A.地上世界のファング
ずっと、ずっと―――。
私はずっと、一人きり。
すごく、すごく―――。
さびしくて、さびしくて、たまらなかった。
でも、あるとき。
ここに、よその世界から彼が来てくれたの。
でも、彼は前の世界では死んじゃったみたいなの。
だから、ここにいる彼は記憶だけ。
私は彼の記憶を元に、彼を作り直してみたの。
そしたらね、彼ったら。
ここから見える、地上の世界に落ちていっちゃった。
私はあわてて手を伸ばしたんだけど、届かなかった。
それどころか、大変なことが起きてしまった。
ここと地上の世界の間にある黒い壁。
私が触ったせいで、それが崩れてしまったの。
崩れた欠片が、ばらばらと地上の世界に降りそそぐ。
黒い欠片は瞬くうちに広がって、地上の世界は消えてしまった。
もちろん、そこに落ちていった彼と一緒に―――。
でも、大丈夫。
私はすぐに、地上の世界を作り直した。
幸いなことに彼の記憶はそのまま、ここに残っている。
それを使って、もう一度、彼のことも作ってみたの。
結果は―――同じだった。
何度、繰り返しても、彼は地上の世界に落ちていってしまう。
何度、繰り返しても、地上の世界が壊れてしまう。
私はまた、彼と、地上の世界を作った。
壊れても、壊れても、壊れても―――あきらめることなく、何度も作った。
だって、彼に会って、話がしたかったら。
そうやって、何度も、何度も、やり直しては失敗して、泣きたくなるくらいに繰り返して、私はやっと自分の間違いに気がついた。
まず、彼を一気に完成させようとしないほうがいい、というアイデアがひらめいた。
彼の記憶をまとめて詰め込もうとすると、その体はすぐに地上の世界に落ちていってしまうから。
そのことに気がつくまで、だいぶ時間がかかってしまった。
私はひとまず、からっぽの彼を作って、様子を見ることにした。
そうして時間をかけて、少しずつ彼に記憶を戻していけばいい。
そうすれば、みんな、うまくいく。
私はそのとき、そんなふうに簡単に考えていた。
そのやり方は半分ぐらい間違っていて、半分ぐらいは正解だった。
記憶をある程度まで戻すと、彼はやっぱり地上の世界に落ちていくけれど。それでも、少しずつ彼は完成形に近づいていった。
だけど、今度は別の問題が発生した。
まだ記憶を戻しきっていない、ほとんどからっぽのカカシみたいな彼が、地上で黒い欠片にあっさりと壊されてしまうまでは。
このままではいけない。
そう考えた私は、彼にいろいろと役立つものをつけてみることにした。
地上の世界のあちこちから集めた、いろいろなものをひとつずつ、順番に彼につけたり、はずしたり、つけたり、はずしたり、つけたり、はずしたり、つけたり、はずしたり―――他の人からは想像もつかないような苦労を何度もしながら、それはもう大変な試行錯誤を繰り返していったの。
そしたら、だんだんうまくいくようになってきた。
ここ最近は、特に順調で、彼もすっかり地上の世界になじんできたみたい。
黒い欠片に襲われても、彼はぜんぜん平気。
だって、もし私が地上の世界に行けるのなら、彼に守ってほしいもの。
そのくらい、彼は強くなった。
でも、まだ私のことには、さっぱり気づいてくれないの。
記憶がまだ、全部戻っていないから?
ここに残っている、彼の元になった記憶の大部分―――というか、そのほとんどは、地上の世界にいる彼にはまだ戻せていない。
名前だって、ここに置き去りにしたまま、彼は地上の世界をさまよっている。
そんな彼を助けてあげたい。
なんでもいいから、力になってあげたい。
彼のことを―――力いっぱい抱きしめてあげたい。
そうして抱きついた腕の力から、彼がびっくりするほどひよわな私に気がついて、微笑んでくれるところが見てみたい。
私の全部で、彼のことを受け止めて、愛してあげたい。
私は、ずっとそう思っているのだけれど―――それは、できないことだった。
なぜなら、そうやって私が地上の彼に手を伸ばそうとすると、それだけで黒い欠片が舞い落ちて、地上の世界が壊されてしまうから。
気持ちが強くなればなるほど、私は彼から、彼の世界を奪ってしまう。
それは、とても悲しいことだと、私は知っている。
今度こそ、今度こそ―――。
次こそ、うまくやらないといけない。
私は、ここから見える地上の世界―――まるで、小さな光の玉のようなそれを、そっと抱きしめた。
そうするだけなら、黒い欠片は地上の世界に降ることはない。
だから、やさしく、やさしく―――地上の世界にいる誰よりもやさしい気持ちで、彼のことを見守りながら強く念じた。
ああ、神様。
どうか彼が、この世界から愛されますように―――と。
私は、地上の世界からは見えないここで、祈りを捧げた。
私の祈りを聞くことのできる、地上の世界にいるお友達。
できることなら、私の言葉を彼に届けてほしい。
黒い欠片が集まって、だんだんと、大きくなっていることを。
それは、とても危険なものだから。
逃げて。
逃げて。
一目散に走って逃げて、そこから逃げて―――と、彼に伝えて。
お願い。今度こそ。
彼と、地上の世界が、うまくいきますように。
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一人称の練習で書いています。
読みにくい部分が多く、たいへん申し訳ありません。
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