25.狭い通路に隠れてろギリー
全力で走っているうちに追ってくる五本牙との距離は、かなり開いていた。
俺は走りながらギリーに言った。
「無線で応援を呼んでくれ。このままじゃ、ずっと追いかけっこだ」
「……あぁん?」
すごいドスのこもった声とともに、にらまれた。
え、何これ?
さっきの発言のどこに、そこまで怒る要素があるんだ。
それとも、その前か。たしかにそれなら、わからなくもないが。
などと思ったとき、ちょうど前方の建物に穴が開いてるところを見つけた。
「ギリー……」
「黙れ」
今にも落ちてきそうな氷柱みたいな口調だった。
いや、なんでそんなに怒ってるんだよ。おかしいだろ。
「こっち」
ひどく不愛想な声を放ち、曲がり角を進むギリー。
俺はおとなしくついていった。
逆らうと、なんかされそうだったし。
曲がり角の先には、細い通路があった。
「ギリー、いったんここに……」
そう言いかけた俺だが、途中で口を閉ざした。
振り向いたギリーがこめかみのあたりをヒクつかせながら、銃を抜こうとしたからだ。
「おい。落ち着け」
「落ち着けですってぇ……!!」
「冗談でも弾丸の入った銃を人に向けるな、って教わらなかったのか」
「冗談じゃ……ないっての!」
銃を握ったまま手を震わせるギリーは、今にも銃口を俺に向けそうだった。
「いっそ、あたしが……この手で……」
なにやら意味不明なことをブツブツとつぶやきだした。
とてもまともな精神状態とは思えない。
これ以上、こいつと一緒にいるのは危険だ。特に牙獣に終われている今の状況では、足手まといどころか、俺の命に危険が及びかねない。
「いいか。ここからは別行動だ。俺が囮になって五本牙を引きつける。おまえは、ここに隠れているんだ」
沈黙。
「やつが通り過ぎたら、おまえはトニーを助けに行くんだ。わかるな」
ややあってギリーの口から、ふぅと大きく息が漏れた。
「わかった」
彼女はがっくりと肩を落とし、路地の奥に進んだ。
そのまま置いてあった木箱の横に座り込む。小柄なギリーが隠れるには、これで問題なさそうだった。
ひとまずこれでいいだろう。
俺の寿命が、ちょっとだけ延びた気がする。
そのあと俺は、端末を取り出してアマンダに救援を求めるメッセージを送った。
ギリーの様子を見るかぎり、警察をあてにはできない。
ハンター同士の連絡網を使ってでも状況をどうにかしないと、このままじゃ俺の命だってあやうい。
「そろそろ追いついて来そうだな」
地面に落ちていた手頃な廃材を拾い上げて、俺は背後に視線を送った。
さっき通ってきた曲がり角に、ちょうど五本牙が姿を現したところだった。
俺はそいつめがけて、手にした廃材を投げつけた。
「うまくこっちにこいよ。俺の命がかかってるんだからな!」
五本牙をギリーから引き離すため、俺は走り出した。
少し距離をおいてから、ちらりと背後を確認する。
大きな黒い塊は狙い通りに、俺を追ってゆるやかに移動してきた。
あとはこのまま戻っていくだけだ。
こんなデカブツ、どうせ一発二発撃った程度じゃ倒せないだろうし、FBCUの連中にかたづけてもらうにかぎる。弾丸だって、タダじゃねえんだからよ。
さらに本音を言えば、勝ち目が薄いことは間違いない。
なにしろこっちは四発撃ったら、そこで打ち止め。
むこうは五本も牙がある。さっきみたいに盾のように広げられた牙で弾丸を防がれたら、それで終わりだ。
こっちが再装填している間に、五本目の牙でザックリとやられる。
単独ではどんな戦い方をしても、確実に俺が無防備になる瞬間はやってくるだろう。それはもう、ほぼ間違いなく。
ギリーがいれば、多少は違ったかもしれない。一対一ってのが、もうすでにまずい状況なので、俺があいつを恨む気持ちになっても許してほしい。
まともに戦って勝てるはずがないのだから、逃げるにかぎる。
などと、のんきに考えていたら五本牙が突然、速度を上げてきた。
当然、俺も加速するしかない。
「おいおいおいおい……聞いてねえぞ!!」
