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くっ殺から始まるデュラハン生活  作者: クファンジャル_CF
第六話 竜と礫
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剣士と黒衣と神官と

軍勢の進行方向。その左側。音もなく敵を追尾していた女剣士は、友人の意向にニヤり(・・・)と笑った。いいだろう。たった三人、いや四人・・で、大軍を相手に戦うわけだ。これが楽しくなくて何だというのだろう。女冥利に尽きる(・・・・・・・)

前方には森の切れ目。その先には田園風景が広がっている。そこを抜けたら、仕掛ける。

速度を上げた彼女は、森を抜けた途端に右へ急旋回。凄まじい勢いで疾走する。

その先には、何十という数の敵勢。巨狼ダイアーウルフに跨った小鬼ゴブリンどもが棍棒片手に、森から飛び出してきたところだった。

騎兵を潰すのであれば森の中の方が都合がよい。―――本来ならば。

大剣を抜き放ち、女剣士はそやつらへ突進。後に続くのは、腰からひとりでに抜けた踊る剣(リビングソード)

馬にも勝る速度で敵との距離が縮まる。いや、女剣士の脚力がそれを可能にしたのである。

一閃。

まるで藁束のように、人馬両断・・・・された闇の騎兵。まさしく撫で斬りであった。それで終わらない。勢いを殺さず、敵に斜め後方から追走。片っ端から切り殺していくのである。取りこぼしても問題ない。踊る剣(リビングソード)が始末してくれる。

たちまちのうちに何十という死体が転がりなお、その数は増加していく。

敵前を横切った女剣士は反転。奇襲の効果を最大限に発揮すべく、森の中の敵、本隊へと突進していった。


  ◇


骸竜ドラゴンゾンビィは無視する。

それが女神官の出した結論である。

彼女らの能力では、夜の間にあれを倒すのは不可能だ。ならば軍勢を可能な限り引っ掻き回し、その足を止める。

彼女は縄を肩紐代わりにして友人の隠れ場所(・・・・)たる木箱を吊るすと、印を切り呪句を唱えた。

高らかに万物の諸霊へ願い上げる言霊が、響く。

たちまちのうちに完成した魔法の対象は、女剣士。その生首だった。

魔力抵抗カウンター・マジック防護プロテクション倍速ヘイスト

女剣士を守護し、あるいはその能力を引き上げる種々の魔法が付与されていく。それは呪的な経路を通じて、首から下、敵軍の中で獅子奮迅の働きをしている胴体へも届いた。


  ◇


―――魔法使いの視界に入らぬようにせねば。

疾走する女剣士。

これほどの軍勢である。魔法を使ってくる者もいるだろう。そいつらに攻撃されれば、いかな不死の体とはいえ死ぬしかない。

そのためにも可能な限り混乱を引き延ばし、ひとつところに留まらず、動き続けるのだ。

そう思った矢先。

射線上の小鬼ゴブリンどもをも巻き込んで投射された火矢の魔法が、女剣士の身を打ち据えた。


  ◇


踊る剣(リビングソード)の前方。疾走する女剣士、今や新たな主となった死にぞこない(アンデッド)が、地面に転がった。真横から投げつけられた火炎を受けたのである。

即座に術者を探す―――いた。

剣を振り上げ(・・・・・・)、敵勢をすり抜け(・・・・)ながら踊る剣(リビングソード)が一直線に迫った先にいたのは、小鬼祈祷師ゴブリンシャーマン。羽飾りで身を装飾した醜悪な怪物は、向かってくる敵に向けて次の術の詠唱を開始する。

踊る剣(リビングソード)の方が早い。

怪物の首が宙を舞った。


  ◇


女剣士たちの後方。田園地帯、村と森とのほぼ中央にひかれた絶対防衛線。

敵を待ち構える女神官と黒衣の少年へ向けて疾走してくるのは、何騎もの敵騎兵。女剣士たちが撃ち漏らした者どもだろう。

少年が前に出た。

月光の下、駆け抜ける姿はまさしく疾風。跳躍した騎兵―――小鬼ゴブリン操る大柄な狼(ダイアーウルフ)の下へと飛び込み、転がり、そして腰から抜いた直刀が、狼の腹を裂いた。勢いを殺さず立ち上がる少年。その背後では、無様に狼が落下した。背から投げ出された小鬼ゴブリンは首を折って即死だ。

さらに、前方から迫ってくるのは巨鬼オーガァ。分厚い筋肉と剣をも通さぬ3mの巨体を畏れず、どころか少年は敵の体を駆け上がった(・・・・・・)

逆手で抜かれたのは銀の小剣。それは、巨鬼オーガァの目に正確に突き刺さり、奥の脳までもを確実に破壊する。

絶命した敵の胴体を蹴り、反動で小剣を引き抜きつつ後方へ跳躍。綺麗に着地すると、黒衣の少年は二刀を構えなおした。


  ◇


―――見事だな。

女神官は、前衛―――黒き外套を纏った少年を心強く思った。神殿で基礎を学び、驚くべき美貌を持つ旅の騎士に師事したと聞くが、師匠もさぞや腕の立つ御仁なのだろう。彼の持つ銀の小剣も、その騎士より与えられたものだそうだ。

とはいえ見惚れている場合ではない。彼が倒した以外の騎兵や雑兵がわらわらと寄ってくる。数が違いすぎるから、自分の身は自分で守るしかない。

問題ない。

女神官が手にしているのは、投石紐スリング。石をたばさみ、振り回し、その力で投じる。甲冑すら撃ち抜く威力を持ち、下手な弓より射程が長く、石さえあればいくらでも放てる。欠点は速射性と、そして命中率。

投じた石礫は、迫る騎兵の胸を砕いた。更に紐は手に絡めたまま、足元の戦棍を拾い上げ、そして踏み込む。

飛びかかって来た大柄な狼(ダイアーウルフ)の頭を砕き、徒歩かちで迫ってくる小鬼ゴブリンどもを撲殺し、大小鬼ホブゴブリンの胸骨を叩き割る。その流れはまるで舞。

と、吊るしている木箱を持ち上げる。―――そこへ突っ込んできた騎兵が静止・・。死者は死なぬ。友人の首は魔力を帯びぬ武器に対しては史上最強のとなるのだ。我ながら酷い扱いだとは思うが。女神官は筋金入りの合理主義者だった。

反撃で敵を砕きつつ、女神官は少年のあとを追った。

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