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ブラッドファング  作者: ことりピヨネ
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9.診察室のアリエル

 午後は必死に走り回って、牙イチのシケた稼ぎ。


 せめて一匹ぐらいは狩らないと、と思ったところで電話が鳴った。


「ちょっと!! ファングくん。定期検診の日、忘れてない?」


 通話に出るなり、これだ。


 俺の体を誰かがいじったことは、すでに先刻ご承知の通り。


 どのようにいじられているかを調べてくれたのが、彼女―――女医のアリエルだ。


 それというのもハンターの資格を申請する際に、健康診断を受ける必要があるとかで、ジョンジーのつてを頼って病院に行ったのである。


 そしたら、そこが個人経営の病院にあるとは思えないような、あやしい機械がズラリと並んだ施設だったわけだ。最初に見たときは、マッドサイエンティストの研究所かと思ったくらいで、正直生きた心地がしなかった。


「あー、先生。今、仕事中でさ」

「いいからさっさと来なさい。今ちょうど診察が終わって、手が空いたところなんだから。急いで」

「だから、俺は今……」


 説明しようとしている間に電話が切れた。


「しょうがねえなあ」


 俺は仕事を後回しにして―――残業確定だ―――バイクを病院に向かわせた。


 ダウンタウンのほど近くに、そのビルはあった。


 見た目は古臭い木造アパートだ。

 だが、どうにも不自然な箇所がめだつ。屋上の貯水設備にはネイビーカラーの不自然にゴツいタンクが置かれているし、住人は一人しかいないはずなのに、開いた窓から用途不明の受信アンテナが何本も飛び出している。


 外側部分の壁には、あちこちに監視用のカメラが配置されていた。さらにはあきらかに何か仕込んでいそうな、二十センチ角のスライドシャッター―――そこから銃口が出てきても、違和感なしの構造だ。


 他にもいろいろあるが、数えていたらきりがない。

 そのくらい、不審な建物と言っていい代物だった。


 K&Dのオフィスに続いて、俺が来たくない場所である。

 嫌な名所めぐり、とでも嘆くべきか。どうして、こんなところにばかり行かないといけないんだ。今日は厄日か。


 ため息をたっぷり吐いてから、俺は裏口に回った。

 半地下の駐車場入り口で呼び鈴を鳴らすと、音もなくシャッターが開く。


 中に入った俺はバイクを止めて、フロアをつっきってエレベーターに進む。

 一階のボタンを押すと、やはりまた無音のまま、箱の上昇する感覚があった。見た目はボロい木造なのに、いったいどういう作りになっているんだか。


「先生。来たぜ」


 エレベーターを降りた俺が呼びかけると、壁のスピーカーから返事があった。


『診察室にいるから』

「あいよ」

『階段の扉が開いてるけど、セキュリティが反応しちゃうから二階には行かないように』

「行くとどうなるんだい?」

『麻酔銃で撃たれるだけだよ。死にはしない』


 死ななきゃいい、ってもんじゃないだろ。


 俺はうかつな扉に触れないよう注意しながら、廊下を進んだ。第一診察室と書かれたプレートが貼りつけてある扉まで、すぐにたどり着いた。


「心臓に良くねえ病院だな、まったく」


 ノックをして入室すると、そこはごくごく普通の診察室だった。

 ありきたりな事務机に、診察用の寝台。絶対に何か仕込んでそうだと勘繰りたくなるそっけなさだった。


「そこ。座って」


 腰を下ろしただけでギシギリと鳴る、安っぽい事務用の椅子を勧められた。


 ちなみに目の前にいる白衣姿の女医さんは、すごい椅子に座っている。


 いわゆるVRチェアだ。

 アルファベットのC字型を思わせるフレームの上部先端には、モニターやらキーボード、どう見ても普通の眼鏡にしか見えないVRゴーグルと同期しているらしいコンソールなどがぶら下がっていた。その反対側には、普段はアームレストやフットバーとして使えるらしい、ハーネスと兼用のトラッカーなどいった高価な機材が接続されている。


 極めつけは、そのフレームの下端部分にあった。

 たっぷりと金をかけたカスタムオーダーメイド筐体の下には、六本の足まで生えていて、そのまま移動も行える機構となっていた。


 その気になったら、ずっとこいつの中で寝転がって生活できそうだ。いつ見ても、仰々しいとしか思えない物体である。医者って儲かるんだなあ。


「どこか体に異常ある?」

「ねえよ」

「あっそ。んじゃ、診察終わり」


 とても雑な診察をされてしまった。


 とはいえ、どうせエレベーターの中にいる間に、いろいろ体の中身を調べられていることは知っている。銃やら弾丸といった金属を携帯していても、おかまいなしで内部を調べられるなんて、どんな装置を使っているのか俺にはさっぱり想像もつかない。体に悪そうなセンサーで見られてないといいんだが。


