三千世界と烏の就寝
ヴァレットは少し不思議な不死者だ。
まず口調が凄く変わる。何か理由があるのかな?
次にいきなり降ってきたであろう私を何も言わずに世話してくれる。
世話をしてくれる上で使いやすいようにか暗くなると私が通る場所の明かりがつくようにしてあったり。
今だって水を貰いに台所へ行くのに勝手に明かりがついてくれるから楽だ。
「あれ?何こんな所で寝てるのヴァレット、風邪引いちゃうよ」
ダイニングのソファで寝ているヴァレットを見つけて揺すって起こす。
「ん、ぅ……?」
あとは不死者なのに多分夜であろう時間に寝てたり。
目元を軽く擦って少し覚醒したらしい。
「ああ、悪い。何だ、問題でもあったか?」
寝起きだからか少し掠れた声だ。少し目の焦点があっていない気がする。ぼんやりしているんだろうか?
「ううん、水貰いに来ただけ。それより風邪引くよ?ベッドで寝なよ」
立ち上がって伸びをして台所に向かうヴァレットの背中を追う。
「確か水差しがあったはずだ。明日からは寝る前に汲んで部屋に置いておくといい」
「あ、それは嬉しいかも」
ヴァレットは棚を開けて水差しを探しているようだ。
それを見ながらガラスのコップに水を貰う。最初に銀食器じゃないんだって言ったら凄い顔されたのを思い出す。貴族みたいな服だなって思ってたからポロッと言っちゃったけど不死者だから銀は苦手なんだろうな。あの顔は中々面白かった。
「あった」
水を飲みながらヴァレットを眺める。
棚から取り出して手早く水差しを洗って水を入れている。水差しの外側の水を布巾で拭いてから渡された。
「ありがとう」
受け取ってお礼を言う。
「ああ、おやすみ」
そのままソファに座って本を手に取ったヴァレットに見送られる。
「ちゃんとベッドで寝るんだよ?」
ちらっと振り返って言うと微笑まれた。何かを誤魔化されている気がする。
「じゃあ、おやすみ」
ひらひらと振られる手に今日のところは誤魔化されてあげることにした。
今日は大人しく部屋に帰るけど誤魔化されたままでいてはあげないんだからね?
じっとりと見るも本を読んでいるのかいないのかヴァレットはもう顔を上げはしなかった。
話は最初に戻るけど、なによりも吸血をしないのが一番不思議だ。
今まで一人だったみたいだし必ず血を吸う必要はないのかもしれないけど。
何故かとても気になるなと思った。