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ブラッドファング  作者: ことりピヨネ
15/72

13.ミリオンバレルカフェのメイプルとサラサンディー

 朝焼けの光を浴びた俺の口から、あくびが出てきた。


「ふぁ……」


 朝っぱらからホリデーパークのベンチ眠そうな顔をしている俺を横目に、白シャツとジョガーパンツをバッチリとキメた元気な爺さん婆さんが軽快に走り抜けていく。


 長生きするためには、やっぱり俺もああいう生活をしたほうがいいんじゃないか。

 なあ、ジョンジーさんや。


 昨晩ソファの上で横になった俺がジョンジーにたたき起こされたのは、予想していた通り日が昇る前だった。


 寝起きの直後、冷蔵庫のピザをどこにやったと糾弾されたあげく、かわりに朝食になるものを買ってこいと朝イチで走らされたのである。もちろん俺は走る前に、いいから服を着ろこの裸族めと毛布を投げつけてやったが。


 そんでもってテイクアウトの使い走りをさせられたあと、のんきにホットドッグにかぶりついてるあいつの顔を見てたらムカついたので、事務所を出ることにした。そのときジョンジーが何か言ってたような気もするが、俺は無視した。


 このまま仕事にとりかかってもいいのだが、朝飯ぐらいは腹に入れておきたい。

 俺にだって、そのぐらいの自由は許されるだろう。なあ、神様よ。


「どこかで腹ごしらえでもするか……」


 俺は公園を出て、通りを歩く。

 朝のジョギング客めあてで営業しているカフェが、すぐにみつかった。運の良いことにベーカリーを併設してる店だったので、しっかり食事もできそうだ。


 なので迷うことなく、俺はミリオンバレルカフェに飛び込んだ。

 タッチパネルで注文を済ませたところで振り返ると、ちょうど店の入り口から入ってきた二人組と鉢合わせになった。


「ファングさん!! おはよう、おはよう! メイプルも! 見えてる? ファングさんだよ。そこいるよ! 目、開けて! おはようして、して!!」

「おはよう」


 大きな声で俺の名を呼ぶアフリカ系の少女が、一緒にやってきた眠そうな目をした少女が着ているレザージャケットの袖をつかんでゆさぶると、小声で挨拶が続いた。


 俺は軽く手を上げて、顔なじみの同業者コンビに挨拶を返した。


「おはよう。サラサンディー」

「おはよう!! おはよう!」

「メイプルも」

「うん」


 元気いっぱいのサラサンディー。そんな彼女に対して、相棒のメイプルは今にも消え入りそうな声とともに頷き返すだけだった。


「サラね、注文してくる! メイプルの分も!! メイプル、食べる。朝ごはん! 何食べる? 何にする!」

「ミルク。ホットで」

「わかった!! サラも、ミルク! ミルクのポリッジ!! 食べる!」


 ドドド、と擬音でもつきそうな勢いで、サラサンディーが注文カウンターに駆け寄る。


 俺はメイプルと並んで、カウンターの脇で壁に背を預けた。


「あいかわらず、サラは元気いっぱいだな」

「そうね」


 メイプルのテンションは低かった。


 だいたいいつもそんな感じなので、俺は特に気にはしない。

 メイプルは寝不足気味の目許を見せてはいるのだが、決して隙を見せることのない性格だ。ただ単に、レザー系でまとめた服装にあわせて、暗色のメイクを好んでいるだけにすぎない。


