come to real
人を簡単に嘲る声が聞こえる。
聞きたくないのに、ずっとずっと、俺の耳に蔓延り意思を溶かそうとする。
いつもいつも、誰にも理解されない。変わりたいわけじゃない、自分のままでありたいだけなんだ。
言葉にしても、その言葉は聞こえない。
行動で示しても、その行動は伝わらない。
周りが変わってくれないのならば、そうだ、口などいらない。体などいらない。……こんな場所に、俺など必要ない。
絶え間ない侮蔑の言葉を避けるように、俺は1人世界を抜け出た。
「えーっと………河辺さん?」
俺は手に持っているメモを見つめた後、目の前にある家の表札を確認した。
なんということでしょう。生徒会だというのに不登校の生徒を説得する仕事を押し付けられてしまった。いや、担任!いや、委員長!なんでこっちに回してくんだよ!こっちはただですら事務仕事とかいう意味のわからないことやらされてんのよ!?生徒会に全幅の信頼を置かないでくれる!?
表札とメモ用紙の名前が一致しているのを確認した後、俺はインターホンを押した。
とは言ってもあれだ、やれって言われたらやらなきゃいけない。俺は、上の人にはとことんなびく扇風機のあのスズランテープ野郎という異名を持っているからな。
「はい……どなたですか?」
「あ、どうもすみません。上北高校生徒会長の飯田です。河辺幸隆君のことできました。」
「あ、はい、分かりました。」
俺は家に招き入れてもらった。
「これ、味気ないものですが……」
「ご配慮ありがとうございます。」
お茶を貰いお礼をした後、俺は雪隆の母親と会話を開始した。
「しかし、いつも同じクラスの委員長がいらっしゃっていたのに、生徒会長が来るんですねぇ………」
「えぇ、雪隆君の出席日数がだいぶギリギリになってきておりまして。僕が直接出向いて状況を把握しようと思ったんです。」
「そう……ですか。もうそんなに長い間休んでいるんですね…………」
「はい。うちの学校は出席日数のうち、3分の一休んだら留年という扱いになります。……あと、7日間ですね。」
俺は淡々と状況説明をした。委員長や担任も留年という言葉を使って脅すことはあったろうが、具体的な話はしてないはずだ。色々とかの話で信頼関係を築かないと………
俺は雪隆の母親と話しながら、目に入るものに意識を向け始めた。
「このまま休み続ければ確実に留年になってしまいます。」
置き時計………近くのホームセンターで売っている安いやつだ。
「しかし、僕達もそれは望んでいません。同じ教鞭をとる生徒が、理由はどうあれ、同じ過程を歩めないというのはあまりにも悲しすぎる。」
棚の上にある何枚かの写真………家族写真だ。母親やバットを持った父親、証明写真で確認した雪隆がボールを顔に近づけながら写っている。
「ですから、僕達生徒会が尽力し、彼を学校に行かせたいのです。無理矢理ではなく対話を重ね、学校に行く気にさせたいのです。」
俺は一歩明日を後ろに引いてから頭を下げた。
「無理にとは言いません。僕に任せてくれませんか。」
「………頭をあげてください。貴方のその物腰を見た時から、貴方に託そうと思っていたんですから。どうか、雪隆を引っ張り出してください。」
俺は母親に連れられて2階にある雪隆の部屋の前まで来た。
母親や生徒会情報だと、クラスで軽いイジメがあったらしい。原因はまだ分かっていないが………どうせ何も考えずにイジメたといったところだろう。あとで実行犯を宏美とイリナに殴らせれば万事オッケーだ。……あ、これ内緒ね?恐喝してるみたいで印象悪いじゃん。
コンコン
「どうもーー。生徒会長の飯田でーす。起きてたら返事してくれないかなぁ。」
「……………」
ドアを軽く叩き大きめな声で呼びかけたが、返事がない。………困ったなぁ。
「………お母さん、下の階に行ってて下さい。」
「は、はぁ………」
渋々と下の階へと降りていく母親を確認した後、俺はドアに口を近づけてコソッと小さな声で語りかけた。
「どう?最近、面白いマンガ描けてる?」
彼の友達から色々と情報は調べてある。マンガが大好きだってこととか、マンガ自体を描いているってこととか、小学生の頃に学級文庫に描いて置いてたりとか………
「……………」
「この前書いてたのは刑事ものだったっけ?その前はSFもの………俺の考えだと、最近描いているとしたら18」
ドタドタドタン!!
