第八話 部活動見学での出来事
4月17日(火)昼休み
お弁当を食べようと屋上へ行くと、コルテーセがいた。
「来ると思ったよ。迷惑じゃ無いよね?」
「そんな事ないよ」
2人でお弁当を広げる。
「またおかず一種類だけなの?栄養バランスよく食事は取らないと太っちゃうよ?私の野菜を少し分けてあげるから食べな?」
「ありがとう。でも、そんなに気にしなくても太らないから平気だよ?」
「その発言はいろんな人を敵に回すからやめた方が良いわよ。でも、私も太ったことは無いんだよね。だとしても、気をつけることに越したことは無いよ」
「それもそうだね。でも、おかずを作る時にたくさん種類を作ろうと思っても時間がなくて無理じゃない?」
「そう?早く作れるように手際をよくすれば良いのよ。簡単に作れるおかずをレパートリーに増やすって言うのもコツの一つかしら」
「コルテーセは自分で毎日そのお弁当を作っているんでしょ?すごいね」
「まあね、この学園に行きたいって昔から親に言っていてね。自立できるようにいろんな事を教わっていたの」
得意げに何も無い胸を張る。
「そうだ、今度料理を教えてあげるよ」
「良いの?じゃあ、落ち着いたらそうして貰おうかな」
「ふっふっふ、このコルテーセにお任せあれ。あ、そうだ。ボーイマン君はどの部活に入るとか考えている?」
「折角だし何かには入ろうかなとは思っているけど…。コルテーセは何か入りたい部活はあるの?」
「う〜ん。私は部活には入っても入らなくても良いかなぁとは思っているけど。でも、ボーイマン君が何か入るんだったら私もそこに入ろうかなぁとは少し思っている」
「じゃあ、今日は一緒に部活動見学を回ろうよ。2人でどの部活に入るか考えよう?」
「そうしよっか」
放課後、コルテーセを迎えにAクラスへ行く。
「まず、どこから回ろうか?」
「そうだねぇ、折角だし、有名な総合戦術部に行かない?」
「じゃあ、まずはそこに行ってみようか。確か、場所は入学試験でも使われていたあの場所だったっけ」
2人でそこに向かうと、多くの人が並んでいた。
「新入生の諸君、今日は見学に来てくれてありがとう。今日はこの部活の活動内容の紹介と、時間が余れば新入生同士で軽く模擬戦をしようと思っている。まずはついて来てくれ」
説明をしていた3年生の後ろについて行くと、試験の時に使われた闘技場の様な建物の壁の上に来た。
「練習はこの壁の中で行う。練習は見ても通り、ある程度体術、剣術、魔術のやる場所が分けてある。模擬戦をやる時は、会場を大きく3つに分けて三試合同時展開できる様になっている。では、先輩方の模擬戦を見てもらおう。お〜いお前ら、これから新入生に模擬戦を見せる。練習を中断してくれ」
すぐに練習をやめて壁の上に集まってくる。
「それでは早速模擬戦を始めよう。まず、使って良い刀は木刀。新入生は試験の時も使ったから覚えているよな。審判が開始の合図をした後は、基本的に何をやっても良い。では見ていてくれ」
そういうと、壁の下へ飛び降りる。すでに審判役と思われる顧問らしき先生と対戦相手の生徒が立っている。
ピーっと言うホイッスルの音とともに2人とも刀を構える。2人とも間合いを詰めて斬りかかり、刀がぶつかると同時にカキンっと音が鳴る。刀をよく見ると、2人とも魔力を流してある程度硬化させている様だった。あれじゃ木刀を使う意味あるのか?