 ただまあ、少なくとも世間話にかぎって言えば、このダウナー系の少女のほうがしやすい感じではあった。


「最近、どうだ」

「どう、って?」

「稼ぎとか、あぶないことしてないか、とかさ」

「稼ぎは、まあまあだよ」

「俺もだ」

「あぶないことは、まあ……いつも」

「そりゃ大変だ」

「あの子の面倒をみてあげるのが、あたしの仕事だから」


 とたたたた、とサラサンディーが戻ってきた。


 メイプルはとたんに口をつぐんだ。

 本人の前では、サラサンディーをお荷物扱いするようなことを絶対に言わない。そういう律儀なルールを固く守っているらしい。


 サラサンディーがメイプルに詰め寄った。


「サラ、注文、したよ!! メイプルの、ミルク! 頼んだ!」

「自分のは?」

「もちろん!! ミルクのポリッジ! 頼んだ!」

「えらい、えらい」


 メイプルがサラサンディーの頭を撫でる。


 その唇の端が、かすかに上がっていた。よほど近くで見なければ、微笑んでいるとは気づかないだろう。

 普段はほとんど表情の変化を見せない彼女だが、仕事とうそぶくわりには、まんざらでもない様子だった。


 そこで、ふいにサラサンディーの視線が俺を射る。


「今日はね、新兵器!! 新兵器あるんだよ! 見たい?」

「あ、ああ」

「これ!! これね、これね! すっごいの!!」


 そう言って、くるりと回って俺に背を見せる。


 これはたしかにすごいというか、なんというか。

 華奢なサラサンディーがリュックのように背負っている荷物は、巨大な掃除機にしか見えない代物だった。しかも、本体から伸びるホースの先にT字型のノズルがついた、まるでタイムマシンで発掘してきたかのごとく古臭いモデルだ。


「これね、これでね! 牙獣をゴーッ!! ……ってね、吸うの! 吸い込むの!! そしたら、やっつける! わかる?」

「わからん」

「あらー」


 サラサンディーは目と眉で山なりに傾いた=記号を描いて、肩をがっくりと落とした。いや本当に。マンガみたいな、そういう表情になるんだよ、この子。


「メイプルぅ~。ファングさん、わかってくれないよー」

「あまり他の人を困らせてはいけないよ。サラ」

「はいなー」

「お店の中で大声を出して騒ぐのも、無しだよ」

「あい~……」


 メイプルにたしなめられて、しょぼくれたサラサンディーの顔が寝ているパグとそっくりになったところで、店員からお呼びがかかる。


 注文の品は、三人分まとめて出てきた。騒がしくしちまって、ごめんよ店員さん。


 カウンターでトレーを受け取った俺たちは、窓辺の席に並んで座った。


「サラ、食べるよ!! いっぱい、ミルクのポリッジ! 食べる!」

「サラ。食事のときは静かにする、って約束したよね」

「はひ」


 さっそくメイプルに注意されて、サラサンディーは静かになった。


「今日はどこに行く予定なんだ」


 俺はメイプルにたずねた。


「特に決めてないよ」

「あてがあるんだ。ひとつ、山分けといかないか」

「詳しく」


 端末を出して、ケインズから教わった例の地図を見せる。


 そこに描かれた三ヶ所のうち、ホリデーパークスクエアは一昨日前に捜索済みだ。

 そして昨日、様子を見ただけで終わったマクリントン通りをのぞけば、最後の一か所がアーロン通りとなる。


「データの信憑性は?」


 メイプルの冷静な声。


 俺は二日前に稼いだ金額を伝えた。


「悪くはないね」

「だろ。小物を狩って数で稼ぐ感じになるけどな」

「でもさ。他の連中も集まって来るでしょ、そういうとこ。勘が働くやつ、多いから」

「まあな。一昨日はこのへんで、ましろとかち合わせになった」

「ましろって、あの着物の美人?」

「ああ。刀持った危険人物な。まくのに苦労したんだぜ」

「仲悪いの? あの女、あんたにベタ惚れしてると思っていたんだけど」


 冗談はよせやい。


「あいつには斬り殺されそうになった覚えしかないぞ。三回ぐらい。一昨日なんかは、腕の関節を極められた。それからバカでかいパフェと、頭ぐらい大きなグラスのトロピカルドリンクをおごらされた。他はあと、えーと……」

「噂どおりの男だね、あんた」

「何がだ」

「なんでもない」

「それで、どっちに行く? このへんはもう、誰かが張りついているだろうから、マクリントン通りかアーロン通りのどちらかに……」

「こっち!!」


 俺がしゃべっている途中で、サラサンディーが地図の一点をびしっと指した。


 指先が示すのは、アーロン通りのほうだった。


「……えーと、サラサンディーくん」

「なんぞなー!!」

「どうして、こっちなんだ」


 俺の質問に、椅子の上に立ったサラサンディーが腕組みして答える。


「ふふふ……勘です!!」

「あてずっぽうかよ」

「じゃあ、それで」


 メイプルが短く同意する。


 サラサンディーは、なんかよくわからんポーズで格好つけてるみたいだった。一応、説明しておくと指鉄砲を両手で作り、腕で額縁みたいな枠を描いて、自分の顔を囲っている。子供の間で流行っているのか、そういうの。


