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リスポーン令嬢  作者: 名無菜々七七
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ママですよ~

「婚約破棄だ」


 父親がそう言った。


 私の顔が俯く。

 震える声で理由を問うた。


「王子様がおまえを婚約者に選んだときは、その歪みきった悪童のような性格も矯正できるだろうと、私達も思っていた……。

 が、おまえは指導役のタケミツをこれまで4632回殺しかけているじゃないか。今日も彼をベランダに磔にしている!」


 それはねお父様。

 虫も殺せなさそうなほどか弱そうな表情で言う。


「タケミツの回復魔法の訓練を手伝ってあげていたのです。私の指導役に選ばれたのも彼が自分で回復を行えるほど優秀だったからですよね? お父様が見込んだその腕はいつか国の力になるでしょう。ということでほんのちょっとだけ揉んでさしあげただけです」


 あいつ私が街に遊びにいこうとすると邪魔するんだよな。

 めんどくさいから遊びにいくときはタケミツを殺すつもりで殴ることにしている。


「それにお父様、私は一線は越えてません」


「なんだと?」


 私はにっこり笑っていった。


「私が殺すのは蘇生魔法が使える人の前です。タケミツは殺してません」


「そもそも人を殺すんじゃあない!」


「それ、正論ですか? 私正論大嫌いなんですよねぇ……」


「知ってる」


「婚約破棄ってこっちから言い出したことですか? 向こうから?」


「国王と話して決めた。おまえはさすがに醜聞が多すぎる」


「そうですか……?」


 首を傾げた。

 父親がマジかよこいつ、という目でこちらを見た。


 しかし、国王と話して──か。


「面倒なことをしてくれましたね」


「なに?」


 私はにっこりと笑った。

 笑うしかできなかった。


 国王も王子様に言ったんじゃないのかな。

 ほら、窓に。


「ママァ──!!」


 窓を突き破って部屋に入ってきた王子様が、私に向かって走ってくる。


 歓迎するように手を広げる。


「ママですよ〜」


 王子様は勢いそのままに、私へと抱きついてきた。勢い余って後ろに倒れる。


 いや、違う。

 足に力が入らなかったのだ。


 血がゆっくりと溢れていく。

 私より背の高い、綺麗な顔立ちをした男が、頬を赤らめている。

 彼は荒い息のまま私の腹に刺さった剣をねじった。


「ママの子宮に入りたいよ」


 なんだこいつキモい……。

 それでも構わなかった。

 それも個性だ。愛おしい我が子の特徴の一つである。


 彼の頭を抱きしめる。いつか抱きしめたときよりはるかに大きくなった彼の体は、もう私の腹に入ることはなさそうだ。


「大きくなりましたね」


「ママァ!!」


 私は死んだ。


 父親が国王に魔術電話をかけている。


「ええ、危険人物二人を管理できますし、婚約はそのままということで……」




  ◇



 私と王子との出会いは幼少期になる。

 私は自我の形成が異常に早く、生後三ヶ月の時点でこう言ったという話が残っていた。


「神は死んだ」


 あるいはそれは、私が持って生まれた『蘇生体質』の影響なのかもしれない。

 なにはともあれ私は幼少期から確固たる自我を形成し、暇つぶしに街に練り歩いては同年代の悪童を抱えまとめ、街のトップに立っていたものだ。


 貴族である。

 貴族であるのだが、私はなぜか一般市民と遊び、危険な地に足を踏み入れては時々死ぬという生活を繰り広げていたのだった。


 まぁ創作物の貴族ってわりと自由奔放だし、私もそれと同じと考えてもらったら良い。

 そんな生活を、おおよそ六歳まで繰り広げていたのだ。

 やめたのはもちろん理由がある。


 子供の中に混じって私つえーをするのがどうしても恥ずかしくなったのである。

 そんなわけで、きっぱりと遊ぶのをやめ、社交の世界へと参上したのだった。


 そこで出会ったのが王子である。


 かつての王子は世界を舐め腐ったような有様であり、私と同様に精神年齢が異常に高かった。

 だがたった六歳の子供である。

 かつての私は二十歳までの人間はすべて自分より幼いと思っていたので、彼に近づいてこう言ったのだった。


『ママですよ~』


 ……私は何故か、自分より幼い相手に対してこう言ってしまう。意味がわからない。わからないが、それでも私はママだった。

 ママだという確信を持っていた。


 さて。私のそんな言葉に、王子はというと。


『ふっ……おもしれー女』


 こう言ったのである。

 私と王子の電波が混線する。

 そして私達はお互いを『友人』だと認めたのだ。





『Lygia……俺は……おまえが、ほしい』


 壁ドーン。顎くいっ。そして王子は私の名前をやたらと発音よく言った。

 王子の身長は私より低かったのでちょっと情けないことになっていた。