ガチャ…………
「………入れ。」
「…………お、ありがとう。それじゃあ遠慮なく。」
薄っすらと雪隆が開いた扉を更に開け、俺は中に入った。
雪隆の部屋は予想外なことに散らかっていなかった。確かに普通よりはマンガ本の量が多いが、キチンと整頓されている。まぁ、雪隆本人の服装とか髪はヨレヨレボフンボフンだがな。まるで寝起きの俺みたいだ。
「………誰からその情報仕入れた。」
「うーんと、小中の担任。」
「…………マジかよ。」
「マジだよ。情報収集はいつだっておおマジでやらなきゃいけない。マンガ制作だって同じだろ?」
「……………知った風なことを言うな、お前。」
雪隆は頭を掻きながら、布団の上に座った。俺は床に胡座である。
「まぁな、マンガなんて描いたことないからな。詳しい事はわからん。」
俺はリュックからコーヒー牛乳を取り出し、一口飲んだ。
「飲む?もう一本あるけど。」
「………そう言えば頭がおかしい生徒会長がいるとかいってたな………なんか妙に納得した。」
「頭がおかしい?いやいや、超マトモさ。[宇宙で一番普通の奴]だと自負してるからね。」
俺は取り出したコーヒー牛乳をリュックに入れた。
「………なんだ。わざわざ生徒会長が来てくれて悪いが、俺は学校なんて行く気はねーよ。めんどくせーだけだからな。」
「えーー…………まぁ、そう言われちまったらしゃあねーな。ちょっとこの本読ませてくれ。」
俺は近くの棚に置いてあったマンガの一巻を取ると読み始めた。
「………おい、お前生徒会長だろ。なんで不登校児の部屋でくつろいでんだよ。さっさとでてけよ。」
「良いだろ別に。俺は生徒会の仕事をサボるためにここに来たんだからな。あんのクソ先公ども、仕事を勝手に押し付けて来やがって…………3時間ぐらいいさせてくれよぉ〜。」
「えぇぇ……………お前やっぱり頭おかしいよ。」
「おかしくないおかしくない。これが人類の標準形だ。」
〜3時間後〜
「おい!なんでここでこいつが裏切ってんだよ!フラグなかったろうが!」
俺はマンガとあるページを指差しながら、ベッドに寝転がっている雪隆に話しかけた。
「あーーそれな、連載当時もかなり叩かれてたんだ。この回のお陰で駄作認定受けちまったんだよ。流石にこれはねーよなぁ。ウケ狙いすぎたんだよ。」
あーーこのシーン以外良い漫画だったんだけどなぁ。このシーンが飛び抜けてなぁ………ん?
視界に入った腕時計はもう既に7時を指していた。
「おっと、それじゃあそろそろ生徒会に帰るか。明日も来るから、そこんとこ宜しく。」
「あぁ?マジで言ってんのかお前。仕事しろよ仕事。」
「人生の優劣はどれだけサボれるかだと思うのよ。君の部屋マジでサボるのに便利だな。」
それだけ言うと、生徒会長は部屋を後にした。
それからというもの毎日あいつは、俺の親に恭しく挨拶したかと思ったら俺の部屋に来てマンガをだらしなく読了して感想をとやかく言って、意見を求めて来るようになった。
なんだこいつ………本当に頭おかしいな。真面目に生徒会長なのかよ………なんか勘違いしてないよな?本当に大丈夫だよな?
