4.ステータス
「エルくん?いいですか?」
柔らかな声に、僕は起こされた。
跳ね起きると、目の前にシスターさんが笑顔で立っている。
やばい、見つかった。
思わず横を向くと、アリシャが面白そうにこっちを見ていた。
どうやらシスターさんに気づかれる前に起きたらしい。
えー、ずるい。
「神様に関するお話は、とても重要なことです。しっかりと聞かないとだめですよ」
「は、はい」
声が震えてしまった。
笑顔のまま柔らかな声で諭されたのだが、シスターさんの雰囲気はちっとも柔らかくない。
なんかこう、修羅というか般若というか、そんなオーラを感じる。
少なくとも聖職者のそれではないと思うんだけど。
すでに何人か殺ってるって感じだ。
「これからは気を付けてくださいね」
僕が何も言わずうつむいていると反省していると取られたのか、シスターさんが前に戻っていった。
「はい、今日はここまでにしたいとおもいますが、最後に一つだけ、お知らせがあります。
明日、皆さんには、ステータスの確認を受けてもらいます」
眠気を我慢しながら話を聞いてると、シスターさんがそう告げた。
おお、と教会の中がざわめく。
やっとこの時が来たのか。
僕はその言葉にひそかに喜ぶ。
ステータスの確認。
この世界では、5~6歳くらいになったら、保有魔力やレベルなどの確認が行われる。
これもまた教会での教育と同じように、神様による命令で全世界で行われている。
その人のこの先がある程度決められてしまう、人生でも大きな出来事の一つだ。
僕も5歳になった時から、今か今かと待ち望んでいた。
人間が保有する魔力は、生まれてからあまり変化しないとされている。
レベルが上がるとちょっとは増えるようだけど。
基本的には、生まれ持った魔力量で、魔法の才能が決まるといっても過言ではない。
それだから、この世界では、魔力量が多いとそれだけで才能があるとみなされ、優位な人生を送ることができる。
実際国の中枢にいる役人は、大体が高い魔力量の保持者だったりするのだ。
レベルは、基本的な子供は1だ。
そして、魔物を倒してその魔力を吸収するとレベルが上がる。
なんでもその魔力を吸収して、生物としての格が上がるからだとかか。
レベルが上がると、力とか思考速度、肉体の強靭さなんかも連動して上がる。
だから、実力者同士の、レベルが200とかになる者同士の戦いになると、そのやり取りはとても目で追えるものではなく、数メートル飛び上がったり、岩を砕いたりなどびっくり人間まがいのこともやってのけるらしい。
さらに、この世界には、固有魔法というのもある。
神が扱う特別な魔法というのもそれに入るのだろう。
人間にもまれに固有魔法を持っている者がいるらしいが、その大体が世界有数の実力者となれるらしい。
いわゆるチート能力ってやつだ。
「ただ僕にはなかったみたいだけど…」
僕も、生まれたころ転生者特有の能力がないか試したことがあった。
異世界転生ではおきまりだからね。
ただ、残念ながら特別なことは何もできず、特殊能力の鱗片も感じ取れなかった。
それどころか、いくらやろうとしても、下級魔法を使うことはおろか、魔力の流れすら感じることができない。
……もしかしたら魔力量、低いのかもしれない。
不安だなあ。
◇◆◇◆
翌日。
教会には、朝早くからたくさんの人たちが集まっていた。
主に子供と、その親である。
僕もノエルと一緒に来ている。
それにしてもみんな早いな。
まあ、都市に住んでいる人たちほどではないが、今後の人生を左右するような大切な日だから仕方がないか。
僕も人のこと言えないし。
少し待つと、司祭がシスターさんを連れて現れた。
その手には、水晶玉のような魔石を手にしている。
司祭が現れたことで儀式が始まるのを理解したのか、騒がしかった教会の中が静まり、皆席に着き始めた。
というか、司祭なんて初めて見るな。
一応いつも教会にいるはずなんだけど、一回も会ったことはなかった。
「それでは、皆様集まったようなので、始めさせていただきます」
司祭が魔石を台の上に行って、そう言った。
「このアーティファクトに手をのせると、羊皮紙にステータスが移されます。これは神様の魔力を込めた貴重なものなりますので、ぞんざいに扱わないようお願いします。」
アーティファクト?
