↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
くっ殺から始まるデュラハン生活  作者: クファンジャル_CF
第三話 闇の祭壇
51/213

魔界の獣

喰われていく。

己の脳が。肝臓が。太腿が。それらの痛みが全部伝わってくる。

額に邪悪なる紋様が刻み込まれた全身骨格は、苦痛に悶えていた。

娘の―――黒衣の少年の姉は、生きて(・・・)いた。少年の理解は不完全であった。偽りの生命を与えられて死にぞこない(アンデッド)に変えられたのではない。厳密には、彼女は死ぬことができぬ呪いをかけられていたのである。その肉を、貪り食らうための。

剥きとられ(・・・・・)、喰われた肉が再生していく。また喰われる。その繰り返し。離れているというのに、全ての感覚が肉と繋がっている。

無限の苦痛が、少女を襲っていた。

狂う事すらできぬ。彼女に刻まれた邪悪なる魔力は、精神すらも再生させていったから。

―――ああ。殺して。だれか、死なせて……

それは永遠に繰り返されるであろう。彼女を食らう怪物。魔神《デーモン》が次の犠牲者を見つけるときまで。


  ◇


森の木こり小屋。

「さあ。しっかり食べたまえ。明日には走ってもらうんだからな」

「いただきます」

「……ぉ……」

女神官の前、小屋の中央の石で囲んだかまどの上にかけられているのは半球状の鍋。元々二人用だったが、女剣士が死者となったことでその潜在能力をフルに発揮する機会が失われていた。今日は久しぶりの全力発揮である。

晩餐は兎。解体され、よく茹でられたそれが各々の器に取り分けられる。

少年は、再生したばかりの右腕に悪戦苦闘しつつ、与えられた塩を振りかけて肉を食した。

「うまい…」

疲弊した肉体に滋養が行き渡る。彼にとってほぼ丸一日ぶりの食事だった。

「これは神官様が獲ってこられたんですか?」

「後半は肯定だ。前半はまだ厳密には違う。私は巡礼の途中でね。旅が終わった時、正式な神官になる」

箸で肉をつまみながら女神官。その言葉に少年は驚愕した。

「こんな凄い奇跡を使える方が、まだ修行中だなんて……」

「星神《・・》の導きだ。私は請願しただけだよ」

「……え?」

少年が怪訝な顔。眼前の女神官の法衣は水神のものである。聞き間違いだろうか。

女神官は苦笑。

「私は何から何まで異例づくしでね。信じてもいない星神が加護を与えてくれるのさ。代わりに水神の声は全く聞こえないんだが。なんでだろうな?」

問い返されても、少年にそんなことが分かるはずもない。

代わりに彼は、隣に座っている首なし女の方を向いた。

「異例と言えば、こちらの方も……」

「……ぁ」

女剣士が首を持ち上げ、少年の方へ向ける。その青白い美貌は苦笑していた。

口のきけぬ彼女に代わり、女神官が答えた。

「彼女は私と共に巡礼の旅の途中だったんだがね。道中、不浄の者に殺され、その姿にされた。彼女の魂にかけられた枷は私が解いたが、死者を生きた体に蘇らせるなんて芸当は不可能だから。けど、心は人間のままだ。少なくとも太陽神に黙認《・・》されているのは君も見ただろう?」

「はい……」

「腕は確かだぞ。幾ら私でも、彼女がいなけりゃ魔神がいるところに殴り込もうだなんて思わん」

言い終えると、女神官は鍋から新たに肉を取った。


  ◇


夕食を終え、かまどの火を落とそうとしたときの事だった。

入り口の扉。その向うから物音。

女剣士が首を置き、剣―――両手剣の方―――片手にそちらへ歩いてくと。

突如、扉が突き破られた。黒く毛むくじゃらで、指から凶悪な爪を伸ばした太い腕によって。

ちょうどその一撃を受ける位置にいた女剣士はしかし、微動だにしない。彼女は腕を掴み返すと、素早くひねった。

石が砕け散るかのような異様な音が響いた。

鉄扉すらもへしゃげる首なし騎士(デュラハン)の剛力が敵の骨格を破壊し、勢い余って扉までも粉砕する。

その向うにいたのは、異様な生物だった。

亀の頭。熊の体。下半身から何十本も生えているのは蛇だろうか。

「―――魔界獣《アザービースト》!もうこんなところまで来ているのか!!」

女神官が叫ぶ間にも、女剣士は相手を押しやった。

そのまま何倍もの質量を持つ相手を担ぎ上げ、地面に叩きつける。

怪物は、全身の骨格を砕かれて即死した。

「まずいです。あいつだけとは限らないんじゃ」

黒衣の少年が、外套を羽織りながら告げた。

小屋の外では、まさしくそれが現実のものとなりつつあった。女剣士の霊的な視界にとらえられている怪物。木々の合間から虎視眈々とこちらを狙っている魔界獣《アザービースト》どもの総数は、数十にも達しようとしていたからである。

「―――囲まれた」

女神官が呟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。