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くっ殺から始まるデュラハン生活  作者: クファンジャル_CF
第四話 星の娘
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闇の胎動

死体には捨てる部分が存在しない。

髪は呪力を宿すし、皮膚は呪符の良い材料となる。内臓は丸薬や散薬として珍重し、新鮮な骨からは魔法の道具を作ることもできた。

呼吸と食事によって蓄えた気と、高度で複雑な精神活動を行う人間の肉体は、それ自体が優れた呪物である。それ故に、死霊術師にとって、新鮮な死体は素晴らしい資源であった。

今、解体されている二体の屍。襲撃者たちの亡骸は、死霊術師によってさまざまな呪物へと変じようとしていた。

「あーそこを切り取る時は慎重にな」 

「…ぁ……」

はた目から見ると邪教の儀式にしか見えぬであろう術式を実演するのはフードの死霊術師。

女騎士も負けず劣らぬ手際で解体を進めていく。彼女は騎士のたしなみとして狩猟の心得があったから、生物の解体はお手の物だった。

ここは大河よりやや離れた地点にある山中の洞窟。襲撃を受けた後ふたりは荷物をまとめ、死体を運んで速やかに移動してきたのである。

とはいえ、死体を担いできたわけではない。死霊術師が襲撃者たちの額に張り付けた呪符は、死した体を立ち上がらせた。死体は自ら歩いて彼らについてきたのである。「もともとは死者を故郷まで歩かせて埋葬するための術だ」とは死霊術師の弁。

死者の冒涜とは考えない。捕虜・・にした二名の敵の魂は、藁で造られた人型の依り代に封じ込められ、解体されていく自分たちの肉体を見て悲痛な声を上げていたが。

現実問題として、死者と直接に語らい、その姿を視ることができる死霊術師ネクロマンサーという人種は大変な合理主義者だった。口を割らせる際に少々拷問・・した他は不要な苦痛など与えていないし、ことがすめば解放・・してやるつもりである。どちらにせよ死んでいるのだから、彼らにはもう使い道のない戦利品・・・をこちらがどう扱おうが勝手だ、というのが死霊術師としての言い分だった。

そばでは骸骨兵が、赤ん坊をあやしている。

その様子を見て、ローブの死霊術師は内心苦笑。ひいき目に見ても、これは子供の生育環境として絶対的によろしくない。仮に自分たちが育てれば、どんな歪んだ人間に育つ事やら。

やがて作業を終え、余った血を墨壺に収めると。

「これでおしまい。お疲れさん」

「……ぁ……」

労われ、心なしかうれしそうな女騎士。彼女も着々と死霊術師としての倫理観に染まりつつある。

片づけを終えた彼女は傍らに置かれた捕虜・・たちをつまみ上げた。彼らの抗議の声が聞こえて来るが、女騎士に言わせれば弔いもないまま野ざらしにされるよりは依り代の中の方がよほど快適である。人道的・・・とすら言えた。まとめ終えた荷物の上に彼らを放置し、女騎士は自らの首を抱え上げる。

「さて。長丁場になって疲れたろ。今日はやすもう」

「……ぉ……ぅ……」

死霊術師の言葉に、弟子は喜色を浮かべた。


  ◇


闇に包まれた空間だった。

蝋燭の火は弱々しく、場を支配する闇に抗するにはあまりにも頼りない。

その世界の支配者は、ほうほうの体で逃げ帰って来た部下の報告を聞いていた。

「ふむ。骸骨と、そして首のない女(・・・・・)にやられたのだな?」

「はっ」

「……ここを放棄する。最低限のもの以外は全て燃やせ」

「は?しかし……」

「相手を甘く見るな。そいつはかなり高位の魔術師だ。捕らえられた者が自決しても、魂を拷問して(・・・・・・)喋らせる程度たやすくやってのけるぞ」

「承知いたしました」

一通りの指示を終えると、支配者たる男は考え込んだ。

部下は大したことは知らぬ。彼らが知っているのはこの拠点の位置と、そして教義のため、彼らの神のために赤子を生かしたまま連れてくる、ということだけだ。とはいえ拠点を放棄せざるを得なくなったのは、大変遺憾ではあるが。

問題は、赤子を拾ったのが強敵である、ということ。

首なし騎士(デュラハン)を造れるほどの魔術師ならば、あの赤子の価値に気付いたとしても不思議ではない。早急に奪い取る必要があった。

忌々しい。

我らの悲願がかなう日まで、あとわずかだというのに。

彼は、顔を隠していた漆黒のフードを下ろし、壁に掛けられた聖印を見上げた。

暗黒神。闇の勢力が信奉する邪悪なる神々の中でも主神に位置する一柱。太陽神の兄にして宿敵ともいわれる強壮なる邪神であった。

「神よ。我らにご加護を」

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