五本牙が徐々に速度を上げていく。
小走りだった俺も、相手にあわせてペースを上げていった。それが繰り返されるうち、全力疾走に近い速度になっていた。
「くっそ。まずいぞ、おい」
ぼやきながら視界をめぐらせ、周囲を確認する。
たしか、スタート地点の近くには三階建ての管理棟らしき建物があったはずだ。
敷地内で一番高い建物は、すぐにみつかった。
おそらく、そこには狙撃班が配置されているはずである。
―――と、よそ見をしながら角を曲がったら、数メートル先が行き止まりになっていた。
すぐさま体を反転させると、今度は視界の端に赤い矢印がひらめいた。
「やばっ!!」
俺の意思とコンフー・マーキナの制御が合致した。
地面を蹴って後ろに下がった瞬間に、銀色の輝きが舗装を貫き、火花が散った。
逃げ道を絶たれた俺は、ふたたび方向転換して袋小路の奥に走り込む。
左右の両側はコンクリ壁。
最奥だけはフェンスが貼られている。
高さはそれぞれ、二メートルほどだろうか。
よじ登れば越せない高さじゃない。
追ってくる五本牙が、それを許してくれれば、だが。
「チッ……」
俺はホルスターから銃を抜いた。
五本牙が行き止まりの通路に入り込んできた。
「頼むぜ。気づいてくれよ」
伸ばした腕をまっすぐに構え、そのまま上に向ける。
銃口は真上だ。
高くなっている横の壁から、バレルの先端ぐらいは飛び出しているだろうか。
日の光が反射するように、俺はわずかに腕をひねった。
五本牙は、もう目の前まで迫っている。
あと数センチ近づけば、牙が一斉に繰り出される。
そう思った瞬間―――。
ガギン!!
五本牙の表面に展開した盾が、管理棟のほうから放たれた銃弾をはじいた。
続けざまに数発の銃弾が牙獣の黒い体めがけて降りそそぐ。
どうやら狙撃班が気づいてくれたらしい。
普段から重くてデカい、やたらとめだつ銃を持ち歩いていたおかげで助かった
「ありがとよ、アマンダ。助かったぜ」
あやういところで命拾いした俺は、フェンスをよじ登った。
登りきったところで管理棟のほうに投げキッスを送るなどと、余裕かましていたら背後から五本牙がフェンスめがけてつっ込んできた。
「おいばかやめろ。こっちくんな」
俺は全力で跳躍した。
着地点には錆びたドラムカンと、山積みになった古タイヤがひしめいていた。
「ここはっ、自動車っ、工場っ、だったん、ですかっ、ねっ!」
ドラムカンとタイヤの上をカエルみたいに跳ねる俺。
五本牙は俺の背後から、牙で障害物を蹴散らしつつ迫ってくる。
なかなかあきらめの悪いやつだ。そろそろ俺を見失ってくれないものだろうか。
こんな開けた場所では、そうもいかないらしい。
なので、俺は跳びはねながら手近な建物に近づいていった。
ジャンプしながら窓ガラスのむこうをチェックする。
屋内の床に何も転がっていないことを確認し、俺は建物の中に飛び込んだ。
ガラスをぶち破り、転がって勢いを殺す。
立ち上がったと同時に、出口をめざして走り出した。
五本牙がいる場所と逆の方向に疾走すると、ちょうどそこにあった扉を蹴破り、すぐさま外に出た。
「アクション映画みたいなことさせるんじゃねえよ。ったく」
服の埃をはたいてぼやきながら、今度は目に入った倉庫に駆け寄っていく。
とにかく今はゴール―――というか、スタート地点だが―――に逃げ込むのが先だ。こんなことやっていたら、命がいくつあっても足りやしない。
俺は息を切らして、廃工場の施設内を必死で走り抜けていった。
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一人称の練習で書いています。
読みにくい部分が多く、たいへん申し訳ありません。
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(例文)
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