 ま、それはともかく。

 わざわざここまでやってきたのには理由がある。そろそろ本題に入らせてもらおう。


「んで。俺の体をいじったやつについては、何かわかったのか」


 アリエルは首を振った。


「手がかりなしか」

「いや。あるよ」


 俺は精神的にズッコケた。姿勢は微動だにさせなかったが。


「どっちなんだよ。はっきりしてくれ」

「いじったやつは、わかっていない。手がかりはみつかった。オーケー?」

「わかったわかった」


 なんとも几帳面な表現にこだわるドクターめがけて、俺は適当な相槌を返した。


「で、その手がかりってのは?」

「順番に説明しよう」


 筐体のディスプレイが百八十度旋回して、俺にも見える位置になった。


 画面に表示された図表は、何かのリストのようだった。


「なんだこりゃ?」

「コンフー・マーキナの製造元から手に入れた、顧客リスト」

「へえ。こんなもの公開してるのか」

「してるわけないじゃん」

「ぶ」

「ちょっと、まあ。偶然、手に入ったっていうか。もらったんだよね、知り合いから」


 どう考えても非合法な手段で入手してるだろ、それ。


 しかしまあ、俺としては都合がいい。

 なので、このさい目をつむっておくことにしよう。


「んで、これによると、ここ」


 リストに表示されたシリアルナンバーが赤い丸で囲まれた。


「これ、あんたの体の中に入ってるやつと一致した」

「マジか」

「背面にマニュピレーターつけよっかなあ」

「何の話だ、それは」


 俺は一瞬、戸惑った。


「いや。この筐体、マニュピレーターが前にしかついてないからさ。ぐるっと回さないと背後の扉が閉められなくて困っているんだ」


 ドクターの説明を聞いてから、俺は頭の中を整理した。


 ようするに、これは俺が求める手がかりとは、なんの関係もない話だ。


 まあ、こういうことはよくある。ドクター・アリエルは天才肌の人間なので、思ったことがすぐ口にでるらしい。

 脳味噌の出来が違うので、彼女の頭の中ではいくつもの話題が並行して進んでいる。一般人としては会話がブツ切れになって、やりにくいことこのうえない。


「マニピュレーターでもなんでも、つければいいじゃねえかよ」

「そうすると、重量がかさむんだよね」

「それで、シリアルが一致したって件は、どうやって確認したんだ」


 俺は強引に話題を戻した。


 幸いなことにドクターと、まともな受け答えが成立した。


「ああ。それね。基本こういった、人体の内部で機能する動作補助用のメカニズムって外部からの操作を受けつけない作りになっているんだけどさ」

「当然だろ。操り人形にされるのはごめんだぜ」

「んまあ、だけど構造が複雑になってくると整備性を高めるために、外部から最低限の機能が問題なく稼働しているかの動作確認が、できるようになってるのね。外から信号を送ると、正常に稼働してますよって返事をしてきたり」

「それで?」

「そのときにシリアルを返してくるってわけ」


 するってえと、何か。


 その信号の送受信は俺に聞くまでもなく、すでにやっているということか。


「そういうのは本人に確認してからやってくれよ」

「頼まれた調査に関連する事項だから、問い合わせの必要ないよね」

「次からは聞いてくれ」

「はいはい。そーする」


 そうしてくれなさそうな口調で、ドクターは答えた。


「で、その先は?」

「え。これで終わりだよ」

「売った履歴があるんだろ。会社に問い合わせ……」


 そこまで言って、俺は口を閉ざした。


 販売元に問い合わせたら、非合法に入手したリストのことまでバレてしまうだろう。

 そもそも俺の体に使われているコンフー・マーキナだって、合法的な手段で入手しているのかさえはっきりしない。


 俺にとって一番都合が悪いのは、支払いが終わっていない可能性がある、という点だ。


 自慢じゃないが、こちとら財布の中身は万年おけらである。

 ハンターの収入なんて、その日暮らしもいいところだ。もちろんローンの契約なんて、絶対にできやしない。


 はっきり言ってしまうと、俺が拾った銃をいまだに使い続けているのも、それが理由だ。そうでなかったら、誰がこんなデカくて重くて扱いにくいもんをわざわざ好んで使ったりするものか。


「やっぱ問い合わせはいい。しないでくれ。リストにある、購入者の名前だけ教えてくれ」


 俺はとりあえず、聞いておくべきことだけ確認した。


「ないよ」

「は?」


 思わず間の抜けた声が出た。


「なんで? この手の身体補助機器って、購入者の履歴を残すもんだろ」

「普通はそうなんだけどね。まあ今回のは、ないからない、としか」

「それ本当に、正規の顧客リストなんだろうな」

「出元は確かだよ。それは間違いない」


 ドクターがそう言うなら、その通りなのだろう。


「わかった。また何かわかったら連絡してくれ」

「んー。正直に言うとね」


 安物の椅子を軋ませて立ち上がった俺に、ドクターが声をかける。


「外部というか周辺の情報を調べるよりもさ」

「他にもっといい方法があるとでも?」

「中身を調べたほうが、もっといろいろわかると思うんだよね」

「中身って……」


 ドクターが二本の金属製の小さい孫の手みたいなもの―――鉗子、とかいう手術器具だっけか―――を、右手の指ではさんで持っている。

 そんでもって、それをカチカチと楽しそうに鳴らした。


「二、三日ここで、ゆっくりしていく気はない?」

「まったくない」

「いやだってさ。それファングくんの体の成長にあわせて、伸展してるみたいなんだよ。だから、どういう素材が使われているかとか、興味ない?」

「興味ない。帰るぜ。こら、扉をロックするな。開けろ」


 好奇心で体を切り裂かれてたまるか。


 数分の押し問答ののち、俺は憮然とした表情で診察室から出ていった。


 こんな危険なところ、さっさと退散するにかぎる。

 自分の体のことがわからないのは癪だが、いまはひとまず後回しってことで。


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 一人称の練習で書いています。

 読みにくい部分が多く、たいへん申し訳ありません。

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・校正をなさってくださる方へ

 お手数ですが、ご指摘等をなさっていただく際には、下記の例文にならって記載をお願いいたします。


(例文)

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>~(←ココに修正箇所を引用する)

この部分は、(あきらかな誤用orきわめてわかりにくい表現or前後の文脈にそぐわない内容、等)であるため、「~(←ココに修正の内容を記入する)」と変更してみてはいかがでしょうか。

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 以上の形式で送っていただければ、こちらで妥当と判断した場合にのみ、本文に修正を加えます。

 みだりに修正を試みることなく、校閲作業者としての節度を保ってお読みいただけると幸いです。

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