三千世界は烏を運ぶ
ホットミルクを飲んで寝始めたヴァレット。ああ、魘されてる。
ソファじゃなくてちゃんと柔らかいベッドで寝たほうが夢見もいいんじゃないかな。
頭を撫でて髪を手に取る。さらさらと手から逃げる髪。
ブランケットごと抱き上げる。思っていたよりも軽い。靴は後で取りに来よう。
あ、ヴァレットの寝室ってどこだろう?
一先ず私が寝ている部屋でいいか。
静かに揺らさないようにしながらゆっくりと歩く。
そういえば外から見た建物の感じより廊下が短い気がする。隠し部屋でもあるのかな。
肩で扉を押し開けながら考える。まぁ隠してあるなら深く探ると面倒なことになりそうだ。
そっとベッドの上に横たえてブランケットは回収し羽毛布団を掛ける。
ブランケットを持ってソファまで戻る。軽く畳んで置いて靴と本を回収する。水も準備したほうが良いかな。もう一往復しよう。
ふと窓から外を見る。相変わらず銀色の液体が結界の外をゆっくりと流れている。少し暗くなってきた?
懐中時計で時間を確認する。そろそろ夕飯の準備をしても良さそうかな。
本はそのままで靴とコップ一杯の水だけ持っていくことにした。
しっかりとコップを洗って水を入れる。片手に持って靴を回収する。
「ご飯何にしようかなぁ」
そういえば八日目辺りから野菜が増えたから少し作れる料理が増えた。
再び扉を肩で押し開ける。サイドボードに水を置き靴を足元に置く。
魘されていないかと顔を覗いて思う。不死者というか吸血鬼って何年くらい血を呑まずに生きられるんだろう?
後で不死者関連の本があれば借りよう。
「さて」
先に夕飯作っておこうと台所に戻る。冷たい箱を開けて材料を確認する。
シチューにしよう。そう決めて材料を出す。
ふと、魔が差した。血を入れて料理を出したら血の摂取できるんじゃないかと。
加熱したら駄目とかあるのかな?そうだ試してみよう。
この時の私は何故かヴァレットに確認せずに血を入れることにした。
普通であれば食品への混入に敏感になっているはずの私がそんな事を思いつくはずはない。
誰かが耳元で囁くような声が聞こえた気がした。