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ブラッドファング  作者: ことりピヨネ
14/72

12.俺のベッドの上で寝るなジョンジー

 俺は事務所に帰ってきた。


「戻ったぞ」


 やさぐれた口調とともに、ドライヤーの入った箱をソファの上に投げ捨てる。


 返事はなかった。

 どうやらジョンジーは外出中らしい。


 上着を脱いでコートハンガーにひっかけてから、俺は浴室に向かった。


 シャワーを済ませて、応接室兼居間に戻る。


 テレビをつけて、報道のチャンネルを選ぶ。


『……世界的な話題となってから、はや十二年。閉鎖状態が続くダンガーリー市について、ヨーロッパの人権団体から声明が発表されました。本日は、この問題に詳しいゲストをスタジオにお招きして……』


 流れてきたニュースを聞きながら冷蔵庫をあさる。


 食べかけのピザが半分ずつで、一枚分入ってた。


「そういえば今日は、追加でもう一枚の日か」


 近くのデリバリーピザで実施しているサービスディのことを思い出しつつ、ひと切れ口にくわえて残りが入った箱ごと運ぶ。ついでに清涼飲料の缶も忘れない。


 ソファに腰を下ろした俺は、テレビの音声をBGMがわりにピザを齧った。


『……ですから、その牙獣と呼ばれる害獣が発生した際の政府側の対処が問題となっているのです。当然、市民の居住者が数十万といった規模の都市ですから、そこには当時、旅行者や一時的な滞在者であった人々などもふくまれておりまして、そういった方々が牙獣発生から十年以上ものスパンで拘留を受けている、これは著しい人権侵害にあたるのではないか、というのが彼らの主張であり、保護活動の主旨なのであります。しかしながらそれに対し、行政側の回答は……』


 ピザうめぇ。

 冷えたチーズの塩気がたまらん。追加で乗ってるソイミートのほのかな甘味とよく合う。


 晩飯を急いで食ったせいか、腹具合にはまだ余裕がある。

 その隙間にピザと炭酸ドリンクを流し込みながら、俺は窓辺に視線を流した。


 街の明かりでうっすらと照らされた夜空に、第二の地平線がかすかに見える。


 正確に言うと、それは地平線ではなく、街を囲んだ壁だ。


 今から十二年前―――。


 このダンガーリーの街で、最初の牙獣が出現した。


 それにともなう事態に対し、行政はすみやかに対応した。それまであった賞金稼ぎ制度―――保釈金業者の依頼で逃亡した犯罪者の身柄を確保する職業だ―――を拡大し、この地域内にかぎって民間人でも銃器を所持し、牙獣の駆除に参加できる資格が得られるように法律を改正した。


 ハンターの誕生である。

 事態はそれで収束するかに見えたが、誰も予想できない方向に悪化した。


 街の外でも、牙獣が出現するようになったのである。

 パンデミックのごとく、世界各地に牙獣の現れる範囲が広がっていった。規模こそ小さいものだったが、それこそ世界のあちこちに。


 政府はすぐに各国と連携し、調査を開始した。

 その結果、判明したのは『ダンガーリーの市街に立ち入ったことのある人間の周囲に、牙獣が現れるようになる』ということだった。


 これまで街を一度でも訪れたことのある人は、あらゆる手段をもってダンガーリーの市街に戻された。ただの旅行者も、政治家も、配送トラックの運転手も、世界を股にかける敏腕営業マンも、たまたま乗せた奇特な客を超遠距離から運んできた不運なタクシードライバーも―――みんな一緒くたに、街に放り込まれたのだ。


 そして、街の周囲は巨大な壁に囲まれることとなった。


 その場にいる人々は、隔離されたのである。

 世界中の、その他の地域に住む人々の安全と引き換えに。


 人口およそ三十万人のこの街は、丸ごとすっぽり壁の中に囚われた。

 外にいる連中は、この街のことをジェイルシティなんて呼ぶらしい。あってるような、そうでないような。


 とはいえ、さすがに住人をそのまま見殺しというわけにはいかないので、生活に必要な物資は外部から送られてくる。


 衣類、食品、建築資材、燃料、嗜好品、家電類、そして銃器に武器弾薬―――。

 いずれも検査済みの合法な品ばかりである。おかげでギャングが扱う違法な品は完全にシャットアウトされ、この国では唯一の、麻薬中毒患者の存在しないクリーンな都市が誕生した。


