開幕
一筋の光もない暗闇の中、『彼女』はただ静かに座り込み品定めするかのように目を細め前を見据えていた。否、座り込むというのは正しくないのかもしれない。足が存在しない『彼女』は初めから立つことが叶わないのだから。
身に纏う漆黒のドレスと長く伸ばされた黒髪は完全に闇と同化し、いっそ死者の者ともいえそうな異常なほどに白い肌が、光源もないのに浮き出ている。
黒い瞳に映るのはただただ真闇のはずなのに、何かが見えているかのように、楽し気に赤い唇が弧を描いた。
傍から見れば異様な光景であるが、この場にいるのは『彼女』だけ。
「さあ、始めましょう。あなたたちはどのような物語を紡いで舞台で輝くのでしょうか? …安心なさい、わたくしはあなたたちの味方です。主役をより美しく魅せるのがわたくしの役目」
そうして、まるでステージ上でスポットライトを浴びている女優のごとく、両の手を大きく広げてうっそりと告げる。
「皆様、今宵はようこそお越しくださいました。まもなく開演いたします、どうぞ最後までごゆるりとお楽しみください」
『彼女』の言葉を聞くものは誰もいない。しかし、この一言ですべてが始まった。
…5人の少女の物語。一人ひとり、お互いが関わることはないが、少女たちに共通するのは『彼女』に出会うこと。
『彼女』は舞台の演出家。少女たちの演じる『舞台』がより映えるように、ほんの少し、背中を押して手を加える。
そうして完成した舞台のお披露目が終わるとき―――