表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブラッドファング  作者: ことりピヨネ
2/72

1.ヘレンのキャンディストアのリタ

 ドアを開けると同時に、チリンチリンとドアベルが鳴り響く。


「いらっしゃいませ」


 顔なじみのウェイトレス、リタの明るい声。


 ジョンジーのオフィスが入ったビルの隣にあるダイナー―――ヘレンのキャンディストアの定番となっているお出迎えだ。


「おはようございます。ファングさん」

「おはよう、リタ」


 俺はカウンターに近づいた。


 入り口から三番目のスツールに腰をかけると、注文しなくてもコーヒーが出てくる。半年間、この店に通いつめた成果であった。


「いつもの、でいいですか」

「ああ」

「はーい。ダニエルさん、アボガドバーガーお願いしますっ」


 調理場の料理人に声をかけて、リタがくるりと半回転。俺に笑顔をふりまいてくる。


「これから、お仕事ですか」

「ああ」


 俺はコーヒーを啜った。


 この店は朝昼晩で豆を変えている。

 朝のブラックはほどよい酸味で、寝起きの頭をスッキリさせてくれた。


 店内に流れるジャズを聞きながら、カップを傾ける。すると、日々の喧騒が嘘のように感じられるほど、穏やかな気持ちになることができた。


「どうした」


 リタはコーヒーを飲む俺の顔をじっと見ていた。


「えっ。こ、コーヒーの味はどうですかっ」

「うまい」

「そ、そうですか」


 店内に客は俺しかいない。


 ウェイトレスのリタも、ヒマなのだろう。

 飽きるほど顔を見ているはずの俺にも、手厚いサービスを提供してくれる。じつにいい店だ。


「毎日お仕事、大変ですね」

「ああ」


 相槌をうってから、俺は新聞を広げた。


 昨晩は交通事故が五件、強盗が三件、殺人はゼロ。

 発砲と傷害はあわせて六十二件。

 そして、牙獣による被害件数は―――八件あった。


「うわー。こわいですね」

「そうだな」


 いつのまにか横に来て、新聞をのぞき込んでいたいたリタの言葉に頷く俺。


 この街、ダンガーリーは危険が多い。

 特に最近は、ここ数年の中でもっとも牙獣の出現も増えていて、たいへん危険度が増していると言われている。


 中でも警察が問題視しているのは、牙獣そのものよりもハンターの存在だ。


 ハンターは申請さえすれば、誰でもなれる。


 牙獣の始末に手を焼いた国の政策で、そうなっている。人口およそ三十万人のこの都市で、登録されているハンターの数は七%―――だいたい二万人はいる計算だ。


 もちろん、俺もその一人である。


 半年前の、あの日―――。


 ホワイトテック社のラボから、ジョンジーに連れ出された俺は彼女の思惑通りハンターになった。


 最初のうち、ジョンジーは俺を連れまわして仕事のコツを覚え込ませくれた。

 だが、俺が一人で仕事をこなせるようになると、自分は日がな一日事務所で寝転がっているようになった。


 そればかりではない。

 ジョンジーは、まったく働かなくなったのだ。


『あたし、電話番。あんたのマネージメント業務で忙しいの』


 そんなこと言いながら、食っちゃ寝しているのである。


 実際ジョンジーから勤務中の俺に、電話がかかってくることはなかった。

 だいたいの連絡は市民の通報を受けた警察から直接、俺のところにくる。それはどのハンターも同じ仕組みでやっていることだった。


 そういうわけで俺は、こうして朝から晩まで銃を片手に街を走り回るはめになっていた。体よくこき使われていると言ってもいい。おかげですっかり寝不足だ。コーヒーがうまい。


「おかわりはいかがですか」

「もらおう」


 ちょうどカップが空になったところで、リタが声をかけてくる。俺は即座に頷いた。


 とにかく俺は、ジョンジーのせいで助かったとも言えるし、いらぬ苦労を背負い込んでいるとも言える。

 しかしまあ、彼女の放任主義のおかげで、自由にやれている部分もあった。


 それは―――。


「アボガドバーガー、お待たせいたしましたっ」

「ありがとう」


 俺はリタにチップを渡した。こら。そんなに、しっかりと手を握り返すな。


 さあ朝食の時間だ。

 できたてのバーガーを指ではさみ潰して、ガブリとかぶりつく。


 うまい。あいかわらず、ダニエルはいい仕事をする。


『―――朝のニュースです。本日七時五分。ホリデーパークスクエアで、またしてもハンターの誤射による傷害事件が発生しました。今月に入っての、ハンターの誤認による発砲事件は累計で―――』


 テレビから流れるアナウンサーの声が、さわやかな朝のひとときを台無しにする。


 そういえば、と。

 さっきまで考えていたことを思い出した。


 ハンターが牙獣を狩ろうとして、誤って市民を傷つけてしまう。

 警察が問題視しているのは、その点なのだ。


「うわぁ。あそこ、学校の近くなんですよねえ」


 リタが怯えた声を出す。


「うう。こわいなあ」

「心配するな」

「ええー、でもぉ」

「警察が動いたのなら安心だ。FB(ファング・ビースト・)CU(カウンター・ユニット)が動員されているはずだから、牙獣は確実に始末されている。素人まがいのハンターが銃を持ってうろついているよりは、ずっとましだよ」