片方の力の方が強く、刀でもう一方を弾き飛ばす。
「水球連弾」
空中に相手が浮いている間に魔法を放つ。
「土壁」
が、全て防がれる。
「本当はどちらかが降参、戦闘不能、あるいは審判によって強制終了された場合に終わりになるんだけど、見本だからこれくらいにしようと思う」
「なんだ、最後までやれよ」
不満そうな声をあげたのは予想通りリスペクタブルだった。
「さて、みんなにもやって貰おうか」
リスペクタブルの声は聞かなかったことになっているようだ。
「みんなにやってもらうときにはいずれかになるまでやってもらう。では、やりたいものはいるか?」
「やる」
リスペクタブルが手を挙げる。
「他はいないのか?」
「ねぇ、折角だしやってみようよ」
声のする方を見ると、双子と思われる女の子がいた。片方はやりたそうにしているが、片方はあまり乗り気ではなさそうだ。
「どうしますか?やりますか?」
「お前らみたいな平民相手だったら2対1でも良いぜ」
「言ったわね、やってやろうじゃない」
「では、下へどうぞ」
審判として先ほど説明をしていた男がつく。おいおい、本当にやるのかよ。
「お前ら、そのバッチをつけているって事はEクラスの落ちこぼれって事か?」
「なんか関係ある?」
「俺はSクラスなんだぜ?それに、俺はアーゲンス家の嫡男なんだぜ?お前らみたいな平民が俺の相手をして怪我をしないのか?」
「何?ビビってんの?」
「ムカつくやつだな。折角俺様が気を使ってやってるのに。もういい、女だからって容赦しないぜ」
「ピー‼︎」
開始の合図がなる。
双子の女の子達が二手に分かれてリスペクタブルに詰め寄る。するとリスペクタブルは威勢の良かった方目掛けて走り出し、大きく剣を振る。それを女の子も大きく振って対抗するが、リスペクタブルの方が体格が良く、そのまま弾き飛ばされて受け身を取れずに地面に背中を打ち付ける。
その様子を見ていた女の子はリスペクタブルのすぐ近くまで来ていたが、わずかに怯んでしまう。それに気付いたリスペクタブルは躊躇なく握られる力が弱くなった剣に自分の剣を当て、女の子の手から剣を落とす。そのまま女の子のお腹に殴りを入れ、うずくまっているその背中を思いっきり蹴って地面の上を転がす。
「な?だからやめた方が良いって言ったんだ。お前らみたいな平民が、将来有望な俺様に勝てるわけがないだろう?さっさと降参しな」
最初に1人に的を絞るのは良い判断だ。一応貴族だから英才教育を受けているのだろう。そこだけは評価出来る。
「誰が…あんたみたいな…奴に」
「審判、もう良いだろ?こいつらの負けを認めてやれ」
「そうですね、それでは…」
「逃げる気?」
「……あ”?」
はぁ、なんで素直に引き下がれないのだろうか。
「最後のチャンスだ。降参するなら今すぐしろ」
もう1人の子は止めようとするが、気にせず首を振り、剣をリスペクタブルに向けて投げつける。
「火炎放射」
リスペクタブルがかざした手から炎が噴き出し、双子へ向かって行く。
「「大玉水球」」
双子が息ぴったりに魔法を発動させると、2人の前を覆うように大きな水の球体が発生する。そのままリスペクタブルの放った魔法がぶつかり、小さな水蒸気爆発が起こる。その爆風により、近くにいた双子は吹き飛ばされ、石の壁にぶつかる。
まぁ、実は壁にぶつかる瞬間、魔法でその衝撃をだいぶ抑えたんだけど。
「双子の戦闘不能を確認、よって勝者…」
「まだ…戦える…」
よろよろと立ち上がる。もう一人の事も手を引っ張って立たせる。
「なあ、そんなにぼろぼろになってまでやる事ないぜ?所詮、お前らみたいな弱小クラスがSクラスの俺様に勝てるわけ無かったんだよ」
言い方は非常に悪いが、確かにその通りだ。これ以上続けても結果は明らかだ。だが、まさかまだあの少女に立つ力が残っているとは。彼女の全身は疲弊しきっていて、立っているのはもはや精神力のおかげだろう。
はぁ、止めに入らないとまずいか。一応、衝撃を勝手に和らげたことにより、双子が気絶しなかったという責任はある。
「審判、もう勝敗は決まったでしょう」
観戦場からそのまま審判と近くまでジャンプする。
