21.あの壁の穴に逃げ込むぞギリー
全力で走っているうちに追ってくる五本牙との距離は、かなり開いていた。
俺は走りながらギリーに言った。
「無線で応援を呼んでくれ。このままじゃ、ずっと追いかけっこだ」
「無理よ」
「どうして?」
「無線機を持っているように見える?」
ギリーが両手を広げて見せた。
上着が牙の一撃で切り裂かれていて、体の中心線をなぞった分がほぼ丸見えだ。。
走っていると服がヒラヒラめくれるたびにヘソのあたりから、メロンみたいにでっかいものがぶら下がっている胸元までもが見えてしまい、たいへん目の毒だ。
俺の視線は、布地の間から見える肌色に集中していた。
そんなふうに見入っていたら、手でパッと隠されてしまった。
「どこ見てんのよ!」
「無線機が挟まってるかと思ってな。っていうか、おまえが聞いてきたんだろ」
「地獄に落ちろ!!」
とたんにギリーが毒づいた。
無線機のほうは、おそくら防護ベストのポケットにでも入っていたのだろう。
そういえばさっき、トニーが彼女を助けようとしたときに、ひっぺがされてしまっていたような気がする。おっぱいに夢中で、すっかり忘れていた。
ええい、冷静になれ俺。
問題は、このあとだ。
俺たち以外に工場の敷地内を進んでいたチームは、おそらく逃げたのと反対方向に進んでいるはずだ。
となると助けを求めるためには、このまま逆走してスタート地点まで戻らないといけない。
どこかに逃げ込んで、端末で知り合いに連絡するという手もある。状況が落ち着けば、だが。
もしかしたらトニーが無線で助けを呼んでくれているかも、という可能性もある。
どちらにせよ、救護は必要になってくる。
死傷者よりも負傷者のほうが人手に負担がかかる。そんなふうによく言われているが、今がまさにそれだなあ。
などと思ったとき、ちょうど前方の建物に穴が開いてるところを見つけた。
「ギリー。あそこだ」
俺は壁の穴を示しながら言った。
「あれがなんなのよ」
「中に隠れて、五本牙をやりすごそう。やつが通り過ぎたら、戻ってトニーを助けてから先行組に追いつけばいい。そうすりゃ、無線で応援を呼べるだろ」
「ああそう。いい考えですこと」
皮肉っぽい口調で返されたが、今は言い返してるヒマがない。
「このまま走って飛び込むぞ。ほら、お先にどうぞ」
「フン!! べ、別にあんたの言うことに従うわけじゃないんだからねっ」
などと言いながらも、ギリーは速度を緩めた俺の前に出た。
そのままぴょんと跳ねて、壁の穴に飛び込む。
続けて、俺も地面を蹴る。
―――が、その瞬間、着地寸前だったギリーのズボンがずり落ちた。
「わっ、わわっ」
空中でバランスを失い、転倒するギリー。
まきぞえになった俺と一緒に、二人して床を転がる。倒れる直前、姿勢を保とうと手を伸ばした俺の指先に、何かが引っ掛かった。
「あいたた……」
ギリーの声が聞こえた。
俺はと言えば、顔面を何かやわらかいものの間につっ込んで、何も見えん。
顔の位置をちょっとずらしたら、ギリーの眉とそっくりの色をした、ふさふさとしたものが見え―――。
「ぎゃあああああああああああっ!!」
あまり色気のない悲鳴とともに俺は蹴飛ばされた。
背後に倒れるとき、指先にひっかかったパンツが見えた。
「うおっ」
背中が壁にぶつかった。
と思ったら、壁があっさりと崩れた。
「……いってぇなあ」
仰向けに転がった俺の視界が暗くなる。
やば。
五本牙の真下で、俺は倒れていた。
そのまま、鋭い牙が俺の体を地面ごと刺し貫いて―――。
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一人称の練習で書いています。
読みにくい部分が多く、たいへん申し訳ありません。
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