5.冷遇
悪魔の子。
この世界にはそう呼ばれる子供たちがいる。
忌み子とも呼ばれる彼らは、常人であれば持っているはずである魔力をほんの僅かほども持っていないので、そう名付けられていた。
その名前からも分かる通り、彼らは、周りから忌み嫌われ恐怖される対象となっている。
別に彼らの外見に異常がある、とかそういうことはない。
ただ魔力量が0なだけ。
それだけで神様の祝福を受けないものとして、親からも、町からも、神様の支配するこの世界から疎まれ、差別される。
悪魔の子はこの世にいてはいけないもの。
これは世界共通の常識であり、なぜか徹底的に守らされているルールだ。
まあ、それだけこの世界では魔力量が重要視される、ということなのだろう。
そしてこの世界で僕は、悪魔の子まではいかないものの、0に近い最低限の魔力量しか持ってないと証明されてしまった。
要するに、無能認定だ。
◇◆◇◆
よく晴れた昼下がりの青い空。
そんな気持ちの良い天気とは裏腹に、僕の心は暗く、憂鬱だった。
舗装されてない、でこぼこの土と石を見ながら、僕は道を歩く。
「やーい。無能がいるぞー」
「ほんとだ。何の役にも立たないくずだ」
すると、どこからか罵倒する声が聞こえてきた。
子供の声だ。
最近、こういったことが多くなってきたんだよなあ。
いちいちやり返すのもめんどくさいのでスルーして通り過ぎる。
それにしてもやーいって本当に使う人がいるなんて。
ちょっとびっくりするなあ。
「あ、あいつ逃げたー」
「よわむしよわむしー。根性もないとか、生きてて恥ずかしくないのかよ」
はいはい、無視無視。
「石とか投げようぜ」
「これなんていいんじゃない」
僕が反応しなかったのがつまらなかったのか、二人組はこっちへ向かって石を投げてきた。
つい振り返るとその手には、次の、もっと大きいサイズの石が握られている。
何考えてるんだあいつら。
やり返したい気持ちはあるが、あれが当たったら痛そうだ。
しかしまあ見た目は同じぐらいとはいえ、精神年齢があんなに離れている子供にあんなに馬鹿にされるのはこたえるな。
なんで僕がこんな目に…
そう思いながら、走ってその場を後にした。
「はあ、はあ……」
まったくひどい目にあった。
いじめってどこの世界にもあるんだなあ。
自分がその標的にされるとは思ってもいなかったけど。
そんなことを考えながら足を進める。
すると、どこからか話し声が聞こえてきた。
ひそひそ、ひそひそとした話し声だ。
たまに聞き取れる会話の鱗片から、僕のことを話しているのが分かった。
「あ!あの子確か…」
「ああ、無能って噂の…。」
大人の、それもいい年をした女性のような声。
井戸端会議ってやつだろうか。
しかし、これは陰口ってやつなのかなあ。
まさか大人にまで言われてるとは…。
自分の陰口を聞く日が来るなんて思ってもいなかった。
まあ聞いててもいいことなさそうだし無視して先行こ。
「魔力量がたったの5しかないんですってねえ」
「そんなのほとんど忌み子と変わらないじゃない!」
「そうよねえ。むしろ忌み子であるのを隠すために嘘をついてるんじゃないかしら」
「そうね!きっとそうに違いないわよ」
後ろからひそひそした声と、その合間に笑い声が聞こえてくる。
はいはい、面白い面白い。
せいぜい笑ってろ。
その場から走って逃げだしたかったが、そうすると聞こえていたことがばれるし、そもそも逃げたらなんか負けた気がして嫌だった。
仕方なく僕は、気づかれない程度に、しかしなるべく足早に通り過ぎた。
◇◆◇◆
「しかし、ずっとこんな感じなのかね…」
そう呟く。
僕は、村から少し離れた草むらに来ていた。
すぐ目の前には、木々の生い茂る森があり、美しい木々が風に揺られているのが分かる。
