第七話 図書委員会
屋上にコルテーセとやって来た。王都の中心にある巨大な時計台まで見える。
「少し手入れが行き届いていないわね」
屋上の地面を見ると、長い間掃除がされていない様で、汚れていた。周りには手すりが付いているのに、あまりここには人が来ない様だった。
「どうやってコルテーセはこの場所があるって気づいたの?」
「それはね、先生の手伝いをする時に、迷子にならない様にするために、学校の地図をよ〜く見ていたら見つけたの。直接は書かれてはいなかったけど、3階から校長室に上がる以外の階段があってもしかしたらって思って。でも食べるには少し不衛生かも知れないわね」
「それじゃあ、綺麗にしちゃおうか。掃除」
風が吹いてきて屋上にあったゴミが吹き飛んでいく。そして床の汚れが足元から円状に綺麗になっていく。
「何その魔法。初めて見たんだけど。素敵な魔法じゃない」
「そう?」
「ええ、多くの魔法は攻撃に使われているもの。私は人を幸せにする魔法を学びたいわ。人を傷つける魔法じゃなくてね」
「沢山使える様になれたら良いね」
「うん、頑張る」
午後の授業が終わる。帰ろうかと思い、荷物を整理していると、3年生たちが教室に入ってきた。黒板の前に並び、1人が前に出てきて教卓の前に立つ。
「これから帰るところだろうが、少し時間を頂きたい。新入生諸君に、明日から始まる部活動紹介の為に、軽く各部活を紹介させてくれ。ではまず私の部活から紹介する。私の部活は総合戦術部、この学校で最も大きい部活だ。この部活は魔術、剣術、体術は勿論の事、頭脳も全て使う。それゆえ、この学園の学校行事の一つである、総合戦術大会の大元となっている。さらに、多くの大会で優秀な成績を納めている。総合的に優れているであろうSクラスの皆さんにはぜひ一度体験しに来て欲しい」
その他の部活は詳細を省いて紹介する。
学研部 情報部 新聞部 球技部 陸上部 オーケストラ部
「以上である。何か部活について聞きたい事があるものは手を挙げてくれ」
誰も手を挙げない。
「それでは、諸君らが多くの部活に興味を持ち、体験に来てくれることを楽しみにしている」
一行は2階へと階段を降りて行く。順にクラスを回って行くのだろう。
部活かぁ…。学園生活で重要な選択だ。慎重に選ばないと。そう考えているうちに、ほとんどの人が教室から出て行っていた。
「ボーイマン君、ちょっと良いかしら?」
アルメリアとへデラだった。
「良いですよ、何でしょうか」
「お昼の事、覚えてる?」
「勿論です。あの時は助かりました、ありがとうございます」
「いえ、感謝しなければならないのはこちらの方です。実は私達はあの場所に、あなたの前に居たのです。あなたが来るまでどうすれば良いか悩んでおりました。1人の女子生徒として注意するのは怖かったのです。ですが、そんな時にあなたが来てくれました。貴族のような身分を持たないあなたが、一国の伯爵の息子に向かってあの様な堂々とした態度をとったことにとても感心しました」
「いや、そんなに褒められる事では無いですし、実際自分だけでは解決出来ずに、あなたに助けてもらったじゃないですか」
「私は助けたのではなく、あなたに便乗しただけです。何事も最初に成したものが素晴らしいと私は思っています。その後から便乗するのは誰にも出来ますから。それに、この国の貴族を正すのは王族である私がやらなければならない事です」
「え〜と、君は王女として考えて欲しくないんだったよね?」
「っえ?はい、そうです」
「じゃあ、王族だからやらなくちゃいけないって言うのは違うんじゃない?ここではそんな事考えなくて良いでしょ?正直、個人的にあの様な傲慢な貴族が嫌いだからそう言っただけですし」
「では、私も嫌いですか?」
「なんで?」
「私はあの場所で王女として発言しました。権力を誇示して注意した私も傲慢では無いでしょうか?」
「いや、それは違うよ。あの時君が居なかったら正直面倒なことになっていたと思うし、リスペクタブルの様なやつにわからせるには必要だったでしょ?自分の持っている権力を正しく使う人の事は傲慢だとは思わないよ」
「そう言ってくれると嬉しいです」
ニッコリとアルメリアが笑う。
「それにしても、あなたのような人には初めて会いました。多くの人に王女様として扱って欲しく無いと言っても、みんな王女様王女様と私のことを呼んで、常に機嫌を伺われながら過ごして来ました。パーティーに参加した時も、私に近づいてくるものは皆、私の権力目当てに寄ってくる様な人ばかり。同年代の子供達は話しかけてくれさえしてくれません。だから友人と呼べるのもへデラくらいしかいません。なのにあなたは私に普通に接してくれる。まあ、立場を何かしら隠しているのかも知れないですけど」
ギクっ
「ふふっ、どうやら当たっている様ね。でも、あなたからは他の人から感じる嫌な気配を感じない。別に詮索するつもりは無いから安心して」
「それはどうもありがとう。何も隠してはいないけどね」
苦笑いを浮かべて言う。これが女の勘ってやつなのか?