「はいこんにちわこんばんわ。」
「ああ………おはよう。」
この男が来始めてから4日経った。4日経ったつーかさぁ、今日土曜日なんだけど?朝なんだけど?なんでこいつ来てんの?
「スティー○ボールランの続き読まなくちゃ………黄金の回転エネルギーってなんだよ。」
いや、なんでスムーズに本棚から本を引き抜いてんの?許可は?俺はの許可はどうしたよ。
「どうぞ。」
「ああ、お構いなく。コーヒー牛乳ありますから。」
そして俺の部屋に母親が入って来てなんでこいつにお茶渡してんの?いや、マジで構っちゃダメだろこいつ。つーかコーヒー牛乳毎日持って来てんなお前な!1日最低2本は見るぞおい!
「……………」
「……………」
「……………」
「…………ディモールト!ベネ!」
それ違う!
「……………」
「………つーかさ、なんで閉じこもってんの?」
母親が部屋を出て行って、生徒会長が本を読み始めてから30分後?それぐらいになって急に話し始めた。
「………色々あんだよ。」
「…………当ててやろうか?」
「……………」
生徒会長はマンガを読みながらあっけらかんに言った。
「………当てれんのかよ。」
「まぁな。見たまんま俺は根暗だから、人間観察が得意なんだ。小中高の同級生の情報は全部頭の中に入っている。そこから大抵の人間の性格や思考は読める。」
「………ふーん。じゃあ当ててみろよ。」
「お前、萌え絵専門だろ。」
…………なんでこいつ分かるんだ?
「お前の本棚の本を調べてみると、昔ながらの名作も確かにあるけど、最近の絵柄のマンガが多い。きっと、最近の絵柄の傾向に寄せる為に研究してるんだろう。最近の絵描き志望に多いよな。」
「………………」
ほとんど完璧に当たっていた。だから俺は黙った。
「んでだ、うちの学校の生徒の傾向は2次元反対派が多い。マンガは読むが、萌え絵とかは苦手だという奴も多い。………そいつらにお前のマンガは受け入れられなかったんだろ?だからバカにされ、されどへこたれずに受け入れられようとし、またバカにされ………んで今だ。どうよ?あってる?」
「…………だったらなんだよ。」
「いや、別に。妥当な選択だったんじゃねーの?分かんねーけど。」
生徒会長は本をペラっとめくった。
「マンガを描くだけなら別に学歴なんて必要ねーしさ。まぁ、流石に高卒認定ぐらいはあった方がいいだろうけど、留年してからまた学校に行けば良いだけだし………まぁ、あながち間違いじゃないんじゃない?」
「…………学校行けとか言わねーのかよ。」
「だってお前、学校行ったってメンドくさいだけだろ?強要なんてしてらんねーよ。俺もできることなら学校サボりたいしさ。」
「…………じゃあなんで学校行ってんだよ。しかも生徒会長なんかにもなってさ。サボれば良いじゃねーか。」
「チッチッチッ………甘いねー。学歴もない状態で生きていけるほど俺の基礎ステータスは高くねーのよ。ザコだから仕方なく学校行ってんの。」
……………ザコだから学校に行ってるか……確かにそうだよな。高卒でがっぽり儲けてる奴もいる世の中だもんな。才能があるんなら学校なんて行っても意味ないよな。
「つーかマンガ家なりたいんだろ?ちょっと原稿見せてくれよ。」
「………描いてねーよ。」
「…………え?」
「描いてねーんだ。なんかあいつらにバカにされ続けてさ、どうでも良くなっちまったんだ。………大体、マンガ家なんて今は競争倍率高いからな。そう簡単になれる職でもねぇ。つまんねー夢だよ本当。」
一応紙もトーンもGペンもある。資料集もあるし色々な図鑑もある。あるけれど………全て手付かずのままだ。
「…………ふーん。」
「なんだ、見損なったか?」
