表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
くっ殺から始まるデュラハン生活  作者: クファンジャル_CF
第七話 出会いの物語
202/213

宙を舞い

―――頭を潰さなければ

長身の女魔法使い。姉妹の姉は考える。

眼前の骸骨がどんな魔法を使ってくるかわからない。速やかに倒さなければ!

踏み込む。渾身の一撃が敵の剣と激突。凄まじい衝撃に手がしびれる。

技量は互角。されど、膂力に埋めがたい差があった。

それでも、刃を二度、打ち合わせるまでは何とか打ち合えた。

三度刃を交えた時にはすでに防戦で手一杯となり、五度目で剣を弾き飛ばされる。続く一撃を転がって辛うじて回避。

なんという化け物。強すぎる。勝ち目が見えぬ。

そこへ立て続けに攻撃が来る。立ち上がる暇がない。受けようにも武器は取り落とした。着実に迫る斬撃。殺される!!

助けが必要だ。だがそんなものはいない。獣たちは敵と渡り合っているし、妹も表で防戦一方だ。どうすればいい。どうすればこいつに勝てる!?


  ◇


家の風下。

野伏は、戦況を観察する。

草むらの中を逃げ隠れしている限りは安全だ。もちろんそれだけではない。移動しながら敵の後頭部目がけて石礫を投じているのだ。特に、味方が危なそうなところを援護する。やり方次第で己も十分に戦えるのだ。

既に小鬼を十匹近く始末した。

次の攻撃目標を探すべく、視線を巡らす。―――あれは!

目に映る光景。骸骨を模した兜の剣士が襲い掛かっているのは長身の女。姉妹の姉が、今にも切り殺されかけているではないか。どこから出てきたのだ、奴は!?

拾い上げた石を、渾身の力で投げつける。

我ながら惚れ惚れする軌道だった。石は、骸骨兜の後頭部へと直撃。あれぞ致命的命中クリティカルヒットと呼ぶにふさわしい。

兜の上からでもさすがに効いたか。剣士の動きは明らかに鈍い。そこへ突き込まれた一撃。姉が、拾い上げた剣で剣士の腹部を貫いたのだ。

―――やった!

勝利を確信する。姉もそうだったに違いない。

間違いだった。

骸骨の剣士は、何事もなかったかのように動いた。剣を振りかぶったのである。

強烈な反撃が、姉を襲った。

その瞬間、宙を舞ったものを、呆然と見上げる。なんだあれは。なぜあれが飛んでいるのだ。

どうして、彼女の首が胴体と生き別れ(・・・・・・・)ている(・・・)のだ!?

姉の首は、刎ねられていた。

宙を舞う生首は、場違いなほど美しい。月光を反射する銀髪と相まって、まるで奇跡のように調和がとれた光景だった。

ありえない。そんな馬鹿な。許されない。

この瞬間、湧き上がって来たのは激情。

そして、狂気。

―――死なせるか!彼女を死なせるくらいなら私の正気くらいくれてやる!だから、だから彼女を助けろ!!

一心に、神へと祈る(・・・・・)。狂気という祭壇を通じて、月神へと加護を請願する。

それは親しい人の魂魄へと絡みつく、ある種の祝福として顕現した。

目に見える加護ではない。術者と、被術者のみに何が起きたかを知ることができる。引き出されたのはそのような加護。

禁呪ワードパクト。指定した武器による負傷では決して死ななくなる呪い(・・)。長身の女魔法使いが、剣によって死ぬことを禁じたのである。

―――頼む。助かってくれ!

願いもむなしく、視線の先。姉の胴体・・が倒れる。首が転がり、そして動くことはない。駄目だった。乾坤一擲の加護。己の魂の正気を削り取って放った魔法ですら、彼女を救えなかったのか。

座り込む。現実と夢幻の境界が曖昧だった。甘美な狂気の誘惑が手招きしていたが、そちらに堕ちることはできぬ。極度の疲労は狂気に陥る事すら許さぬのか。いっそ狂いたかったというのに。

そこへ、骸骨の剣士が振り返り、こちらを見た。

目が合った(・・・・・)

―――落ち窪んだあの眼窩はなんだ。爛々と輝く赤い目はなんだ。この世界では不死の怪物も生者の姿になるのではないのか!?

分からない。ひょっとすれば魂そのものすらも腐っているのかもしれぬが。故に、あの不死なる怪物は、脇腹を貫かれても平然としているのだ。内臓も腐って消え失せていたから。

骸骨の剣士は、こちらを一瞥すると手勢へ命じた。

「そこの子供を捕らえよ」

小鬼どもがわらわらと集まると、こちらを捕縛してくる。もちろん抵抗などできようはずもない。

それをを見届けると、怪人は家の中へ入っていった。

もうひとりの魔法使いを捕縛するために。


  ◇


―――これならいける。

魔法使い姉妹の小柄な方。妹は、攻め寄せる敵相手に防戦を繰り広げていた。

先日大木を切り倒すのに使った斧へ魔法をかけ、敵勢を薙ぎ払わせていたのである。どうやら前の持ち主が戦いにも用いていたらしく、豪快に小鬼を切り殺していくのだ。他にも縄が絡みつき、あるいは桶が頭に覆いかぶさって視界を隠すなど善戦している。

的が小さい道具たちに、敵勢は苦戦しているようだった。

扉の陰から外の様子を伺い、道具たちを指揮していた彼女はだから、安心していた。何とかなりそうだから。

背後に歩み寄って来た気配を感じた時もそうだった。

「姉さ―――!?」

振り返り、相手が姉ではないことに愕然とする。骸骨の兜を付けた怪人。敵!

咄嗟に身構えた彼女の喉を、怪人は握りつぶした。

声が出せない。魔法が使えない!!

意識を喪失する刹那。怪人の向こう側。

彼女は、首を切断された姉の肉体を、見た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