表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブラッドファング  作者: ことりピヨネ
27/72

24.狭い通路に隠れようぜギリー

 全力で走っているうちに追ってくる五本牙との距離は、かなり開いていた。


 俺は走りながらギリーに言った。


「無線で応援を呼んでくれ。このままじゃ、ずっと追いかけっこだ」


 返事はなかった。


「おい。ギリー、聞いてんのか」

「……あ?」


 ギリーは戦場で地獄を見てきた兵士みたいな目で俺をにらんだ。


 正直、ちょっとこえーよ。

 トニーのことで、そこまで自分を追いつめているのだろうか。責任感の強そうなタイプは、これだから困ったもんだ。


「その……あまり、自分を責めるな。トニーのことは、おまえのせいじゃない」

「あんたは、もっと自分を責めなさいよ」


 ギラつく太陽みたいにトゲトゲしい口調だった。


 俺、そんなに責められるようなことしたおぼえがないぞ。


 などと思ったとき、ちょうど前方の建物に穴が開いてるところを見つけた。


「ギリー。あそこに……」

「行くなっ!!」

「あ、はい」


 噛みつきそうな勢いで怒鳴られて、俺は考えていた計画の変更を余儀なくされた。


「こっち!!」


 ギリーに言われるまま、建物の角を曲がる。


「きっとここなら安全よ!」


 曲がり角の先にあった細い通路の奥に、ギリーは踏み込んでいった。


「ほら見なさいよ。この木箱の影とか、隠れるのにちょうどいいでしょ。ねえ」

「わかったから静かにしろって」


 彼女が言うとおり、そこに大きな木の箱が置かれていた。


 俺たちは箱の影に身をひそめ、五本牙が通り過ぎるのを待った。


「ねえ。あいつ、止まってない?」


 ギリーが小声で言った。


 俺たちが隠れた通路から見える位置まで来たところで、牙獣は動きをピタリと止めていた。


 そして、そこから―――まったく動かなかった。


「なんなのよ。あいつ」

「シッ。音をたてるな」

「うぅー」


 俺たちは息をひそめて待った。


 しかし、五分たっても、十分たっても、五本牙はまったく動く様子がなかった。


「うー……」

「どうした」


 ギリーがしきりに低いうなり声をもらすので、俺は問いかけた。


「もう少しだ。落ち着いて待つんだ」

「そんなこと言ったって、ここ寒いんだからしょうがないでしょ」


 自分の体を抱くようにして、ギリーは身震いする。


 たしかによく晴れているとはいえ、ここはちょうど建物の影になっているせいか、だいぶ温度が低い。風が吹き抜けると、涼しいというよりも、寒いくらいに感じる。


 もちろん、上着を部分的に切り裂かれているなら、なおのこと体温が下がってもしまうに違いない。


「あんたの上着、貸しなさいよ」

「やめろって。服を脱ぐ音で気づかれでもしたら、どうするんだ」


 俺はジャケットの裾をつまんでみせた。


「いいか。まず、上着の裾を結ぶんだ。外気に触れる肌の面積が減るだけで、だいぶ違う。それから、ベルトをはずせ。そっとだぞ」

「ベ、ベルトはずさせて、何するつもりなのよっ」

「そのままじゃ、ズボンがずり落ちるだろ。バックルの音が鳴らないようにはずせよ」

「バックルなんて、切り落とされてるわよ」

「それなら好都合だ。ベルトをはずしたら、まず腰の両脇あたりのループを通して……」

「右? 左?」

「どっちでもかまわん。通したら、ベルトを腹のほうに回して、半分に折って反対側のループをくぐらせて……そう。そんな感じだ」


 俺はベルトが切れた場合の応急処置をギリーに教えた。


 ようするに、短くなったベルトで腰の半周分だけを使って、両サイドのループでたるみをしぼる方法だ。ベルトが切れるなんて、めったにあることじゃないから、覚えておいてもそんなに役には立たないが。