 そのうえ銃を手にしてハンターになれば、この街では誰も飢えたりせずに暮らせるものだから、犯罪の発生率は極端に下がった。

 街の治安はたいへん良好である。子供を一人で出歩かせても平気、とまではいかないが。


 しかしまあ、それらの事情もあって俺ら街の住人は、さほど生活に不自由はしていない。何事にも、良い面と悪い面があるというものだ。


 見てきたかのように語ってしまったが、俺も実際、十二年前からここに住んでるわけじゃない。


 ただ、この半年で感じたことがひとつある。

 この街は意外と住みやすい、ということぐらいだろうか。


『……不思議なことに、街の住人は外部からの流入によって増加の傾向があるのです。好意的に解釈すれば、これはダンガーリーが暮らしやすい都市であるということであり、逆説となりますが人権の侵害にはあたらないのではないかというのが識者の……』


 俺はチャンネルを変えた。


 ちょうど今夜からホラー映画の配信が始まっている。

 ストリーミングなので見逃さずに済んだ。便利な時代に生まれてよかった。


「うーむ……四十五、いや三十五点か」


 映画の内容はいまいちだった。


 地球のキャンプ地にやってきた宇宙人が大学生グループとバッティングしてしまい、不幸な出会いから連続殺人事件が起きるという内容だったが、いささかコメディタッチに描きすぎるうえ、肝心のゴア描写がCGの落書きみたいでチャチなものだった。


 これを見るのは、好きなジャンルならとりあえず見る、というマニアぐらいなものだろう。今どきのホラー映画は玄人向けが多すぎて困る。じつに嘆かわしい。


 などとやっていたら、時計の針が一時近くまで回っていた。

 それにしてもジョンジーの帰宅が遅い。どうせどこかのバーで酔い潰れているのだろうから、別に心配はしていないが。


「そろそろ寝るか」


 明日も朝から仕事に出なければならない。

 酒癖の悪い家主をほっといて、俺は自室にむかうことにした。


 部屋といっても、たいして物は置いてない。

 というか、元は物置きだった部屋にベッドとハンガーラックを置いただけだ。異世界から来た俺に、私物なんて物はさしてあるわけがない。


 部屋に入ろうとしたところで、俺はベッドの不自然な膨らみに気がついた。


 足を忍ばせて、そっと寝台に近づく。


 シーツに手をかけ、静かにめくる。


「何やってんだ、この野郎は……」


 中から出てきたジョンジーの寝顔を見て、思わずそんな声が出た。


 どうやら俺が帰宅する前から、ずっとここで寝ていたらしい。だいたいなんで、人のベッドにもぐり込んだりしているんだ。俺が気づかずに入っていたら、どうするつもりなんだ。


 どうせ待ち伏せして俺を脅かそうとでも思って、そのまま寝込んでしまったに違いあるまい。なぜ全裸なのかは考える必要もないし、俺は何も見ていない。見ていないことにした。しました。


「やれやれだ」


 俺はシーツを戻してから、毛布を持って応接室に戻った。


 ソファの上に寝転がり、毛布をかぶって深呼吸。

 俺の目が覚めるまで、ジョンジーが起きてこないことを心の底から願っておいた。


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 一人称の練習で書いています。

 読みにくい部分が多く、たいへん申し訳ありません。

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・校正をなさってくださる方へ

 お手数ですが、ご指摘等をなさっていただく際には、下記の例文にならって記載をお願いいたします。


(例文)

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>~(←ココに修正箇所を引用する)

この部分は、(あきらかな誤用orきわめてわかりにくい表現or前後の文脈にそぐわない内容、等)であるため、「~(←ココに修正の内容を記入する)」と変更してみてはいかがでしょうか。

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 以上の形式で送っていただければ、こちらで妥当と判断した場合にのみ、本文に修正を加えます。

 みだりに修正を試みることなく、校閲作業者としての節度を保ってお読みいただけると幸いです。

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