2.ケインズ銃砲店のミリー
午前中に二件の仕事を片づけた俺は、バイクの進路を銃砲店に向けた。
稼ぎはショボい。
どちらも牙イチだ。
牙から回収した蒼牙結晶は小指の先ぐらいしかない。
こいつを管理局に持っていくと換金してもらえる。それが俺の一日の稼ぎになる。じつにわかりやすい仕組みだ。
牙イチ―――つまり牙一本分からとれる結晶ならば、だいたい二日分の食費。切り詰めれば、三日分になるだろうか。
そして、俺の稼ぎの半分はジョンジーにかっさらわれる。
そこから、さらに経費を引く。
銃弾の代金、バイクのローンの支払い、それから事務所の家賃と光熱費も俺の払いだ。
そうやって、いろいろさっぴくと現時点での本日の収入は―――驚くなかれ、マイナスになった。
そして悲しいことに、弾丸の残りも少ない。
それを補充するために、俺はケインズ銃砲店の前でバイクを止めた。パーキングメーターが憎らしい。くそったれめ。
「やあ、ファング。調子はどうだ」
店主のケインズは、つるりと剃りあげた頭を光らせつつ、髭面を営業スマイルでクマちゃん人形みたいに変えようとしていた。なかなかに無為な努力である。
「最悪だよ。ガス欠寸前」
「そいつは気の毒だな。コーヒーでも飲んでいくか。ドーナツは有料だ」
「飲み物をめぐんでくださるだけで結構ですよ、ケインズの旦那」
ケインズのボクシンググローブみたいな手が拳を握り、俺の肩のあたりの空気をノックアウトした。フックで。
「おまえも冗談がうまくなってきたじゃないか」
「師匠がいいんだ。憎まれ口の達人」
「オセロットは元気か。最近さっぱり姿を見せないだろ」
「山猫なら、おうちで鶏の骨を齧るのに忙しいってさ」
「あいかわらずみてえだな。それで、今日は何発必要なんだ」
「二十。割引セールはやってないのか?」
「ないね。今ならポイントカードで三%お得ですよ、お客様」
「ごうつくばりめ。帰りに扉の前に、強盗大歓迎の張り紙を残しておいてやるからな」
ケインズはショーケースから二丁のサブマシンガンを手に取る。そんでもって、天井めがけてぶっぱなすフリをした。
「ガン・ホー!! てなもんだ。ハッハッハー!」
「強盗に同情するぜ」
「いつでもかかってきやがれ。ガハハ!!」
高笑いするケインズの背後から、小さな影が忍び寄る。
「邪魔だよ親父」
「うごぁ!!」
店の奥から出てきた小柄な少女が、抱えていた木箱の角でケインズの腎臓があるあたりに狙いすました一撃を加えた。あれは効く。
「ンモォォォ……腰はダメって言ったでしょお。ミリーちゃぁん」
「ミリーちゃんはやめて、って言ったよね。あと私を呼ぶときに、ちゃん、とかつけないで。もう子供じゃないんだから」
「パパもパパのことパパって呼んでって言ったもん!!」
「親父キモい」
ケインズは鼻を踏まれたクマみたいな顔になった。いと憐れ。
親の気持ちもつゆ知らず、ミリーは木箱を置いて俺に抱きついてきた。
「ファングさん、来てくれたんだぁ。弾丸、すぐ用意するね」
抱きついたままどうやって売り物を用意するかは、この際聞かないでおく。
「ねえねえ、ファングさん。こないだのこと、考えてくれた」
「こないだのこと?」
「私と結婚して、この店を乗っ取るの!」
「ミリーちゃぁぁぁぁん。パパ許しませんよぉ」
「親父は奥で仕事してろ。カスタマイズの依頼、終わってないだろ」
「くすん」
娘にあしらわれて、ケインズはトボトボと店の奥に消えていく。
ちょっとかわいそうになってきたが、経費節約のためには仕方ない。
「悪いな、ミリー。あと十年はハンター稼業を続けないと、年金がもらえないんだ」
「あたしが養ってあげるから大丈夫よ。ファングさんは座りっぱなしでもいいんだからね」
「悪くない暮らしだが、運動不足で太りそうだ。双子のケインズ銃砲店になっちまうぜ」
「う……それは、困る」
カウンターに戻ったミリーは、紙袋に弾薬を詰めていく。無料サービスのドーナツまで、一緒に放り込まれないといいんだが。
「銃の整備は大丈夫?」
「ああ。そっちは問題ない」
「メンテナンスならサービスするから、いつでも言ってね」
「助かるよ」
「どういたしまして」
ミリーは満面の笑みを返してくれた。
まったく面倒見のいい娘である。この子を嫁にすれば、骨の髄まで尽くしてもらえるに違いない。将来、悪い男をつかまないよう願うばかりだ。
「はい。お待たせ」
「仕事が速いな」
「ファングさんの分は、いつも用意してあるのよ」
ハンターが使用する弾丸は、通常弾とは弾頭が異なる。
牙獣用に作られた弾丸はAFBBと呼ばれ、使用者の遺伝情報がマーキングされている。わかりやすく言えば、オーダーメイド商品しか存在しない。
弾を打ち込まれた牙獣は、弾頭にふくまれた有機物を吸収する。その有機物にふくまれる遺伝情報が、蒼牙結晶に書き込まれる―――といった説明をハンター資格の交付時に俺は聞かされた。
これら一連の流れは、やつらの生体に特有の生理的な反応であるらしい。その作用を利用して、回収した蒼牙結晶を調べれば誰がその牙獣を倒したかがわかる、という仕組みになっているわけだ。
