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学年閉鎖

よろしくお願いしまあああああす!!

我らがアイドルY.K.に捧ぐ。

 校門を通り抜け、人通りの少ない体育館の横を通り、校舎に入る。靴箱は無いのでマットで靴の砂を落として階段へ。背負う肉抜きエレキギターの重みを恨めしく、かつ頼もしく思いながら三階に昇る。そして階段から三つ目のドアを開けて、彼は明るく挨拶をした。

「お早うー! …………早く来すぎたかね?」

 それと同時に、目に入る教室の雰囲気に違和感を感じる。その理由は明白であった。学校に来るのが早すぎ……

「そんなことはないぞ! いつも通り八時三十五分。ギリギリアウトだ照音建美(てるねたつみ)クン。そこのマットで腕立て伏せ二十回!」

「げ、先生! 今日は朝礼長引かなかったか~。体罰よくな……しゃーねーやるか……一、二、……」

 クラス全体にジト目で見つめられれば、ギターの練習にもなる腕立て伏せも吝かではなかった。しかし自分が遅刻しているとなれば、この人の少なさに説明がつかない。そう考えつつも建美は腕立て伏せを行った。遅刻の罰での筋トレには慣れたもんだが流石に楽器を背負っての腕立てはきつい。

「さて、今日はだな……今居ない人達は皆インフルエンザだ! 三階で大流行しているそうで、二年は学年閉鎖になる。今日は水曜日だから……今週はもう来なくて良いぞ。来週からまた元気に来るように。今日も休みになるので……自分は元気だからってハメ外すなよ。じゃあ、今日は解散」

「(なるほどインフルエンザか。昨日までは皆元気だったけど、皆一斉になるもんなんだな……事実は小説より奇なりってやつかねぇ)」

『やった!』

 現状を冷静に分析する建美とは裏腹に周りの生徒たちは喜びを隠しきれなかった。ただし小声で先生には聞こえないレベルである。先生が教室を出始めると、これだけ喋っている間に腕立て伏せを十五回しか出来ず残り五回に控えた貧弱ギタリスト照音建美に声がかけられた。

「建美……倒れてるけど腕立て伏せ終わった?」

「あ、後五回……もうちょい待って茶子」

 彼女は三軒茶子(さんげんちゃこ)。有名な家元三軒家の一人娘で、建美の幼馴染、兄妹みたいなものかつ親友である。部活はバドミントン部に所属している。何故茶道部ではないのか建美は聞いたことがある。「茶道面白くない」とのことだ。

「お、終わったー!」

 たった二十回の腕立て伏せでへばった建美を見る茶子。「相変わらず貧弱ねー」とによによしながら建美の背を押して腕立て伏せの負荷を増やしていた。

「でもヤバイな。こんなに急にインフルエンザが流行るなんて。昨日まで皆来てたのにな……今日から休校なんだし腕立て伏せやる必要無かったんじゃ……やめれば良かったのに」

「ぐへっ……徹也(てつや)、それは早く言って欲しかった」

 そう言って話しかけてきたのはクラスメートの柏木徹也(かしわぎてつや)。バレーボール部のエースである。

「すまんすまん、でも建美は貧弱すぎだぞ。そうそう、今日はバレー部も部活休みだからさ。どっか遊びにいかね? まだ九時にもなってないから何でも出来るじゃん!」

「いいね! じゃあさ……まだ皆いるみたいだし、元気な全員でこの前できた虫料理の店とか行ってみない?」

「「いやそれはいい」」

「何でだよ! 俺も初めてだぞ! 一緒に新しい世界の扉を開こうぜ!」

 建美が謎にテンションを高くして言えば、徹也も笑った。

「わはっ! なんだよそれ! 新しい世界の扉って! 例えばこんなのか? ……ん?」

 そういって徹也が指差したのは、教壇の目の前にある扉である。その形は学校では珍しく両開きのようで、廊下の向きと()()()、黒板と平行に立っていた。

「なんだあの扉!? 何もないところに立ってる!?」

「マジで扉があるとは思ってなかったわ……」

 建美は目を擦ってもう一度教壇を見た。やはり扉はそこにあった。


 扉が開いた。


「うわっ! 開いたぞ……吸い込まれる!?」

 空間がミルクをかき混ぜたコーヒーのようにねじれ、そこにいた15人は、扉に吸い込まれた。

「建美!」

「茶子!」

 先に吸い込まれた茶子を見て建美は咄嗟に手を伸ばし、茶子が差し出す手を掴んだ。しかし、結局建美も吸い込まれ、一緒に扉に消えていった。全員を吸い込んだ扉は、両開きの板を閉じ、折り畳まれるように空間へ消えた。


 数分後、先生が戸締まりに戻ってきた。

「……誰もいない。早いな。どこかに遊びにいったのか……? 変な所じゃなければ良いが」

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