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くっ殺から始まるデュラハン生活  作者: クファンジャル_CF
第九話 追跡行
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臓物

朝日が昇り、木漏れ日が差し込みつつある中。

森のかなり奥深く。上陸してから半日、女戦士は目当ての場所へとたどり着いていた。すなわち味方・・との合流地点へと。

首を持たぬ彼女は、声なき声で命じる。

土の下より起き上がったのは、控えめに言ってもおぞましい怪物であった。陽光を浴びても無事なのを目にしていなければ、闇の魔法の産物と言われても納得の代物である。

それは、臓物だった。腸。胃。肝臓。食道。子宮。その他あらゆる胴体の中身。新鮮なそれらの集合体が、体液を滴らせながら、女戦士へとを垂れた。

女戦士は着衣を脱ぎ捨て、臓物へと背を向ける。

おぞましき臓物どもは、女戦士の全身に絡みつき、覆い尽くし、隙間をなくし、急激に乾燥。いや、変質していく。

やがて完成したのは、漆黒の甲冑。死霊術師によって生み出された、強力な魔法の鎧であった。

女戦士は、下腹部を撫でる。

この甲冑は、女戦士自身の体内から抜き取られた臓物のなれの果てだった。体内にあってももはや使い道(・・・)はないとはいえ、いい気持ちはしない。

次いで、彼女はもう一頭・・の仲間へと呼びかけた。

土が再び盛り上がる。

出てきたのは、馬。見事な毛並みと体格を保ったそいつにはしかし、首がない。死にぞこない(アンデッド)―――首なし騎士(デュラハン)の乗騎として創造された、首なし馬(ヘッドレス・ホース)だった。

自らの意志で主人に仕えるこの怪物の躰を、女戦士はそっと撫でる。

やがて彼女は、足元に置いていた剣を帯びた。次いで、着衣を畳み、荷物―――強奪してきた魔導書の詰まった革袋―――とともに布で包み、輪にして体に背負う。

旅の支度を整えた女戦士は、愛馬へと飛び乗るとその鬣を掴む。手綱はない。首のない馬に手綱などつけようがないからであった。鞍や鐙も不要。首なし騎士(デュラハン)の身体能力ならば、両の足でしっかりと体を固定できる。

周囲を見回すと、女戦士は愛馬を走らせた。

それらの一部始終を、遠距離より眺めている一隊があった。

森の外、近くの高台より女戦士を監視していたのは、一見旅人風の男たち。彼らのひとりが手にしている筒状の道具は、交易により港町が入手していた最新鋭の遠見の道具である。魔法使いでなくとも素晴らしい視力を得られるこの宝具によって、彼らは標的に気付かれぬ距離から監視を続けることができた。

彼らは動き出す。追跡する者と、連絡場所へ向かう者とに別れて。


  ◇


『なるほど。承知した。そなたは監視を続行せよ』

「はっ」

恐るべき霊威を放つのは生霊レイス。法衣を纏い、十三枚の翼を広げる強大な霊を前に、連絡役の衛士は冷や汗を垂らした。

時刻は、日暮れ直後。

普通の人間では首なし騎士(デュラハン)に勝てぬ。勝つためには強力な魔法が必要だった。そのことは衛士自身重々承知している。だからこそ彼や同僚たちは、曲者を監視するにとどめていた。もちろん彼ら普通の人間にもできることはある。人海戦術で情報を集め、幾つもある予測された進路へ先回りし、その一つがとうとう逃走中の曲者を補足したのである。

だから、後はこの、眼前に佇む魔法使いへと任せればよい。そのはずなのだが。

なんだこの、凄まじい威圧感は。相手がほんの気まぐれを起こせばそれだけで、自分が地上から消えているであろうと思える。

味方のはずなのだが。

『ご苦労であった。では私は肉体・・へ戻る』

「はっ」

次の瞬間消滅した生霊レイスに、彼が安堵したことは言うまでもない。


  ◇


野営地の上空へと戻った生霊レイス―――すなわち女神官の霊魂。いや、その言い方は正しくあるまい。肉体より解き放たれた彼女は目が覚めて(・・・・・)いたからである。

素晴らしい。

女神官でもある者(・・・・・)は思う。

できればこのままもうしばらく、この格好でいたい。あの狭苦しい肉体へ戻るなどもってのほか!

とはいえ約束がある。任務もある。件の魔導書が、自陣営に大変な問題を与えるという事実は理解していた。故にちょっとばかりいたずらで気を紛らわせたら、肉体へ戻るとしよう。あの狭苦しい我が家へと。


  ◇


日が暮れた。

そろそろ起きるか、と五体満足・・・・な女剣士が泉の中より立ち上がろうとしたとき。

眼前に顕れたのは、女神官の顔。いや、その魂であろう。

彼女は女剣士の首を抱き寄せると、唇を奪った。自らの唇を押し当て、そして舌を口の中へと入れて来たのである。

柔らかい。暖かい。

それはディープ・キッスであった。

やがて女神官は名残惜しそうに唇を話すと、いたずらっぽい顔を浮かべて去っていく。肉体へと戻っていったのであろうが。

狐につままれたような顔をして、女剣士は起き上がった。

陸では、幽体離脱レイスフォームを終え、連絡係と接触してきた女神官が頭を振りながら立ち上がり、それを黒衣の少年が助け起こしていた。

―――まあいいか。

そんな事を思いながら、女剣士は泉から出た。

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