『あらあら。ひーくんは寂しがりやですね~』


 そう言って私は彼をよしよしした。

 顔をほころばせて頭を手に擦りつけてくる彼はかわいかった。


 十二歳のことである。

 私はあまねく子供のママであるが、それでも特に彼は特別だった。

 積極的だったのである。


『リジア……いつまでも俺を子供扱いしないでくれ』


『あら、ひーくんったら……反抗期ですか。えへ、健全な証なのです』


『俺はおまえのことが好きなんだ』


『私もひーくんのことを愛してますよ~』


『……ッ!』


 抱きしめたら振り払われた。

 ちょっとショックだったが、反抗期なので仕方がない。


『おまえは……何もわかってない!』


 彼はそう言って駆け出していった。


 ショックだった。我が子に手を振り払われることがこんなにもつらいとは思ってもなかった。

 私は彼を追いかける。


『ひーくん! ひーく……!』


 そして、私の視界の先で目出し帽をした変な集団に彼は攫われた。


『ひーくぅぅぅぅぅん!!』






『王子……悪いが、オマエには死んでもらう』


『これ(誘拐)初めてか? 肩の力抜けよ……』


『貴様ら……一体何が目的だ!』


 声が聞こえた。

 言い争いの声だ。


『オマエがママを独り占めするからだ』


『俺たちよぉ……ママって宝物(ヤツ)不理解(しらな)かったんだ……』


『ママは……俺のママになってくれる人なんだ……!』


 全員の声に聞き覚えがあった。

 ツンとした声をしたクールな彼はロジンくん(12)、ちょっと特徴的な話し方をする彼女はメジェナちゃん(9)。ちょっと老いた声の彼はナガヒサくん(26)。


 私は彼らの声にショックを受けた。

 まさか彼らが悩んでいたなんて……!


『しねっ!』


 ロジンくんが持っていたナイフを突き出す。

 彼は優しい。手に持っているのはマジックナイフだ。ちょっとばかし驚かそうと思っていたのだろう。


 私は王子様をかばってナイフを受けた。

 ……!? ナイフが突き刺さった。ロジンくんが持っていたものではない。


 いつの間にそこにいたのか、目出し帽をかぶった男が立っていた。


『チィ、外したか……』


 聞いたことがない声だった。


『こんな裏路地に王子が連れ込まれたのを見て絶好のチャンスだと思ったんだがなぁ……チッ、最強の暗殺者と呼ばれたこのロイドも腕が鈍っちまったか……。でも俺のナイフは特別製だ。A級の魔物が川に垂らした一滴で2000匹くらい死ぬ遅効毒を塗ってある……その女はもう手遅れだよ』


『そんな……リジア! 俺のために……!』


 なんかインフレヤバくない? ナイフが刺さった部分から発されるじんじんとした痛みからはその片鱗も感じないが。


『お、オマエ……! よくもママを……!』


絶殺(ぶちとば)す……!』


『ま、ママ……毒使いは解毒薬持ってるっていうし……あいつ殺してすぐに助けるから……!』


 臨戦態勢をとった三人に私は声をかける。


『やめなさい』


『『『わかった~』』』


 私は立ち上がって、男の前へと立つ。


『ママですよ~』


『ま、ママぁ……』


『私に成長した顔を見せてください』


 これは全員に言った言葉だ。

 目出し帽を四人は脱ぐ。

 私はみんなの顔を見て、笑っていった。


『大きくなりましたね』


 それが限界だった。

 足に力が入らなくなる。

 膝から崩れ落ち、私は地面に血を吐いた。


 遅効毒ってもっと遅く効くものじゃないの?


『みんな……仲良くしてください。私はみんな愛してます』


 子供たちの涙が見える。

 全員涙を流して、私の死を悲しんでいた。

 王子とロイドくん以外は私が死んでも生き返るの知ってるはずなんだけど。


『次に会うときは……大きくなったあなたたちを……見たい……の……で、す……よ……』


 そして私は死んだ。


 王子様はそんな私を見て言った。


『……ママ……』



  ◇



 これが王子様が私に執着するようになった出来事だ。

 どうやらロイドくんが私を殺したことに嫉妬したようで、あれから事あるごとに私を殺しにくる。

 私はそれも愛情の形だと思っているし、どうせ死んでも死なないので、彼の行為を受け入れている。


「ひーくん、その目、キレイですね」


 王子様の目はオッドアイになっていた。

 もともとはキレイは蒼色だったのだが、片方の目が紅色に染まっている。どちらもキレイな目である。


「うん。死んだママの目を移植したんだ!」


「……視力はありますよね?」


「大丈夫。ちゃんと回復魔法でつなげたよ」


「自分の体をいたずらに傷つけてはいけませんよ。治るとはいえ痛いんですから」


 私は王子様の頭を撫でた。

 窓の外を見る。教会の時計塔に、タケミツが磔にされている。彼は虚ろな目で風に揺られていた。


 今日もいい天気だ。

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