どうせこいつも、先生やそこら辺の馬鹿みたいに夢を追いかけることがどれほど素晴らしいかを力説するのだろう。ふん、そんなのマンガで見飽きたっつーの。
「………正論と、ヤングアニマル版がある。」
「…………はぁ?」
生徒会長は本を本棚に戻した後、二本指を提示した。
「だから、俺がお前にかけてやれる言葉には2種類ある。1つ目はど正論、バカでも分かる。2つ目はヤングアニマル版、好みが分かれる。どっちの言葉をかけてもらいたい?」
「…………どっちも。」
「よし分かった。それじゃあど正論から行こうか。[夢つーのはな、年取ってからは追いかけられないんだよ。良いか、今だけだ。若い今しか追いかけられないんだ。それなのに今諦めてどうする!!]」
………ど正論だな。
「んじゃヤングアニマル版。………そもそも夢って言ってる時点でお笑いだよな。夢って言葉には忘れて逃げられる余地が存在してしまう。そう、目標じゃなきゃいけない。[俺の将来の目標はマンガ家だ]と、言えないようじゃなきゃその職業を語ることはできないんだ。」
生徒会長はニヤニヤしながら話を続ける。
「やめたければ辞めれば良いんだよ。小馬鹿にされた程度で挫けるような心意気なら尚更な。学校も行かず、定職にもつかず、FXで有り金溶かして借金生活でも送ってみるんだな。案外楽しいかもしれんぞ。………夢なんて言ってる甘ちゃんは、それぐらいがお似合いだ。」
「…………うっせぇな。」
嫌なところをついてくんなこいつ………このままじゃダメだってことぐらい俺だって分かっているに決まってんだろうが。
「じゃあお前はなんだよ。行きたくもない学校に行って、学歴手に入れて、何になりたいんだよ。」
「………さぁ?特に決まってない。」
「はぁ?………話になんねーよ。」
「いやいや、自分の将来を決めるための学生生活なんだぞ。……良いか、俺は学校生活で武器を手に入れているんだ。学歴はもちろん、学力や知的好奇心。実行力。スピーチ力とかも磨いている途中だな。………これも全て、目標が見つかった瞬間にそれに全力で立ち向かい成功させるためだ。……その通りだ、お前とは話になんない。俺とお前とじゃ持ってる武器の多さが段違いだからな。」
……………うざってぇなぁ。
「俺はまだ何も見つかってない。だが、見つかったらそれを完璧に手に入れる自信がある。途中で筆を折ったお前とは違ってな。………なーんで自分で磨いた武器を手放すのかねぇ雪隆君。」
「…………お前に分かるわけがないだろ!」
生徒会長の言葉が正論ばかりでうざったくなってしまい、心の底から感情が爆発した。
「最高傑作だったんだ!!研究に研究を重ねて完成した俺の最高のマンガだったんだ!!なのにあいつら全然評価しようともしてくれねぇ!![絵が気持ち悪い]って言って貶してくるんだよ!!しかもそのせいでペンも全然進まなくなっちまうしよぉ………わかんねぇだろうな!!こんな気持ち!!」
「挫折したことのある人間はこの世に星の数ほどいるんだぞ!!お前の話を理解できねぇ奴なんてこの世には1人としていない!!」
………なんだよなんだよなんだよ!!何怒ってんだよお前ごときが!!
「自分だけが特別だと思うなよ!!俺はな、お前よりも恵まれていない自信がある!!勉強始めるまではな、美術なんて2か3しかとったことないし、つーか芸術科目はいつも2か3だった!!体育も2か3だ!!仕方ねーから勉強の道に進んだんだよ!!そうやって主要科目の偏差値上げたおかげで、先生達のお計らいでオール5とれてんだよ!!お前みたいに常に美術5の天才肌じゃないんだよ!!」
ぐぬぅううう!!!言ってくれるじゃないか!!!
