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くっ殺から始まるデュラハン生活  作者: クファンジャル_CF
第七話 竜の乙女と騎士の卵
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白き衣の戦乙女

竜殺し。

それは偉業の別名だった。

竜とは、それ自体が強大無比な魔獣である。戦いを挑み、勝利することは英雄譚の題材ともなった。

だが。

肉持つ脆弱なる者が、神そのものである竜王ドラゴンロードに挑むなど、前例がない。

もしもこの戦いで、竜殺しを成し遂げたのであれば。

その功績は、比類なきものとなるに違いなかった。


  ◇


漆黒の竜王ドラゴンロードは、寝覚めの頭で察して(・・・)いた。その神域に達した原初の本能とでもいうべき霊感によって、思考によらず結論を導きだしていたのである。

周囲を飛翔するちっぽけな者どもが、今の己にとって最大の脅威であるという事実を。

彼女・・は敵を迎撃すべく、身構えた。


  ◇


少女を降ろした女勇者と少年騎士は、漆黒の竜王ドラゴンロードの周囲を飛翔していた。敵の様子を観察し、どの角度から攻めればよいか分析していたのである。

「急降下攻撃は無理か」

急降下は最も速度が出せるが、狙いは敵の喉元である。地中・・から前方へと伸びている上半身。その頭部に邪魔をされてしまう。位置が悪い。

かといって側面から突っ込めば、あの鋭いかぎ爪にやられてしまうであろう。

だから、女勇者が攻めると決心したのは正面だった。

「―――策があるんですね?」

女勇者は一声鳴くと、翼を振るい速度を上げた。


  ◇


女勇者は、敵を見上げていた。

低空飛行中。背後より最小半径で旋回し、正面へと回り込む。竜王の喉元を狙うのだ。地面効果・・・・で揚力を稼ぎ、最大速度で飛翔しつつ、タイミングを見計らう。

恐らく行けるはず。奴の最初の攻撃を凌ぐことが。

確証はない。成竜に化身しているとしても己は偽物。真の意味で竜の力を得ているわけではない。うまく行く保証などない。

それでも。

過去の経験。二度の実験・・

己が今まで歩んできた苦難の道程が、全てこの瞬間のためにあったのだとしたら。

―――ああ。神よ。太陽神よ。今は。今だけは、どうかご加護を。

女勇者は、神に祈った(・・・・・)

ただ、純粋に。

そして、運命の一撃が訪れた。


  ◇


竜王の胸郭が膨らんだ。

次いで、顔が前方の人間たちへと向けられた。口がひらき、喉の奥より白い(・・)焔が燃え上がる。

それは、間髪を開けずに解放された。

衝撃波を伴いながら吐き出された莫大なエネルギーは、全てを溶かし尽くしながら直線に突き進む。

正面から竜王へ接近していた少年騎士とその乗騎も、白い奔流に呑み込まれた。

それで終わらない。

遥か彼方まで伸びたそれは、地平線の向こう、およそ十キロにまで届いたのである。

続いて広がったのは、爆風。

溶かし尽くされた射線上の存在が高熱のあまり水蒸気爆発・・・・・を起こし、全てを吹き飛ばしながら拡大していったのだ。

悪夢のような光景だった。ただの一撃で、遥か彼方まで消し飛んでしまったのだから。

ただひとつ。黒き竜の乙女と、彼女に跨った少年騎士を除いて。

竜の炎の洗礼を受けし戦乙女は、竜の吐息(ドラゴンブレス)に焼かれることがない。

竜王の一撃は、彼ら主従を避けたのである。


  ◇


―――抜けた!!

少年騎士は、眼前で炎が裂けた(・・・)ことに驚愕していた。あれほどの暴威すらも退けるとは!

乗騎の実力に改めて驚嘆しつつ、彼は抜刀した。真に力ある魔法の品物である、青銅の大剣。すなわち竜殺し(ドラゴンスレイヤー)の力が備わった刃を。

この剣の魔力ですら、眼前の敵。山のようにしか見えぬ竜王に対しては蟷螂の斧とも思える。当然であろう。敵は神。矮小なる地上の存在が生み出した刃がいかほどに通じるだろうか。

だが、それでもこの剣しかないのだ。

後は、敵の喉元に一撃を加えるだけ。あの巨体では、迎撃は間に合わぬはず。

そのはずだった。

竜王の首。その下へと潜り込もうとした刹那。

真横から、一撃が襲い掛かって来た。

爪の一撃。

回避の余地はなかった。

成竜の頭部・・が、それでも牙を突き立て、攻撃をそらそうとし―――砕けた(・・・)

急所が。女勇者の。すなわち不死の怪物たる首なし騎士(デュラハン)最大の弱点が、粉々に砕け散ったのである。

首を失った胴体は吹き飛ばされ、きりもみしながら落下していった。

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