戦い終わって
―――ああ、これはもうがんじがらめだな。
女剣士は思う。
魂に設置された祭壇。それを使って力を引き出した途端、己の魂魄ががっちりと掴まれたのを感じたのである。相手はあの半神。友人の本性たる神霊であった。恐らく、今後死ねば強制的に星界へと連行されるのであろう。神格を与えると言っていたか。神という柄ではないのだがまあ、死後の仕官先が決まったと考えよう。今はあちらも戦場のようだし、退屈はすまい。
手付金を使ったのだから当然の結果ではあった。邪神や闇の者どもに魂を捕縛されたわけではないのだから別に悪い事ではない。以前死んだ際はそれはもう寒かった。暗くて孤独で。すぐさま死にぞこないとして黄泉還らされなければ、ずっとあのままだったのだろうと考えると、死後にきちんとあの世へ連れていかれるのはむしろありがたかった。
とはいえまだまだ当分死ぬ気はない。しばらくは現世でこの偽りの生を楽しんでいたかった。任務も果たさねばなるまいし。
女剣士は頭を振ると、剣を鞘に納め、女戦士の首を置いた。これだけの騒ぎだ。移動しなければ再度寝る事もできぬ。
駆け寄って来た踊る剣を労い、女剣士は衣を身に着け始めた。
◇
―――いったい、なにが。
女戦士は、己を抱える同族を呆然と見上げた。
恐るべき魔力。神の加護でも似たような現象を引き起こせると聞いたことはあるが、同族は死にぞこないである。近い効果を持つ魔法なのだろう。
それにしても、凄まじい。
この実力。これだけの力があれば、きっと娘を救うことができる。そのあと、この者たちより逃れなければならぬという問題もあるが。最悪、捕縛された時のことも考えねばならぬ。己は駄目だろう。既に罪を犯している。だが、娘は。この同族はまだ人の心を残しているように見える。自分の境遇を知った今、娘は救ってくれるであろう。己が処断された後の娘の養育を頼んでおかねばなるまい。
思案する間にも、女戦士の首から下はこちらへと近づきつつあった。ようやく合流できるわけだ。
それを知らせるべく、女戦士は口を開いた。肉体の口を。思えば、長い間開いていなかった。今朝、彼女らに事情を話す際に開いたのは一体何十年ぶりとなったのだろう。いや、数えてはおらぬが百年を超えるかもしれぬ。
「…ぁ……」
◇
魂のうちよりささやかながら力が流出していったのを感じた女神官は、友人が神霊より力を引き出していったことを悟った。
己と友人の魂は深く結びつき、もはやほどけることはないであろう。別に構わなかった。ほかならぬあの友人となら。
女神官は、内心で微笑んだ。
◇
番兵より女神官たちが解放されたのは、女剣士の戦いが終わったのとほぼ同時刻であった。番兵の同僚が、彼を引きずっていったのである。女神官たちへ平謝りであった。
無事に捜査をやり過ごした一行は、空になった器を宿のおかみに返し、そして荷物をまとめて宿を出た。
ようやく、女戦士。女剣士。女神官。黒衣の少年。この件に当初より関わっていた者たちが、揃う時が来た。