上を向くといくらかの白い雲と青い空が、少し遠くには山脈を見ることもできる。
とても自然豊かな、平和な景色で、ここにきて一休みすると心が癒される。
無能認定されたあの日から、僕は時々ここに来るようになった。
こうして休んでいると、つい最近のことを考えてしまう。
あの日から、僕の生活が一変したわけでもなかった。
まだ子供だし、周りもこれまで接してきた態度を急に変えるのもおかしいと思ったのだろう。
ただ、周囲から向けられる視線は少し冷たくなった。
今まで向けられてきた温かい目とは違う、冷たい目を。
それに、さっきのように、陰口を言われているところもたまに聞く。
陰口というか、僕を面白がってからかうような。
「村の人たちとはいい関係を築けていたと思っていたのになぁ…」
はあ……
と、ため息が出る。
それに、年齢が近い子供たちからは、無能呼ばわりされてばかにされる。
今はまだ少し悪口を言われる程度だが、これから成長するにしたがってエスカレートしていくだろう。
いずれはいじめられるのかもしれない。
全くお先真っ暗だよ。
逃げようにも、この村を出ても待遇はあまり変わらないだろうし。
魔力量が少ない人は、レベルも上がりにくい傾向にあるので、冒険者になって成り上がることも難しい。
僕の将来は、悪いことづくめになりそうだな。
本当に気が滅入る。
「少し昼寝してこうかな…」
いやなことを考えたときには寝るのが一番だ。
大体のことを忘れられるし、精神の休養にもなる。
最近のいろいろなことを忘れるにはちょうどいいだろう。
僕はそんなことを考え、目を閉じようとした。
ん?
何かの足音が聞こえるな。
ぱっと跳ね起きてあたりを見渡す。
この辺りは村よりも魔獣が多く生息する森に近い。
少ないとはいえ、まれに魔獣が来ることもあるのかもしれない。
そうだったら危険だ。
今すぐ走って逃げないといけないかもしれない。
足音を注意深く聞く。
あれ?
こっちに向かってきてる?
「エル、どこー?」
幼い声が聞こえた。
この声はアリシャか。
なんでこんなところまで来てるんだ。
「こっちにいるよー」
返事を返しつつ、声のした方向に向かっていく。
「あ、やっと見つかったー。もう、どこにいたの?」
アリシャが少し怒った様子で頬を膨らませた。
「そんなことより、なんでこんなところまで。危ないじゃないか」
「エルだって来てるじゃん。大丈夫だよ」
「それもそうだけど…。僕に何の用?」
少しぶっきらぼうに聞いてしまったかもしれない。
まったく、こんな小さい子に八つ当たりするなんて僕もどうにかしている。
「エルが最近落ち込んでるっぽいから…。森のほう向かってるのを見て心配したんだよ」
魔力量のことを気にして、僕がどこかへ行ってしまうのかと思ってついてきたのか。
優しいな。
魔力量なんて関係なく、優しくしてくれたアリシャに心が少し安らぐ。
「ははっ、なんだそれ。僕はどこにも行かないよ。」
「それならいいんだけど…」
「大丈夫、大丈夫。全然平気だって」
僕は、元気そうに振舞う。
アリシャに心配させるわけにもいかない。
せめてこの子の前だけでも平気そうにしてないと。
「それよりさ、友達と遊んでたんじゃないの?」
確か昨日、そんなこと言っていたような。
「んーん、いいの。エルのことが心配だったから、こっち来ちゃった」
「そうなんだ。でもその友達にも悪いし、村に戻ろうか。そろそろ日も落ちてくる頃だし」
友達を放っておくのもよくないだろう、僕なんかのために。
そう思って歩き出そうとした時だった。
ゴーーン ゴー―ン ゴー―ン ゴー―ン
と。
まるで不安をあおるような、重く暗い鐘の音が、あたり一帯に響き渡った。