そして、ハンターが弾丸を購入する際には、まずその遺伝情報のサンプルの読み取りから始まり、弾頭の有機ペレット部の加工までで普通はだいたい三十分ぐらいかかる。もちろん量にもよるのだが。
言うまでもないことだが、この手順は顔なじみの店なら省略できる。
俺のかぎりある時間を節約してくれたミリーは、ニコニコしながら紙袋を手渡してくれた。もっと得意がってもいいんだぜ、天使ちゃん。
俺は支払いのために端末をポケットから取り出す。
その手をミリーが押さえた。
「お金なんていいのよ」
「そういうわけはいかない。親父さんに怒られちまう」
「あんなのほっとけばいいのよ」
「それはパパも、さすがに怒りますよ!!」
「うわぁ、親父」
スニーキングの仕返しにやってきたケインズが、ミリーの首根っこをつまんで猫みたいにつまみ上げる。
「お店の品物をタダであげちゃダメって、パパ言ったよね」
「親父うざー」
「ここはパパが見ておくから、ミリーちゃんは奥でバレルにライフリングを刻んできてください」
「えっ。あれ私やっていいの?」
「やってみろ。ただし、手に風穴を開けるんじゃないぞ」
「やったぁ。パパだーいすき」
ミリーはパタパタと足音を響かせて、奥の工房に走っていった。
やれやれ。弾薬料金割引計画は失敗に終わった。
「ほら。一杯やっつけな」
弾丸代と引き換えに、ケインズから渡されたコーヒーカップを受け取る。
「ホリデーパークスクエアの件、知ってるか」
「朝のニュース程度なら」
ケインズがニヤリと笑う。
「その様子じゃ、あのあたりで事件の発生した件数までは調べてなさそうだな」
「どういうことだ」
「ほら。そっちにマップを送ってやるよ」
尻ポケットから端末を取り出したケインズが、画面を指でつつく。
そこに表示された地図には、いくつかの×印がついていた。
「今朝の誤発砲がこいつだ」
「そのまわりにあるやつが、牙獣の出現があった場所か」
×印には日付がつけられていた。
「三日で七件。ちょっと多いだろ」
「警察も目をつけているんじゃないか」
「そりゃパトロールぐらいはするだろうよ。けどな、ここからが重要だ。地図の表示範囲を広げてみろ」
俺は言われたとおりに操作した。
拡大されたエリアの中には、×印の密集地点が少なくとも三か所はあった。
それぞれの日付がズレているためか、ケインズの指摘したとおり、一日ごとのマップを重ねたりでもしなければ、こんなの気がつくはずがない。
「警察も全部に目を光らせてはいられないからな。そこが狙い目ってわけだ。偶然そのあたりをうろついていたハンターが仕事を減らしてくれれば、感謝状だってもらえるかもしれないぜ」
「たいしたもんだ。貴重な情報をありがとうよ」
俺はコーヒーを飲んだ。
安いインスタント味。まあ当然か。
「礼をしたいんだが、今はあいにく持ちあわせがなくてな」
「俺とおまえの仲だろ。出世払いでかまわねえさ」
「チッ。世知辛い世の中だぜ」
「ハッハー!! それ飲んで、さっさとひと仕事してくるんだな」
「ばーん」
俺は指鉄砲でケインズを―――じゃなくて、親父の背後に戻ってきていたミリーの心臓を撃ち抜いた。
効果はばつぐんだ。ミリーは、なんかクネクネし始めた。
「お父さん。ミリーはお嫁に行きます」
娘を見ていたケインズの顔が青くなったかと思うと、今度は俺を見て真っ赤に染まる。信号機みたいで、ちょっと面白い。
「ここからさっさと出ていけ!! このハイエナ野郎!」
「コーヒーごちそうさん。バイバイ、ミリー」
「あぁ~ん。あたしのことも連れてってよぉ」
「ミリーちゃぁぁぁん。パパはそんなふうに育てたおぼえはありませんよぉ」
親子漫才を背にして、俺は店から出ていった。
バイクのエンジンをかけて、行き先を見据える。
めざすは午後の狩場だ。
「とはいえ、あまり俺たちが稼げてもなあ」
ハンターが利益を得る。
それはすなわち、牙獣の被害者が増える可能性があるということだ。
「ったく。因果な商売だぜ」
俺は弱気な声をアイドリングでかき消してから、アクセルを回した。
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一人称の練習で書いています。
読みにくい部分が多く、たいへん申し訳ありません。
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・校正をなさってくださる方へ
お手数ですが、ご指摘等をなさっていただく際には、下記の例文にならって記載をお願いいたします。
(例文)
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>~(←ココに修正箇所を引用する)
この部分は、(あきらかな誤用orきわめてわかりにくい表現or前後の文脈にそぐわない内容、等)であるため、「~(←ココに修正の内容を記入する)」と変更してみてはいかがでしょうか。
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みだりに修正を試みることなく、校閲作業者としての節度を保ってお読みいただけると幸いです。
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