えたって、どういうことだよ」
ジョンジーも取り調べの担当と同じ疑問を抱いたらしい。
「そのまんまの意味だよ。それまでFBCUの連中としぶとくやりあってた五本牙は、俺が撃っただけであっさり消えちまった」
「消えただけ?」
「いいや。いつも同じく、牙の残骸と結晶が転がってたってさ」
「結晶はどのくらいの大きさだったんだよ」
「俺のゲンコツぐらいだな」
「そりゃ結構だな。いい稼ぎになったんじゃねえの」
ジョンジーの嬉しそうな声に、俺は首を振った。
「警察に没収された」
「え? なんで?」
「俺が知るか」
思わず苦々しい口調が出た。
「調査官が言うには、五本牙に効果的なダメージを与えたのは俺で間違いないらしい」
いつものごとくAFBBに仕込まれた有機ペレットのおかげで、獲物を誰が倒したかはちょっと調べてすぐ判別したらしい。
あの状況下で五本牙に有効打を与えたのが、ほぼ俺。
そりゃ最初にその話を聞いたときは、俺またなんかやっちゃいましたかねって得意げな気分になったもんだ。
ところがその事実に、警察は納得がいかなかったようだ。
おかげで俺は、三日間も拘束された。
そして、延々と取り調べを受けることになったわけだ。
「おまえが倒したんなら、結晶もらえるはずだろ」
「それは俺も言ったよ。そしたら担当の警官が、どうして俺だけが効果的な攻撃を行えたのか理由を教えろ、そうしたら結晶を引き渡すって言ってな」
「それでおまえ、なんて答えたの?」
「正直に答えたに決まってんだろ」
取り調べのときと同じく、きっぱりと言ってやった。
「そんなの俺にはわかりません、って」
「うわぁ……」
そんな目で俺を見るな。
「おまえさん。そこはさ、なんか適当にうまいこと言って、稼ぎをもらってくるとかしないとさ」
「警察に嘘つくわけにいかないだろ」
「そりゃそうだけど」
ジョンジーが顔を手で覆ったまま天を仰いだ。
「うわー。もったいねえ」
そんなにあてつけがましく言うな。
俺だって、もったいないことしたと思ってはいる。
けれど、こればっかりはどうしようもない。
実際には、わかりませんと言ったあと、もうちょっとだけやりとりが続いた。
ひとつだけ思い当たることがあったからだ。
『じつは、俺は異世界から来たんだ』
という事実を取り調べの警官に述べた。
結果は精神鑑定だったが。しかもそのあと、それまで厳格な態度を崩さずに俺の話を聞いていた相手が、交代を呼んだ。
かわりにやってきたのは、やけに親身な態度で話しかけてくる医者だった。こっちは完全に頭のイカれたかわいそうな人のように扱われ、カウンセラーまで紹介される始末である。まったく失礼にもほどがあるというものだ。
恥ずかしくて他人には話せない思い出だ。
なので、その件はジョンジーには黙っておくことにした。
「とにかく。そういうわけだから軽く仮眠とったあとに、またキリキリ働いてくるぜ」
「たまには休めばいいじゃん」
誰のせいで俺がこんなに必死に働いてると思ってるんだ、こいつは。
ブチキレそうになったけど、俺は耐えた。
偉い。自分を褒めてやりたい。
「あのなあ。俺が稼がないと、ここの家賃だって払えないだろ」
「払えるよ」
サラッと言いやがった。
しかも、そのあとテーブルの下から麻袋を取り出して、俺のほうにポイと投げつけた。バレーボールぐらいの大きさがある袋は、結構な重さがある。
中を覗いてみると、見慣れた青い結晶がごっそりと詰まっていた。
換金すれば、俺の一週間分ぐらいの稼ぎになるだろうか。
「たまには師匠らしいことしないとな」
ピザの切れはしを口の端にぶら下げてる俺に、ジョンジーが言った。
「今日のファングくんのお仕事は、そいつを持って管理局で換金してくることでーす。つまり、お使いってことだぁ。イヒヒ」
「どっから盗んで来たんだよ、これ」
「失礼なこと言うな。自分で集めたに決まってんだろ」
俺が疑いのまなざしを向けると、ジョンジーは「ケッ」と毒づいた。社会的に信用のない人格であるということに、いくらか自覚があるらしい。良いことだ。
「とにかくお使いが済んだら、今日は休めよな」
「お、おう」
「こづかいもやるから女の子とデートでもしてこいよ。相手がいなけりゃ、あたしがエスコートされてやってもいいぜ」
「いえ。それはご遠慮します」
思わず慇懃な声が出てしまった。
こいつと一緒に休日を楽しむなんて不可能だ。
こづかいをもらったとしても、どうせみんな酒代で消えちまうに決まってる。
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一人称の練習で書いています。
読みにくい部分が多く、たいへん申し訳ありません。
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(例文)
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