1.プロローグ
世界の終わり。
そう聞いて、何を思い浮かべるだろう。
よく漫画などで描かれる、荒廃した大地に無残にも破壊された建造物、わずかに残った人類には秩序も倫理もなく…、なんていう、いわゆる世紀末を想像する人は少なくないだろう。
現実的なことを言えば、人間の急激な発達が引き起こした地球温暖化によって、なんてことを考える人もいるかもしれない。
あるいは世界戦争が起こり、核兵器が飛びあって、という最後もあるかもしれない。
映画や小説では、巨大隕石の落下とか、地球外生命体の侵略なんていうのも描かれているが、それもあながちあり得ない話でもない。
地球はいつか滅びるし、宇宙だって消える。
また、死が世界の終わり、と考える人もいるかもしれない。
個人の認識上の世界を指すのならば、それも終わりだろう。
いずれにせよ、世界の終わりというのは必ず来る、避けようのない運命であることは言うまでもない。
しかし、こんな結末はだれにも予想できていなかったのではないだろう。
その日は、いつもと変わらない平凡な一日になるはずだった。
地球の温度が一気に跳ね上がったわけでもないし、核兵器が使用されたわけでもない。
人工衛星はただの一つも隕石を発見していないし、UFOが観測されたわけでもない。
ただしかし、それは起こった。
予兆はなく、あまりにも唐突に。
誰も気づくことがないくらいに。
混乱はなかった。
恐怖はなかった。
痛みはなかった。
そんな感情を持つ暇さえ与えられなかった。
人々が長い時間をかけて築いてきた文明も、
その叡智の結晶である都市群も、
地球が長い間かけて形成してきた美しく、壮大な自然も、
その卓越した頭脳を生かし、地球上の支配者となった人類も、
そのすべてが、まるで最初からなかったように
世界が積み重ねていたことが、意味がなかったかと言うように
一瞬のうちに消え去って
―――世界が滅びた。
◇◆◇◆
しかし、世界が滅びるほんの僅か前、いくつかの魂は何者かの手によって、この世界から切り離され、どこかへと送られた。
その行為が、何を意味するのかはまだ誰も知らない。