異世界名物・ステータス確認
一同は魔王討伐のために勇者が召喚された話を聞いていた。
「召喚された勇者の力は強大だった。我が国の周囲4ヵ国で召喚された勇者は、始めこそ弱かったものの、たったの5年間、たった4人で魔王の住むダンジョンに乗り込み、それを討ち滅ぼした。魔王を倒すには一軍を使い捨てるしかない、と言われていたにも関わらずだ。当然我が国もそれに最大限協力した。そこで世界は平和になるかと思われた」
絵理が聞いた。
「この国は勇者を召喚しなかったの? 何故?」
「それは、勇者召喚には生贄が必要だからだ」
「何ッ!?」
クラスメイト一同がざわついた。その理由は……英明が問いかける。
「じゃあ……そこで寝てる女の人は……まさか」
誰も注目していなかったが、玉座の近くには花やぬいぐるみで綺麗に飾られたベッドがあった。そこには一人の女性が寝ていたのだった。クラスメートも数人は一度彼女を見て謁見の間で寝ている人間を不審に思っていたが、王がスルーしていたので話に集中したのだった。
「当然……死んでいる。彼女は私の娘、ラリーンだ」
「……あなたも親ならッ!」
そう反応したのは鈴木桃子。料理部で、その肉付きのいい体は日頃男子達の羨望の眼差しを集めていた……いつもの彼女は優しく、笑顔が絶えないが、今その顔は青ざめている。
「彼女は自らの意思でこの形を望んだ。何故なら、勇者召喚は高い資質を持つ魔法使いにしか行えず、その生贄は術者本人でなければならないからだ。娘は私達家族や、国民を助けるためにと……自らが死に至る術式を最後まで、立派にやり遂げた。ああ、何度も止めた! 断言する、彼女は王族の鑑! それを一時の感情で否定するのは勇者様方とて許さん!」
チュコスプ王は玉座から少し乗り出して怒鳴った。
「あ……あの……」
狼狽える桃子。それを絵里が庇った。
「さぞお辛いでしょう。事情も知らず失礼しました。桃子も反省しているので許して欲しい。しかし、私達も家族や、友人達と無理に引き離されてここにいる」
チュコスプ王は深呼吸をして謝罪した。
「分かっている。つい声を荒げてしまったが、許して頂きたい。魔王との戦いの際に勇者召喚をしなかったのは、優秀な魔法使いを失う訳には行かなかったからだ。ラリーンは勇者以外では最強の魔法使いだった。勇者不在時の人間領域の守護という役目があったのだ」
徹也が尋ねる。
「そのような戦力を捨ててまで、何故私達を召喚したんだ?」
「彼女自身、勇者に勝てない事は分かっていたようだが、それでも人類最強の魔法使いだ。魔王を倒して『敵』を失った勇者や、魔王軍防衛の功で軍部の力が強まった他国が次の脅威を我々に設定するまで、時間は掛からなかった。魔王がいなければ勇者に勝てない彼女では……役不足。彼女は勇者のために多くの国民が犠牲になるのを嫌った」
「でも、勇者は元々地球人。そんなに野蛮だとは思えない。勇者は戦う以外に能がないのか?」
建美が問いかけた。
「その説明をしよう。『板』を持て!」
「「はっ!」」
チュコスプ王の指示で近衛がクラスメイトの人数分の板を持ってきた。王がその一人に命じる。
「説明を」
「はっ! 勇者様方、これは『ステータスプレート』というものであります。大賢者様が作ったと言われております。使用者の情報を『世界図書館』から引き出し、読み取ることが出来る魔導具です」
「(異世界要素だ!)」
話を不真面目なテンションで聞いていた者が一名。林厚生である。兵士は続きを説明した。
「この魔導具を使えば自分の能力を数値で客観的に調べることが出来ます。また、自分の『スキル』の詳細を知ることも出来ます。異界から召喚された勇者様は皆、非常に強力なスキルをお持ちです。では実際に調べた方が分かりやすいと思いますので、順番にお願い致します!」
そうは言われても……と迷う一同だったが、兵士の「痛くも痒くもない検査ですよ」という一言で並び始めた。一人ずつがプレートに手をかざすと空間に文字の書かれた画面が現れる。その画面を文官らしき人物が見て文字を写していき、さらにもう一人の文官がそれを複写していく。そのようにして全員と王にステータスやスキルが書かれた紙が配られていき、建美の番が来た。
「(なんだか緊張するな……チュコスプ王の反応が露骨すぎるんだよなぁ)」
先程からクラスメートのスキルをちょこちょこ見ている建美。王のスキルごとの反応を比べると、攻撃に便利そうなスキルの時は喜びが隠せず、防御や生産など、特殊な効果のスキルには関心しているようだった。戦闘における攻撃スキルが非常に重要な世界なのだろうかと予想している。
「では次の勇者様。ここにお手をお乗せください」
建美は手をステータスプレートの上に乗せた。大きな画面が表示される。
「建美殿はスキルが多いですね! 王も喜ばれるでしょう!」
パッと見で文官が喜ぶ。スキルが多いほど表示される画面は大きくなるからだ。表示される文字は魔法の文字なのか、勉強したことがないのに意味を読み取ることが出来る。建美は自分のステータスを凝視して、人生で最も真面目に暗記した。
名前:照音建美
性別:男 年齢:16
LV:1
HP:550
MP:600
SP:2000
【スキル】
〈絶対的器用〉
一撃で与えることが出来る最大ダメージが500になる。身体と魔力、SPを器用に動かすことが出来るようになる。【常時発動】
〈光源〉
SPを10消費。任意の位置に光源を設置する。明るさ、色、形は調整可能。【任意発動】
〈音の総括者〉
SPを100消費。任意の形の結界を設置し、内部の『音』をイメージ通りに支配する。【任意発動】
〈音の増幅者〉
SPを50消費。任意の音源から発せられた音を増幅し、好きな向きに発振する。【任意発動】
〈一撃〉
来るべき時に詳細が分かる。【任意発動】
文官により建美のステータスの筆写が終わり、複写も完了した。その一枚を建美は受け取り、クラスメイトの所に戻った。
「はあ?……最大ダメージが500……だと……?」
最初のスキルからして驚愕である。SPが多いので所謂『魔法職』のようなステータスの自分で初期HPが550なのだから、これでは戦えないことが判明したようなものだ。スキルも『音』に関する物ばかり。最後のスキルに関しては詳細すら分からなかった。
「(音楽活動には向いているかもな。ギターをやってるからか? 明らかにこれらのスキルだけでライブができる。それに最後のスキル……なんだこれ)」
「これは……対勇者などさせれば死んでしまうではないか。というよりも一般兵にも勝てるかすら怪しい。建美殿のためにも、城下町で働いてもらった方がいいかもしれん」
王の呟きが聞こえて、クラスメートと違う場所で生活しなければならないのかと建美は冷や汗をかき始めた。
「(今のうちにスキルの応用を考えておかないと)」
建美はそう考え、スキルを上から順に、大きさは小さく発動していった。
そうしているうちに最後の一人までステータスの確認が終わり、チュコスプ王は勇者がどういう存在か、どのように魔王との戦争に投入されたか、といった続きを説明し始めた。