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くっ殺から始まるデュラハン生活  作者: クファンジャル_CF
第四話 星の娘
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化けの皮が剥がれて

「―――ふむ」

夕日が照らし出す執務室。執務机に向かい、大賢者は考える。

神殿に赤子が預けられたのは確認した。いつでも奪い取ることはできる。だが問題は、あの死霊術師ども。

奴らは合流した。神殿に赤子を預け、そして我らがこの街に基盤を持つことをあの死霊術師が知らぬ以上、この街にいる理由はないはず。それに、いかにうまく偽装していようとも、首なし騎士(デュラハン)をいつまでも街に置いておくわけにはいかぬであろう。このまま放っておけば街の外に出ていくやもしれぬ。

だが。

あれほどの魔術師だ。もし街に残るのであれば、赤子を奪った後も我らの障害になる事は必至。その場合、時間が経てばたつほどこちらが不利になる。ボロとはつまらぬところから出るものだ。

悩ましい。こればかりは奴らに予定を聞くわけにはいかぬ。

しばし考え、そして夕日が地平線の彼方へと沈みかけたころ。

結論は出た。


  ◇


「まったく、人様に心配かけてんじゃないよあんた」

「うっ……すまん」

図星を突かれた死霊術師は、若作りの老婆(・・・・・・)に頭を下げた。

そこは、女性陣が宿泊していた木賃宿の部屋である。外は夕刻。窓を閉め切り陽光を締め出したそこで、三人は車座になり座っていた。

生者二人は、葉でくるんだ蒸かし芋を食べている。夕食であった。老婆などは、ひょうたんから酒まで飲んでいる。

「はぁ。まぁいいけどね。あ、そうだ。あんたを探すのを知り合いに頼んで回ってたんだよ。見つかったって明日言って回ってこないと」

「重ね重ねすまん」

高位の魔法使いもこうなっては形無しである。

老婆に死霊術師がやりこめられる様子を見て、女騎士は久しぶりに笑った。魂の姿を見せる魔法はずっと維持されているから、それは生身の人間にしか見えない。

「……ぁ……」

「そうだねえ。可哀想に。

ほら。この娘、太陽があんだけ照り付けてる中歩き回ってたんだよ。あんたのために。なんか言ってやったらどうだい」

「それはすまなかったな。この通りだ」

もはや何度目か分からない謝罪を女騎士に向けてする死霊術師。続いて、彼は昼間から思っていたことを口にした。

「しかし……最初見た時は驚いたぞ。生きているようにしか見えなかった」

「…ぅ……」

死霊術師の言う通りだった。女騎士の維持している魔法は他者に対して自らへの霊視を強制するものである。言い換えれば魔法を使えない通常人でも女騎士を見るときだけ、霊的な視覚を持つことになった。

「あんたが不甲斐ないからねえ。あたしが魔法を1つ伝授してやったのさ。代わりにあんたの呪物はそっくりいただいたからね。返さないよ」

「そりゃ構わんさ。それだけの価値はある」

死霊術師が女騎士にずっと感じていた負い目のひとつ。人前に出られぬことが解決したことを思えば、それくらいは安い対価と言えた。

「さて。じゃあ明日は買い物にでも繰り出すかね?金は出してやるからさ。あんた、酷い格好だよ」

老婆に指摘された死霊術師は苦笑。確かに服は繕いこそしたもののボロボロだ。ローブも失った。火炎の壁(ファイア・ウォール)を潜り抜け、背中に魔法の矢(マジック・ミサイル)を受けたのだから当然ではあるのだが。金を出してくれるというのならありがたく受け取っておこう。

「さて。じゃあ寝るかね」

「……ぉ……」

「ああ。明日は跳ね橋が降りたら先に街から出たらいい。お疲れさん」

「……ぁ」

こうして、一同は眠りに就いた。


  ◇


焦げ臭い。

時刻は夜半。この時間帯、沐浴する物好きはいない。なので水葬・・ができない女騎士はずっと起きていたが、その嗅覚が危険を捉えたのである。彼女は首を拾い上げると、素早く死霊術師たちを起こした。

「うん?……火事か」

「……ぅ……ぁ…」

「やだねえまったく」

まとめてあった荷物を抱え上げる一同。さほど危機感はない。いざとなれば二階から飛び降りればいいとの判断である。

女騎士が扉を開け、廊下の様子を確認する。黒煙。かなりすさまじい。

「ちょいと他の客を起こしておやり」

老婆の指示に女騎士がそこらの扉を叩いて回った。彼女は呼吸しないし火も平気である。大した危険なしに救える者を救わなかったら寝覚めが悪い。

にわかに騒がしくなる宿。怒声が響き渡る。どうも階段は無理そうだ。

「仕方ない。飛び降りるか」

「この老骨に何てことさせるんだい、ったく」

「あー。背負ってやってくれ」

「ぉ……」

小脇に首を抱え、老婆を背負った女騎士が、窓から飛び降りた。後から荷物を背負った死霊術師が続く。

街路へと着地した一同の前には既に、かなりの混乱が広がっていた。様子を見に集まった野次馬もいれば、荷物を持って逃げようとする者の姿も多い。振り返ってみれば、宿は既にかなりすさまじい火の粉を散らしている。

野次馬の列まで後退する一同。

港町の家屋は大半が木造である。このまま放置すればかなり酷い事になるだろう。

「仕方ない」

老婆が前に出た。空に浮かぶ月へ祈りを捧げ、杖を振り上げる。

それまで晴れ渡っていた星空が、にわかに曇り始めた。大気が湿り気を帯び始める。

ぽつり。

雨滴であった。

それははじめ遠慮がちに、しかしすぐさま凄まじい勢いにまで成長し、豪雨となる。これなら周囲に燃え広がりはすまい。まもなく鎮火するだろう。

その場にいる皆が安心した時だった。

女騎士。その真後ろで、何かが裂ける音。

その音に伴い、突如巨大な魔力が膨れ上がり、そして女騎士を飲み込み、はじけ飛び、沈静化。消滅する。

驚愕し、振り返った(・・・・・)女騎士の視線の先には、群衆を抜けて逃げ去りつつある人影。それを咎めようとした彼女は、野次馬たちの視線が自らに集中していることに気付き、気圧された。

「……ぅ……?」

驚愕。恐怖。混乱。畏れ。それらがないまぜになった表情が、女騎士に向けられている。

「ばけもの……」

誰かが呟いた。

「ひぃっ!?」「死にぞこない(アンデッド)だ!」「神官を呼んで来い!!」「闇の者がいるぞ!!」

女騎士を、生者に見せかけていた魔法。

その効果が、消滅していた。

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