14.管理局のヴェロニカ
窓口に座るブロンド美人が、瞳を大きくさせて微笑んだ。
「すごい金額ね。おめでとう、ファング」
窓口脇のモニターに表示された数字から目を離さず、俺は言った。
「ありがとう。ヴェロニカ」
「一日の個人討伐数記録なら、歴代四位タイよ。すごいじゃない」
「へえ。そんな記録があるのか」
「こんなに働き者だとは思わなかったわ。いったい、どんな手を使ったの」
「そりゃ企業秘密だ」
格好つけて言ったはいいが、じつのところはそれほど勇ましい話ではない。
今日は早朝からずっと、メイプルとサラサンディーのケツにへばりついていただけなのだから。
何よりすごかったのは、サラサンディーの新兵器だ。
あの不格好な掃除機が、めざましい働きを見せてくれたのである。
T字型のノズルをつき出すだけで、なんと小型の牙獣がズボズボと吸い込まれていく。
すると、数秒後にチーンとレンジのタイマー音が鳴り響き、青い結晶をポロリと吐き出してくれるのだ。
いったいどんな内部機構でそうなるのか、まったく想像もできない。
サラサンディーに聞いてみたところ、『天のひらめき』で思いついた装置であるらしい。普段はやくたいもないガラクタでメイプルを困らせてばかりいる彼女だったが、今日ばかりは俺も頭が上がらない思いだった。
とはいえ、俺も多少は働いた。
掃除機で処理できるのは、牙が一本しかない小型の牙獣のみであった。
なので、ちょっと大きめの牙獣が現れたときは、清掃業務に励むサラサンディーの護衛についたメイプルが俺を呼ぶ。
そして、俺がカルテット・パーティーをぶっぱなす。
朝から夕方までで俺が撃ったのは、たったの五発。
一発必中で倒したすべてが、二本牙だ。
俺が昼飯を食いに行ってる間に、メイプルもナイフで一匹しとめていた。
なので、俺たち三人が一日で倒した二本牙の数は、合計で六匹。
牙で数えると十二本分。そこに掃除機で吸い込んだ、三十三匹の牙イチをあわせる。
よって本日のチーム・サラサンディーの成績は、なんと合計にして牙四十五本分。三人で山分けにしても、一人あたり十五本分の稼ぎとなったわけである。じつにありがたい。
「ああ。三人で組んで仕事したのね」
討伐対象者の内訳をチェックしたらしいヴェロニカが、意地悪な笑みを浮かべる。
「これ、サラサンディーがやったの? あの発明娘が」
「ご想像にお任せしよう」
「ふぅん。同意証明が必要だから、牙五本分の振り込みは彼女が確認してからになるわね」
二人はまだ、管理局に顔を出していないようだ。
まあ、夕方ぐらいにサラサンディーがいつもの調子で疲れた眠いと言い出したので、メイプルが送るところまでは見ている。
きっと明日には、二人も報酬を受け取りにくるだろう。
「んじゃ、明日は四位タイが、あと二人増えるぜ」
「上前ハネたわけじゃないんだ」
「見損なうなよ。本気を出せば俺一人で一位タイどころか、記録更新だって狙えるぜ」
「普段のあなたに聞かせてあげたいセリフだわ」
ヴェロニカがクスクスと笑う。
「んで、一位って誰なんだ」
「記録保持者は、あなたのボスよ」
「マジで!?」
俺は本気で驚いた。
「本当よ。一日の最多記録は牙二十本分。記録保持者はオセロット―――ああ、ジョンジーね」
ジョンジーの名前をあだ名で呼んでしまいそうになったヴェロニカが、すぐに訂正した。
「あいつ、そんなに働き者だったのか」
「そうね。半年前……だから、あなたが来る前の期間、スコアを塗りかえていったのは全部ジョンジーの仕業ね。管理局に申請される一日の討伐数のうち、一人で最大六%に達したこともあったわ」
「それすごいのか?」
「この街にハンターが何人いると思ってるのよ」
「二万ぐらい……だっけ?」
「そうよ。そのうちの最上位ランカーに位置する人材よ。おたくのボスは」
ヴェロニカは最後のひと言だけ、一文字ずつ区切る口調で言った。
「自信がこっぱみじんだぜ。やる気なくなっちまうなあ」
「あらあら。まっとうな仕事に就いて、お嫁さんでももらう気になった?」
「そいつは魅力的な提案だ。気だてのいい娘さんでも紹介してくれるのかい」
「すぐにでも応じられる女性が、一人いますけど」
窓口のアクリル板ごしに顔を寄せた俺らめがけて、背広姿のおっさんが聞えよがしの咳ばらいを響かせてきた。
ヴェロニカは上司に目をつけられちまったらしい。どうやら、俺も。
彼女はわざとらしい事務的な口調を装い、話を続けた。
「えーと、ファングさん。FBCUとの合同演習の通知は届いていらっしゃる? 確認事項がいくつか……」
「なんだって?」
「だから、合同演習の話。こないだ言ったじゃない」
「そりゃ聞いてる。でも、それに俺らも参加するのか」
「そうよ。FBCUから管理局に要請があったの。腕のいいハンターを何人か参加させろ、って。もちろん任意でよ」
聞いてないぞ、そんなの。
いや、FBCUの演習があるって話は、たしかに聞いた。ここで。ヴェロニカ本人から。
でも、それに俺らがつきあうなんてのは、まったく聞いたことのない話だった。
「おかしいわね。事務所の代表に連絡が行っているはずなんだけど。受信確認のサインも、たしかにあるわよ」
「確認ってのは、いつされたんだ?」
「えっと……昨日ね。午後には連絡が行ってるはずだから、たぶん、そのへん」
昨日の午後って何してたっけ、俺。
昼にステーキ食ったあと、K&Dのオフィスに乗り込んでいったんだったっけか。
んで、そのあとジョンジーと顔をあわせたタイミングは―――今朝しかねえな。
今日の朝、俺が事務所を出るとき、ジョンジーが何か言ってたような気がする。よく覚えてはいないのだが。
とにかく俺は悪くないぞ。何もかもジョンジーが悪い。
「あいつめ」
「え?」
「いや、こっちの話だ」
ようするに、こういうことだろう。
連絡を受けたジョンジーが、俺に何も伝えていない。
そういうことだと思う。ってか、そういうことにしておこう。
「悪いんだが、うちの不手際でその話は一切、俺の耳に入っていない。案内のパンフレットでもあったら、今すぐもらえないか」
「ここにはないわよ。関連データは端末に送られているはずだから」
「そうかい。それで確認したいことってのは、なんだったんだ」
「出欠確認。一応、要請では二人ともってなっているのだけれど、ジョンジーからはまだ返事がないわね。どちらかが出てくれれば、それでいいみたい」
「そうか。それなら……」
窓口前でねばっていると、今度は俺の背後から咳払いが響いてきた。言うまでもなく、報酬受け取りの待ち行列に並んでいる、同業者からのものだ。
さすがにここらが限界らしい。
「出席は俺だけでいい。ジョンジーは欠席にしておいてくれ」
「ボスに相談なしで、決めていいの?」
「かまわねえよ。あいつ、どうせ行かねえだろうしさ」
「わかったわ。処理しとく」
「ありがとよ。今度デートしようぜ」
「口ばっかり。悪い男ね」
ヴェロニカのアヒル顔と、後ろに並んでいた男たちの渋面に見送られ、俺は窓口を離れた。
さあ、待ってろジョンジー。
今夜はみっちり、お説教タイムだ。
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一人称の練習で書いています。
読みにくい部分が多く、たいへん申し訳ありません。
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