名前からして凄そうな道具だなあ。
「ね、アーティファクトって何?」
僕は気になって隣に座っているノエルに問いかける。
「アーティファクトっていうのはね、うーん、たくさんの魔力をためて置ける魔石なのよ。普通のとは比べ物にならないくらいね」
「へぇー」
「だからとっても高いのよ。あれなんて神様の魔法をためているぐらいだから、アーティファクトの中でも最高級ね。一体いくらになるのかわからないけど、うちではとても払えないから、壊さないでちょうだいよ」
「はーい、分かってるよ」
そう脅されるとなんか触るのが恐ろしくなってきたな。
「次の方。えーっと、アリシャさん」
司祭が告げる。
アリシャの番が来たということは、僕の番は近い。
やばい、ものすごくどきどきしてきた。
アリシャはいつもと変わらない、軽そうな様子で前へ進むと、魔石に手をかざした。
こんな時だけは子供の無邪気さがうらやましく思えてくる。
「僕はネガティブ思考になりがちだし…」
ふいに前のほうで、おお、という唸り声が聞こえた。
そちらを向くと、アリシャが満面の笑顔でこっちに向かってくるのが見える。
「アリシャ、どうだった?すごく嬉しそうだけど」
少し興奮気味なアリシャに、一応そう聞いてみる。
この様子だとよかったことは間違いないんだろうけれど。
「そう!すごかったんだよ!なんとね、私の魔力量400もあったの!」
「え!すごいなあ。そんなに多いなんて、宮廷魔術師にもなれるんじゃないの?」
「えー、そうかなぁ」
平均的な人間の、つまりは魔法とあまりかかわりのない一般的な平民の魔力量は、100ぐらいとされている。
有名な冒険者や豪商、貴族など少し多く魔力を持っている人々でも、せいぜい200に届くか届かないかぐらいの魔力量だ。
400ともなると、Sランク冒険者の魔法使いや、魔術師のトップクラスが集まる宮廷魔術師にも劣らぬ魔力量だ。
こんな辺境で腐らせておくにはもったいないぐらいの、いわゆる天才だ。
この村を出て都市へ行けば、もう将来には困らないだろう。
いいなあ。
僕もそれくらいあると楽なんだけど。
「次、エルさん」
ざわめきが収まったところで、僕が呼ばれる。
僕は、席を立ち、前へと向かった。
やばい、緊張してきた。
心臓の鼓動が激しくなり、心なしか体温が上がっているような感覚を覚える。
落ち着け、こんな時は深呼吸だ。
「……?魔石に手を触れてください」
魔石の前で固まって動かない僕を不思議に思ったのか、司祭が促すようにそう言った。
すいませんね。
こっちにも心の準備ってもんがあるんだよ。
心の中でそう思いつつ、幾分か気持ちが落ち着いたところで魔石に手を伸ばす。
そして、触れた。
魔石の中にうごめいていた神々しい光が、触れた途端消え、その代わりに不気味な色をした光が、魔石の中にともる。
「もう結構です」
どれくらいその光を見ていただろうか。
しばらくするすると、司祭の声が聞こえた。
その手には、羊皮紙が握られている。
あれに僕のステータスが書いてあるのか。
あれが僕の人生を決める紙なのか。
僕はどきどきしながら、少し期待をもって受け取った。
しかしそこには、
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エル
男
レベル 1
筋力 60
体力 70
速度 120
魔力量 5
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絶望と呼べるまでの魔力量が、記されていた。