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くっ殺から始まるデュラハン生活  作者: クファンジャル_CF
第七話 竜の乙女と騎士の卵
162/213

降臨の儀式

すり鉢状の穴だった。

そこは氷の大陸。すなわちその全てが氷で出来た土地である。夏にも溶けることが決してない、永久の氷によって。

穴は、削り取られた大地であった。闇妖精ダークエルフたちが、少しでも神に近づこうとして長年掘り進んだのである。氷の下深くに封じられた漆黒の竜王ドラゴンロードへと。すなわちそこは聖地であり、神殿なのだ。

今、すり鉢の底で、神を降臨せしめんとする儀式が開始されようとしていた。


  ◇


恐ろしく広大な穴の中心で、混血児の少女は周囲を見回した。

氷を削り出して作り出したのであろう、すり鉢の底にあるのは精緻なる舞台。その中央で、宝飾品で身を飾られ、素足に薄絹一枚の少女は立っていた。

舞台を取り囲んでいるのは何十という数の闇妖精ダークエルフたち。少女も知っている者たちばかりであった。お世辞にも良好と言える関係ではなかったが。

混血児の少女は、己がこれからどのような目に遭うかを悟った。闇妖精ダークエルフの祭儀とは流血と邪悪、断末魔に彩られた歪んだ静寂である。それを嫌って光の神々に救いを求めた少女にとって、今の状況は悪夢以外の何物でもない。

己が儀式の生贄に供されるとは。

神に救いを求めようとしても声が聞こえぬ。この地は暗黒神と漆黒の竜王の悪しき祝福に満ち溢れており、光の神々との交信を妨げるのだ。

少女にできるのはただ、己が犠牲となるのを座して待つことだけであった。

今、彼女を取り囲む闇妖精たちの長―――部族の長老が、高らかに宣言した。

「―――儀式を執り行う。忌々しい氷神の封印を破り、我らが神を取り戻すのだ!」

静かに、熱狂が渦巻いた。


  ◇


極光オーロラに照らされた夜空を少年騎士は飛ぶ。黒き鱗に覆われし竜の乙女に跨って。

女勇者は成竜へと変じていた。あらん限りの咆哮を上げながら。それは水平線・・・の果てまでも届き、そして恐るべき怪物どもを招き寄せんとしていた。

召喚の儀式。知恵なき魔獣を呼び寄せる、魔法の咆哮である。

操ることはできぬ。ただ、怪物どもを呼ぶのみ。

彼女は闇妖精ダークエルフたちへとぶつける気なのだ。何体もの魔獣を。

女勇者の背に跨る少年騎士は、己の乗騎が備える驚異的な力に畏れを抱いていた。まさしく単独で一軍にも匹敵する力。彼女は魔獣どもの王なのである。

その全てを捧げられる事の意味。

彼女は、屠られるために旅をしている。すなわち、女勇者を真に己の乗騎とする、ということは、彼女と共に戦い、彼女が死するであろう敵と戦って生き延びねばならぬ、ということであった。

恐らく、歴代の竜騎士ドラゴンライダーの中でも最も困難な道を、少年は歩んでいる。だが構わぬ。

儀式を終えると、女勇者は降下に移った。後は魔獣どもがおびき出されてくるのを待ち、奴らを誘導しながら敵陣へと突入せねばならない。魔力を温存せねばならなかった。

決戦は、間近。

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