 ギリーは音をたてないように注意しながら、どうにか切られた服とベルトを整えた。


「よし。これで服は大丈夫だな」

「う、うん……あ、あ、あり、ふぁ……」


 何か言おうとしたギリーが、ふいに大きく息を吸い込んだ。


 くしゃみが出る。

 それを察した俺は、ポケットからハンカチを取り出してギリーの口に被せた。


「ぶひっ」


 音がこもっているせいか、豚の鳴き声みたいなくしゃみだった。


「ふがふが」

「くしゃみは、もう出ないか?」

「うーうー」

「そのハンカチ、やるから。腹が冷えないようにあてておけ」

「べべ、別にいらないわよ。こんなのっ」

「シー」

「……ごめん」


 俺が静かにするようジェスチャーを見せると、意外と素直な声が返ってきた。できれば、いつもそうしてくれているといいんだが。


 それにしても、五本牙のやつはさっぱり動く様子がない。


 そろそろ他の連中も、この状況に気づいてもらえないだろうか。トニーのことだって、手当てが必要な状況だから、いいかげん助けに行きたい。


 危機感を抱く俺の横で、ギリーがぶるっと身震いした。


「ううぅ~」

「なんだ。まだ寒いのか」

「な、なんでもない」

「ガマンしろ。やつに隙ができたら、そのときがチャンスだ」


 俺は声をひそめて、辛抱強く言った。


 けれども、ギリーの震えはぷるぷると小刻みなものとなり、痙攣でもしてるかのようになった。なんらかのショック症状だろうか。


「と、トイレ……行きたい」

「その場で漏らせ」

「なっ……!?」


 きっぱりと言いきった俺に、ギリーが驚きに目を瞠る。


 戦闘状況下での排泄問題なんぞ、いまさら語るまでもない。死ぬくらいなら漏らせ、以外に言うことなどない。命が優先だろ、命が。


「う、うぅぅぅ~」

「こら。静かにしろって」


 ギリーが身悶えし始めた。


「落ち着け。その……素数とか、数えてみたらどうだ」

「あ、あんた、あたしのこと、バカに、してんの」


 彼女の顔がひきつっている。


 口の端がつり上がるほど、歯を強く噛んでいるようだ。そんなふうにしてしゃべっているものだから、口調が切れぎれになっていた。


「だから、その場で漏らしちまえって」

「い、嫌よ。この変態!!」

「静かにしろって。んじゃ、あっち向いてるから、そのへんで済ませちまえって」

「そ、それも嫌ぁぁぁぁぁ。あうぅぅぅ……」


 尿意をこらえすぎてか、ギリーの顔色はみるみるうちに青白くなっていく。


「うぅぅぅ、くぅ、うぐぐ……」

「頼むから。静かにしろって」

「あうぅ。もっ、もう無理ぃ……げ、んかい……」


 そのとき、五本牙がゆっくりと動き出した。


 黒い霧の塊が、進行方向を逆にして戻っていく。

 まずいことに移動先は、俺たちがやってきた方向だ。


「あ、ああ、あああ、ダメ、ダメ、ダメ……いや、いや……いやぁぁぁ……」


 背後から、ギリーの絶望的な嘆きが響いてきた。


「ギリー!! まずい。やつが動いた。ここのまじゃ、トニーが……」


 俺が振り向いた瞬間、拳が飛んできた。


「こっち見んなバカぁーっ!!」

「コハッ……!?」


 殴り飛ばされた俺は、五本牙の前まで転がった。


 黒い霧の表面に、銀色の輝き。


「あ」


 手遅れ、だった―――。


---------------------------------------------

 一人称の練習で書いています。

 読みにくい部分が多く、たいへん申し訳ありません。

---------------------------------------------

・校正をなさってくださる方へ

 お手数ですが、ご指摘等をなさっていただく際には、下記の例文にならって記載をお願いいたします。


(例文)

----------

>~(←ココに修正箇所を引用する)

この部分は、(あきらかな誤用orきわめてわかりにくい表現or前後の文脈にそぐわない内容、等)であるため、「~(←ココに修正の内容を記入する)」と変更してみてはいかがでしょうか。

----------


 以上の形式で送っていただければ、こちらで妥当と判断した場合にのみ、本文に修正を加えます。

 みだりに修正を試みることなく、校閲作業者としての節度を保ってお読みいただけると幸いです。

---------------------------------------------

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