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三千世界と烏の二度寝

 暗い部屋の中微睡む。ここに来て多分四日目、くらい?

 ああ、そういえば今何時くらいだろう。

 部屋の窓から外を見てもぼんやりと結界の外の水銀色が見えるくらいだ。

 夜よりは少し明るい、のかな。そんな気がする。気がするだけかもしれない。

「時計あるか聞いてみようかな」

 水差しからコップに水を入れて飲む。

 ベッドから降りてブーツをしっかりと履く。

 伸びをして水差しとコップを持って部屋を出る。

 扉を開けると同時に廊下の明かりがつく。

 しんとした廊下に足音が響く。

「おはよう、ヴァレット」

 既にソファに座っているヴァレットに声を掛ける。

「ん……ああ、おはよう」

「眠そうだね夜ふかししたの?そう言えば時計ってある?」

 隣接した台所に水差しを置きヴァレットの隣に座る。

「まぁそんなところだ……時計か?無いこともない、が時が止まってるからな……いや、私の懐中時計なら動いているか?少し待ってろ」

「ありがとう。もう朝ご飯作っててもいい時間かな?」

 ああ、と頷かれたので台所に向かう。

 フライパンに油を引き熱する。薬缶いっぱいに水を入れて台の奥の方で火に掛ける。

 熱くなるのを待っている間に水差しとコップを洗っておく。

 十分に温まったのを確認し何かの卵と薄切りの肉を冷えた箱から取り出して二つ割り入れる。

 この冷えた箱便利だし金になりそうな匂いがする。

 少量の水を入れ蓋をして待つ間に塩と胡椒を準備する。ついでにパン二枚を半分に薄く切りパリッとする程度に軽く炙る。

 そろそろかなと蓋を開ける。良さそうなので塩と胡椒を振る。

「あった。ついでに懐中時計の時刻合わせておいたからすぐ使える」

「あ、おかえり。ありがとう」

 懐中時計を持って見せてくるヴァレット。

 火を止めてパンにそれぞれ卵と肉を挟む。野菜が欲しいかな。

 皿に乗せたところでお湯が沸いたのでこちらも火を止める。

「これ持っていって」

「ああ」

 懐中時計をポケットに仕舞い皿を持っていってくれる。

 ティーポットに適当に茶葉を入れお湯を注ぐ。

「カップも持っていく」

「お願い」

 薬缶を戻しティーポットの蓋をして持ってダイニングにいく。

「冷めないうちに食べよっか」

 隣に座り簡易のお祈りを更に端折ったお祈りをして食べ始める。

「……それでいいのか信者?」

「神なんて居ないって思っちゃったからこれでいいの。やらないとなんかちょっと落ち着かないからやってるだけだし」

 まぁいいならいいけどと言ってヴァレットは一瞬微妙な表情をしたあとでゆっくり食べ始めた。

 そういえば不死者的にはお祈りって嫌なんだろうか?

「私の分は準備しなくてもいいんだが」

 元から少食なのか不死者だからかヴァレットはあまり物を食べようとしない。

「誰かと一緒に食べたほうが美味しいからね。一緒に食べてよ?」

 それなら仕方がないのか、いや、でもとブツブツと呟いている。

「せめて量は少なくていい。元々こういう食事は食べなくともいいから多くは食べられない」

「そう?なら少なめだけどこのくらいの量は食べてよ?あ、そういえば野菜ってないの?」

 話す合間に食べきる。皿を差し出されたので受け取る。フライパンも含めて洗う。

 お茶をカップに注ぐ音が聞こえる。

「無いこともないが……どういうのが必要か言ってくれれば準備しておく」

「ありがと、あとでまとめてお願いするね」

 手の水分を拭ってダイニングに戻る。

 座って手渡されるカップを受け取る。

 さっきは皿が載っていた机の上に今度は懐中時計が置かれている。

「魔力で動いているから止まることはほとんど無いと思う」

「ネジ巻かないでそのままでいいんだね?」

 頷いてお茶を飲むヴァレット。

「魔石に魔力込めておいたから百数年くらいなら動くはず」

「私そこまで長生きはしないと思うけど安心だね」

 そっと手にとって蓋を開ける。今は七時ちょっと過ぎくらいなのか。

「針に夜光塗料使ってあるから暗くても大丈夫だろう」

 そう言われたので手で包み込むようにして見てみる。

「あ、本当だ光ってる」

「蓄光じゃなくて魔力で光るから別に閉じたままにしておいて暗い所で開いても大丈夫だ」

 蓋を閉じてくるりと回して全体を見てみると蓋には透かし彫りのような模様が彫られている。

 なんというか、元々のデザインは透かし彫りのみだったけど光っている針が見えないように二重にした、みたいな感じがする。

 裏は中心に赤い魔石が埋め込まれた魔法陣らしき何かが刻まれている。

 魔法陣にはあまり詳しくはないのでパッと見たくらいじゃ詳しくは分からない。

「この裏の魔法陣は?」

「ん?……時計動かしてるだけだ気にしなくていい」

 なるほどと相槌をうちながら早速胸ポケットに仕舞う。

 ヴァレットが小さく欠伸をした。少し間が開いた気がするけど眠いからかな。

「眠いの?」

「まぁ、少しな」

 少し俯き気味な顔に黒い髪が掛かっている。

 ああ、結んでいる髪がちょっと解れてるのか。

 隣で遊んでいる髪を弄ぶ。するとふわりといい香りがした。

「ん?」

 何の香りだろ?髪かな?

 手に取った髪をそのまま持ち上げて顔を寄せて匂いを嗅ぐ。ああこれだ。

「なっ、何!?」

 微笑みかけて髪をそっと開放する。ヴァレットはなぜか固まっている。

「髪、凄くいい香りだね」

「いきなり匂いを嗅ぐな……」

 髪を一旦解いて結い直し始めたヴァレットに凭れ掛かる。

 ふわりと香る。

「私も眠いから二度寝しちゃおっか」

「本当に自由だな」

 はぁっと溜息を吐かれたが少し横に屈んでソファ横の箱から引っ張り出したブランケットを膝に掛けてくれる。優しい。

「ね、一緒に二度寝しよ」

「仕方ないな」

 もう少しそっち行けと押しやられたあと肩に手を掛けられて上体を倒される。ヴァレットの膝に頭が乗る。

 ブランケットを掛け直してくれる。いたれりつくせりだ。

「ほら、これでいいだろおやすみ」

「うんありがと」

 目を閉じる。暫くすると髪を撫でられた。ちょっとぎこちないけど凄く優しい手付きだ。

 ふわふわしていつのまにか気がついたら寝ていた。

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