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20.挑戦状

 『回想の殺人』といえば、アガサ・クリスティの『スリーピング・マーダー』、『五匹の子ブタ』、『象は忘れない』の三つの名作が思い浮かびます。いずれも主人公の幼い頃のかすかな記憶を頼りに、探偵が十年以上も昔に起きた事件の真相を追い掛ける物語ですが、本作はその回想の殺人という魅力的なテーマを試みた作品です。

 しかし、実際に執筆の段階になって、このテーマの難しさを痛感させられました。というのも、過去に警察がさじを投げてしまった未解決事件を、突如登場した素人探偵が、わずかに残されしあるかないかの手掛かりから、難なく事件の真相を解明してしまう。あまりにも現実離れしたストーリーに、最初は困惑し、さらには、謎解きのために準備すべき伏線の手掛かりも、通常テーマの作品よりもかなり細かな精度が要求されることに、書いてみて初めて気付かされました。構想を練り始めてから丸半年もの間、文章さえ打つことができず、悶々と苦い日々を送ったことも、今では懐かしく思い出します。

 ところで、『読者への挑戦状』といえば、本家本元であるエラリイ・クイーンでさえも、回想の殺人がテーマの作品では挑戦状を回避したくらいですから、十九年前に起こった一見無差別的に思われる毒殺事件に対して、『読者への挑戦状』を提示するという行為が、そもそも許されるべきものなのか、という疑問は常に脳裏をよぎります。もちろん作者なりに、読者が犯人をきちんと当てられるよう、本作の文中には十分な手掛かりを仕込んだつもりではありますが、一方で、やはり多少の無理押しがあることも否めません。

 とはいうものの、本作はプロットが難しかった故に、これまでに私が手掛けたどの作品よりも、伏線となる手掛かりの総数が多くなっています。個々においては些細な手掛かりに過ぎませんが、小さなトリックの断片ピースを集めて、ジグソーパズルのようにひたすらつなぎ合わせていけば、やがて一枚の真実を表す大きな絵が完成するのです。そんな積み木を一つずつ積み上げていくような推理を、ぜひ楽しんでもらいたいと、作者は本作に思いを込めております。

 以上、少々前置きが長くなりましたが、ここで作者から、読者の皆様へささやかな挑戦状を送らせていただきたいと思います。


 十九年前に起こった残忍な細池毒果実酒事件――。その真犯人は、ずばり誰でしょうか?

(ちなみに、今回の事件の犯行は、単独犯によるものであります)


 なお本作は、舞台設定において過去に実在した事件を参考にしておりますが、あくまでもフィクションであり、作中の登場人物や、彼らがする言動や行動は、現実の事件とは一切関係がないことを、再度、お断り申し上げておきます。

 それでは、読者の皆さまが、鋭敏なる頭脳を駆使して、無事に真相にご到達されんことを……。


   Iris Gabe


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― 新着の感想 ―
[一言] おひさしぶりです。 ひとつだけ確認したいのですが 推理小説でいう「単独犯」とは 証拠隠滅や犯人隠避をした人も無いのでしょうか? 日本では事後従犯ではなく独立犯罪になるのですが。
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