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くっ殺から始まるデュラハン生活  作者: クファンジャル_CF
第七話 出会いの物語
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悪事と報い

暖炉の炎と視線があった。

額から汗を流している野伏。彼女の前で薪もなしに燃えている不思議な炎は、眼球を備えていたのである。歯がある。鱗がある。尻尾があり足も生えている。

火の精霊。火蜥蜴サラマンダーだった。

そいつをよく観察しようと顔を近づけた野伏は、鼻先をなめられた。

「あちっ!?」

蜥蜴に見えようともそいつは火そのものである。人の類が触れれば焼かれるのは道理であった。

仰け反っている野伏を見た魔法使い妹がクスクス笑う。

「その子は気性が荒いから気を付けなさい」

「ふぁ、ふぁい……」

石造りの室内だった。

家の居間。かなり立派なつくりである。床に敷かれているのは、精緻な刺繍が施された絨毯。その真ん中には大変背の低い不思議なテーブルが置かれていた。食事などの時は絨毯に腰掛けるらしい。

外はもう太陽が沈みかけている。この場所が一種の幽霊なら、陽光に焼かれていないのはなぜだろう?と野伏は思った。

室内には獣たちもいる。なんと彼らは不死の怪物らしい。骨に獣の魂を括り付けているそうだが、どう見ても生身だった。ゴロゴロと気持ちよさそうだ。この場所の特性だそうな。ちなみにここの外、平原だけではなく森よりも外側にまで出ると、彼らの姿は骨に戻るのだとか。

不思議な場所だった。

「さ。ごはんにしましょう」

暖炉から鍋を降ろしたのは魔法使い姉。彼女は鍋敷きの上に鍋を置くと、中身を器によそおい始めた。野伏の分もちゃんとある。具は野菜とハーブ、キノコ、そして肉がたっぷり入ったシチュー。

「魔法使いも普通のものを食べるんだ……」

「私たちだって人の類だもの」

魔法使い姉は、草小人の失敬な感想にもさほど気分を害した様子ではない。慣れているのかもしれぬ。

姉妹と野伏はテーブルを囲み、食事を始めた。


  ◇


「ここって何なの?」

食事をとりながらの野伏の疑問である。

その問いに顔を見合わせた姉妹であったが、やがて妹の方が答えを返した。

「ここはね。簡単に言うとあの世」

「……冗談だよね?」

「冗談なんていうもんですか。この世(・・・)。いや、この言い方も変か。あなたが住んでたのは物質界。ここは幽界かくりょの下の層。物質界と重なり合ってるあたりね。まあ半分くらいはこの世(・・・)じゃないと覚えておきなさい」

「……なんてこった」

野伏は天を仰いだ。草小人は信仰心がごく希薄だったが、いつの間にやら自分が死んでいたとなれば話は別である。困ったときは神に頼みもする。

「まぁ別に死んでいないわ。死者もここにいる限りは肉体を持っているように見えるけれど」

「……」

隅でじゃれあっている肉食獣たちは、どうやら老いや病で死んだ各地の獣たちの王らしい。それを姉妹が連れ帰って来たのだ。その実力は嫌というほど思い知らされた。今朝―――というか盗みに入ったのは昨夜だから、おおよそ一晩かけて。

「しかしあなた―――何ができるの?」

野伏ははっきり言うと力仕事において無能だった。薪割りは駄目。肉の解体も獲物が大きすぎれば駄目。身長が低いので家事もままならない。

だからこそ、定住する草小人たちは自分たちに合わせた家を作り、村を作るのである。彼らの住まいは全てがミニサイズだ。

だから放浪する草小人は歌や踊りで生計を立てているのがほとんどなわけだが。

野伏はその辺の能力が欠如していた。親から仕込まれはしたが、得意ではないのだ。だからドロップアウトしてならず者になったのである。

「……鍵開けとか罠を見つけたりとか……お屋敷に忍び込んだりとか……」

その発言に顔をほころばせたのは魔法使い姉であった。妹も頷く。

「あら。そういうのが得意だったの?ならちょうどいいわね」

「そうね、姉さん」

置いてけぼりを喰らったのは野伏である。何がなにやら。

「ああ。ちょっと入ってもらいたいところがあるのよ」

魔法使い姉は、嬉しそうに言った。

厄介事を任せられる相手が来た。そんな表情で。

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