「………良いか、なりたい物になるってのは凄く難しいことだ。順調に進むなんてまずあり得ない。泥水すすって、何も食えないときもあるだろうな。それだけ難しい。だから人間は夢なんて言葉で表現して逃げることを正当化している。」
「……………」
「お前が逃げたのはある意味正当だ。夢を夢のまま終わらせたんだからな。………だが、もしそのまま終わるのなら、もう現実にお前の願望を持ってくるなよ。自分を正当化して自分の欲望から逃げるようなクズにそれを語る資格はない。」
「………だから俺は奴らのせいで!!!」
「自分の結果を他人になすりつけてる時点でお前は終わってんだよ!!」
「…………………」
完璧に言葉を失った。だって……それは…………その通りだ。その通りなのだから。
「…………後悔はこの世で最も味わい難い感情だ。でも、この世で最も恐ろしいのは、その後悔から逃げて自分を正当化することだ。……大義は人をダメにする。」
そう言うと、生徒会長はリュックを持って立ち上がった。
「もう一度考えてみ。お前はまだ留年してない。選択肢があり、まだなんとかなるんだ。まぁ、何を選ぶかはお前次第だけど。」
それだけ言うと、部屋を後にした。
その夜、俺は悶々と考えていた。どうしたら良いのだろうか。………いや、何が一番良いことなのかは分かっている。分かっているのだが、あの人を小馬鹿にする声がどうしても俺の頭から離れない。あんなクソみたいな学校、生徒………潰してやりたいぐらいだ。気に入らない気に入らない…………なんであんな脳みそ軽いバカどもが……………
まとわりつくような苦渋と怨嗟に身を焦がしながら、その夜を過ごした。
「グッドアフタヌーン、グーテンモルゲン。」
「………こんちは。」
次の日、昼頃に生徒会長がいつも通りの表情できた。なんだこいつ………もう忘れてやがるのか。
「………んで、どうすんの?学校行かないの?行かないなら行かないで別に良いぞ。先生に言っとくから。」
「…………いや、行く。」
「…………なんでよ。」
「気に入らないからだ、あのクソどもがな。……気に入らないから、奴らを登場させてボコボコにしてスカッとするマンガを描く。」
昨日、色々と考えた結果、奴らを見返すにはマンガでやるに限るとなったのだ。同じ手段で仕返しするのはチンパンジーでもできる。俺じゃないと出来ないことで奴らを、特に奴らがバカにしたもので見返してやらないと意味がないのだ。
「その為には奴らを研究しなくちゃいけない。………だから学校に行く。ついでに勉強もして、それを応用してマンガにも利用する。そして新人賞でもとるんだ。インパクトがあっていけそうだろ。」
「ふーん…………変なやつ。後悔とかないの?家でサボってた方が楽じゃない?」
「お前にだけは言われたくねーよ。」
「そうかい………んじゃ俺はスティー○ボールランの続きを読むか。聖なる遺体ってなんだよ。」
そう言うと、生徒会長は本棚から本を一冊取り出し読み始めた。
「……………」
「……………」
「……………」
「…………おとさーん!!」
それも違う!!
月曜日になると、俺は仕方ないから制服に着替えた。あーー久しぶりだなクソっ。………ちょっとカビ臭い?リ○ッシュかけとこ。
カバンの中に入れたノートや教科書。どこまで授業が進んでいるか分からないが、なんとかなるだろ。ヤバくなったら生徒会長の所に駈け込めば良いんだし。
俺は家を出て歩き始めた。
色々と思うことがあったりする。学校が面倒くさいとか、空って結構明るかったんだなぁとか、舗装路のテキトウさとか………なるほど、確かに知的好奇心は視野と世界を広げてくれるな。
「……………」
そして辿り着いた校門。ここをくぐれば学校の敷地か………
グッ
ほんの少し震える指先を別の手で握りしめて押さえつけた。
………そうだ、後悔してられないのだ。この空白は埋まらない。全力で取り戻すしかない。そして腹をくくったんだ………奴らを見返す為に、そして俺の昔からの目標を叶える為に、マンガ家になるのだと。………もう逃げない。障害は全身全霊をもって潰してやる。
俺は一歩踏み出した。