 ほー、とリタが感心しきった様子で頭を上下させる。


「なるほど。ファングさんがそう言うなら、間違いないですね」

「安心して学校に行くといい」

「はいっ」


 リタは明るく答えた。


 それにしても、世の中には頭を悩ませる問題が多すぎる。


 俺も自分のことで精一杯だというのに、まったく困ったものだ。

 そもそも俺には元いた世界に帰る、という目的がある。


 そう。ここは俺にとって、異世界なのだ。


 とはいえ、いきなりそんな言っても信じてもらえないのは無理もない。

 俺だって最初は、学校帰りに誘拐されて、よその国にでも運ばれてしまったのかと思っていた。

 その気になればすぐ帰れる、と信じていたのだ。警察を通じて大使館にでも保護してもらえれば、あとは飛行機に乗って一瞬だ、と。


 だが、現実は違っていた。

 それには、すぐに気がついた。


 まず、あきらかに国籍が異なるはずの相手とも言葉が通じることだ。

 文字だって読める。不思議なことに俺が文字を書くと、この国の言葉になるのだ。まるで手が勝手に翻訳でもしているみたいに。


 もちろん、俺が今まで習得した言語をそのまま書くこともできた。あまつさえ、この世界にも俺の母国とそっくりの言語を使う国まであるらしい。


 そのあと俺は自分の考えを確かめるため、年表に目を通した。


 確認した結果わかったことは、元いた世界と同じ出来事もあれば、違う出来事もあった。たとえば同じ出来事でも、起きた年がズレていたりなどもあり、まるで世界が中途半端に改竄されているかのような感覚に陥ったほどだ。


 その時点で、ここが異世界であるということは、もはや疑いようのない事実となった。


 そして何より、牙獣の存在である。

 そんなもの、俺のいた世界には存在していなかった。


 っていうか、なんで俺だけこんな、元いたところと微妙に似た感じの異世界に送られなきゃならないんだ。

 普通は異世界と言ったら、もっとこうなんていうかドラゴンがいるだとか、剣と魔法の世界とか、そういうのだろ。ビキニのお姉ちゃんが大きな剣を振ってるやつ。いっそのことファンタジー要素はなくても我慢してやるから、ビキニの美女だけ拝ませてほしい。


「あ、あのー」


 テレビの画面をにらんでいた俺に、リタが遠慮がちに声をかける。


「あの、あの……あの、ですね」

「なんだ」

「い、いえっ!! ななっ、なんでもないですっ」

「そうか」

「……はい」


 リタは消え入りそうな声を出し、しゅんと項垂れた。


 おそらく彼女も不安なのだろう。

 危険に満ちた、この世界に。


 そんなリタのために俺ができることは、一人のハンターとして一匹でも多くの牙獣を狩ることだけだ。


「あの、ファングさん」

「なんだ」

「きょ、今日は……静か、ですね」

「いつも静かじゃないか」

「そ、そっ、そんなことないですよ」

「そうか」


 それにしてもこの店。客がぜんぜん来ないな。


 店内にいる客は、俺が入店してからまったく増える様子がない。

 窓から見える外の通りには、それなりの人が歩いているというのに。それはたしかにリタも暇を持て余して、俺にちょっかいをかけてこようというものだ。


 経営状態とか、わりと心配だ。

 何よりダニエルの作ったバーガーが食えなくなるのは、ちと困る。


「あのっ、やっぱり!」


 リタの話はまだ続いているようだった。


「あの、あのですねっ。あっ、あ、あし、あっ、あし」

「足?」


 俺は自分の足元に目を向ける。


 特に変わったところはなかった。

 リタは顔を真っ赤にして、手をわたわたさせている。風邪だろうか。


「いえ、いい、いいえ。足、じゃなくって、ですねっ」

「うむ」

「あっ、あっ、明日、もしよかったら……」


 電話が鳴った。


「すまん」

「ど、どうぞ……」


 ポケットからパーソナル端末を取り出す。


 端末は市から全市民に無償で配布されているもので、元いた世界で言うところのスマホみたいなものだ。ニュースなんかもこれで見れるから、本当は新聞なんぞ買う必要はないのだが、そういうのは気分が大事だ。気分が。


 連絡は警察からのものだった。


「仕事だ」


 俺はバーガーの残りを口に押し込み、コーヒーで流し込む。


 それから、リタに言った。


「話の続きは、また今度聞かせてもらおう」

「はい……いってらっしゃい」


 ダイナーを後にした俺は、人通りのまばらな通りに出た。

 スマートキーで電動バイクのロックを解除する。このSUPER73C1Xは、ついこないだ金が貯まってやっと手に入れてから、ハンター生活に欠かせない貴重な足となっていた。


 最初に見たときは電動自転車のエンジンを乗せ換えただけかと思ったが、気軽に乗り回す分にはなかなかに快適な乗り心地だった。使い勝手が良すぎるせいか、惜しいところはローンの支払いがまだ終わってないことぐらいしかみつからない。


 なので、今日もキッチリ稼がないとならない。

 頼りにならない家主と、俺の生活のために。


---------------------------------------------

 一人称の練習で書いています。

 読みにくい部分が多く、たいへん申し訳ありません。

---------------------------------------------

・校正をなさってくださる方へ

 お手数ですが、ご指摘等をなさっていただく際には、下記の例文にならって記載をお願いいたします。


(例文)

----------

>~(←ココに修正箇所を引用する)

この部分は、(あきらかな誤用orきわめてわかりにくい表現or前後の文脈にそぐわない内容、等)であるため、「~(←ココに修正の内容を記入する)」と変更してみてはいかがでしょうか。

----------


 以上の形式で送っていただければ、こちらで妥当と判断した場合にのみ、本文に修正を加えます。

 みだりに修正を試みることなく、校閲作業者としての節度を保ってお読みいただけると幸いです。

---------------------------------------------

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