「またお前か。まあ、今回はお前の意見に賛成だ。こんなカスみたいな奴らが俺様に勝てるはずが無い。」
「はぁ、なんで君はそんなに毎回毎回偉そうに言っているんだい?」
「事実を述べているだけだ。なんだ?お前も俺とやろうってのか?」
「いや、やめておくよ。痛いの嫌だし」
「へっ、腰抜けかよ。ま、懸命な判断だな。そんな事より、さっさと後ろの奴を運んでやれ」
そう言われて背後を見ると、先ほどはよろけながらも立っていたはずの少女が倒れていた。
「早く運んであげましょう」
いつの間にかコルテーセが降りて来ていた。
「そうだね、俺はこっちの倒れている方を運ぶから、コルテーセはまだ少し歩けそうな子の手助けをしてあげて」
「わかった」
少女を持ち上げようとすると、非常に軽く簡単に持ち上げることが出来た。こんなに軽いなんて、栄養は足りているのだろうか。
医務室へ着くと、医務室の先生に促され、ベットに寝かせる。コルテーセが手助けをしていた子は、ある程度動けていたため、簡単な治療を受ける事となった。
本当に制服の強度は素晴らしいようで、手のひらを擦りむいたくらいしか怪我は見当たらなかった。だが、腕を捲り上げられた時の腕には少し骨が浮かび上がっている。
「この時期のこの怪我は…総合戦術部の部活動見学って事かしら」
「よくわかりましたね」
「ええ、この学校の先生はよく知られているわよ。悪い意味でね。あそこでは毎回部活動見学の時に、模擬戦と称してどちらかがボロボロになるまで戦わせるのよ。今回は見たところまだマシな様ね。あなたが止めてくれたのかしら?」
「まぁ、一応」
「あなたの様な子がSクラスにいて良かったわ。恐らく、他のクラスの子じゃ止めに入ったところで審判に追い出されるかして止めることなんて出来ないもの」
「そうだったんですか。でも、なぜそんな戦いを見せるんですか?部活に多くの部員が入って欲しくて部活動紹介ってやるんですよね?あんなことをしたら怖がって部活に入らない気がしますが?」
「そうね、今回のようにあなた達が止めに入った場合はそうなるでしょうね。でも、例年では戦いに勝った方を多くの部員で褒め称えるのよ。あなたも人に褒められたら嬉しいでしょう?そして、自分以外の誰かが褒められていたら、自分も褒められたいって思うわよね?それを利用しているのよあの部活は。一種の憧れを抱かせるのよ。勿論、普通はそんなに上手くいかないわ。でも、あの部活に入っている生徒や先生、その中には名のはせた魔法のスペシャリストもいるから、褒められた時の高揚感もいっそう高まるんでしょうね」
「最低じゃない、そんな部活」
コルテーセが大きく声をあげる。
「その気持ちは良くわかるわ。でもね、あの部活の創設者はこの学園の校長先生なの。だから無くすことは愚か、先生達ですら意見は言えないわ。それに、あの部活によって生徒が鍛え上げられるのは紛れもない事実。多くの生徒の成長に必要な犠牲とでも思っているのでしょうね」
もしかして、この学校結構闇深い感じかな?
「さて、まずはこの子達をなんとかしてあげなくっちゃね。でも、どうしようかしら。体は魔法で治せるけど、疲労は無くすことは出来ないのよ。伝承では、ジェニシ様は使うことが出来る様だけど…あなた達は知ってるかしら?」
「はい、よく知っています‼︎」
コルテーセが元気よく答える。
「私の家系はどこの宗教にも属してはいないんですけど、そういう事を調べるのが楽しみの一つなんです。なんだか自分のことを深く知っていくかのような不思議な気分がするんです。先生の言う伝承っていうのはディビィド教の伝承のことですよね?」
「そう、その通り。色々な呼び名があるけど、有名なのは『万物を癒す者』だったかしら。少し話が逸れちゃったわね。つまり、私が言いたいのはそのベットで寝ている子はしばらく寝かせてあげた方が良いって事よ。だから悪いんだけど、その子を背負って家まで運んであげてくれないかしら?」
ここまできて嫌ですなんて言えないよなぁ。
「勿論です」
「悪いわね。じゃあ、そういう事で良いかしら?」
起きている方の少女に先生が問いかけると、少し考えてからコクリと頷く。