「これからよろしくね、ボーイマン君」
「こちらこそよろしく。ところで、後ろの子のことを忘れて無い?」
会話に参加できずにへデラがアルメリアの後ろで小さくなっている。
「ごめんへデラ、忘れてたわけじゃ無いんだけど…」
「気にしないで、アルメリア。ボーイマン君、確か私と一緒の図書委員になっていたよね?」
「うん、そうだよ」
「先生からさっき『朝言い忘れてたんだけど、今日図書委員の集まりがあるんだ。悪いけど、ボーイマン君にも伝えてもらって、一緒に図書室に言って貰えない?』って言われたの。だから一緒に行きましょう」
「ありがとう。じゃあ、行こうか」
アルメリアと別れてへデラの後について行く。2階の渡り廊下を渡って図書室に入る。おいおい、これじゃ図書室って言うより図書館ってレベルだぞ。
中に入ると、建物の真ん中が吹き抜けとなっており、ドーム状のガラスの天井から光が差し込んでいる。その下には本を読むための机と椅子が並べられている。左右には7列ずつ本棚が並んでおり、それが3階まで続いている。
「それでは全員揃ったわね?ではこれから、今年度第一回目の図書委員の活動を始めます」
のほほ〜んとした感じの女の先生が話し始める。
「一年生のみんなはこの建物に入るのは初めてだったわよね?なのでまずはこの図書室の説明をしていこうと思います。明日の朝、クラスの人にも伝えてもらうから、しっかり聞いてね。まず、見てわかる通り、この建物の入り口は2つ。一つは校舎から繋がっている渡り廊下を通って入ることの出来る入り口が一つ。そして、もう一つは研究者など、生徒以外の様々な方が入りやすい様に作られた入り口です。この図書室は多くの人が利用するので、図書委員はS,Aクラスのみで構成されています」
人数が少なく感じたのはそう言うことか。
「頭の良い一年生は不思議に感じているかも知れません。なぜ、一部の天井から日光を取り入れているのか。一般的な本は、直射日光の紫外線により劣化してしまします。しかし、天井のガラスは紫外線をカットできる特別なガラスです。さらに、ここに置いてある本は一般的な本よりも頑丈に出来ております。そもそも紫外線によって劣化することは無いのでご安心ください。ですが、いくら頑丈だと言っても、粗末に扱ってはいけません。もし粗末に扱っている生徒がいたら、私はちょっと怖くなりますからね」
こんなにのんびりとした感じの先生が怒るところなんて想像できないな。でも、案外こういういつも優しい人が怒ると怖かったりするんだよなぁ。
「さて、図書室のことはこれくらいにしておいて、委員会の仕事について話しましょう。とは言っても、実際あんまりやることが無いんですよねぇ。なんせ、私は基本的にずっとこの図書室にいるから、正直委員会なんて無くても平気なんですよ。取り敢えず、この紙を見て」
一枚のプリントが渡される。それぞれのクラスの担当の月が書かれている。
「ここに書かれている、自分達が担当の時は昼休みは必ず来てね。放課後は、部活が無い時や暇な人は来て頂戴。基本的に本棚の整理は私が担当するので、君達は受付だけやってね。本が置いてある場所は、そのうち覚えていければ良いからね。そもそも、全ての位置は恐らく3年間では覚えられないでしょうから、本の場所が分からない時も私を呼んでね。この図書室か、横の司書官室に居るから。では最後に」
急に真面目な顔になる。
「司書官室には地下へ続く扉がありますが、決して入っては行けません。地下は禁書が多く置かれているので、私が許可した場合のみ、私と同伴、または先生方の同伴で入って下さい。これだけは約束して下さい。では以上です」