「むふふ。サラの勘はよく当たるのです。そう、サラは人呼んでブルズアイのサラサンディーなのです」

「サラ。椅子の上に立つのは、いけないよ」

「あう」

「食事が終わったら行ってみよう。それでいいよね、ファング」


 メイプルの言葉に頷き返して、俺は朝食のサンドイッチをつまみ上げた。


「おうよ―――っく、んぐ」

「食べるのはや!!」


 ローストビーフのサンドイッチを丸飲みした俺を見て、サラサンディーが目を丸くする。やったぜ。


 頬についたグレービーソースを舌でペロリと舐め取り、俺は立ち上がった。


「先に出てるぜ。バイクとってくる」

「外で待ってる」

「いてらまっしゃいもぐもぐ」

「サラ。はやく食べないと置いていくよ」

「へにゃ~」


 すみやかに朝食を終えた俺は、公園の近くに止めてあったバイクを拾いに行った。

 店の前まで戻ってくると、モノトーンの青いハーレーに跨ったメイプルが待っていた。


 メイプルのハーレーダビッドソンはFLHTCU S/Cという、とっくに生産終了しちまったサイドカーモデルだ。俺のバイクよりも、ずっとお高い。

 彼女が世話になってる教会のシスターから借りたと聞いたことはあるのだが、神の使いってのは、よほど儲かる商売らしい。うらやましいかぎりである。


 俺はサイドカーの右側についた、舟のほうに目をやった。

 サラサンディーの姿は―――見えない。


「おちびさんは?」

「お花を摘んでる」

「そりゃ失敬」


 バイクを止めてサラサンディーを待っていると、予備のメットを手の中でもてあそびながらメイプルがぽつりと言った。


「今日の仕事。誘ってくれて、ありがとう」

「いいってことよ」

「あんたが一緒だと、あの子が嬉しそうだからさ」

「そうかい? 普段と変わらない気もするけど」

「本当に鈍いんだ。あんたって」


 俺はあさっての方向に視線を送る。


「あたしも嬉しいんだけど、気づいてないよね」

「本気にしちまうぜ」

「冗談だよ」

「冗談を言うタイプには、見えないけどな」

「だったらこのまま、ずっと三人でチームを組む?」

「そりゃあ、いいな。今日から、チーム・サラサンディーのファングってことでよろしくな。ジョンジーのところには、あとで退職届を郵送しとく」

「噂に名高い山猫の子分を引き抜くなんて、後が怖いね」

「心配すんな。俺が一緒にいて、ずっと守ってやる」

「だから、冗談だって。冗談」

「お待たせ、お待たせ!! サラが、サラサンディーが来たよ、来ましたよ! もふぁ」


 店の自動ドアを突き破らんばかりの勢いで、ダッシュしてくるサラサンディー。その頭に、メイプルがメットをもすっと被らせた。


「あうあう。目の前まっくらよ~」

「ほら、乗って。行くよ。ファング、先導して」

「あいよ」


 俺はアクセルをひねった。


 なんだかいろいろ、はぐらかされてしまったような気がしないでもない。かなり真剣に、転職先としては悪くない候補のひとつだと考えてはいたんだが。


 ともかく一時的にではあっても、人手が多いにこしたことはない。

 今日もしっかり稼ぐとしよう。


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 一人称の練習で書いています。

 読みにくい部分が多く、たいへん申し訳ありません。

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・校正をなさってくださる方へ

 お手数ですが、ご指摘等をなさっていただく際には、下記の例文にならって記載をお願いいたします。


(例文)

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>~(←ココに修正箇所を引用する)

この部分は、(あきらかな誤用orきわめてわかりにくい表現or前後の文脈にそぐわない内容、等)であるため、「~(←ココに修正の内容を記入する)」と変更してみてはいかがでしょうか。

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 以上の形式で送っていただければ、こちらで妥当と判断した場合にのみ、本文に修正を加えます。

 みだりに修正を試みることなく、校閲作業者としての節度を保ってお読みいただけると幸いです。

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