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くっ殺から始まるデュラハン生活  作者: クファンジャル_CF
第七話 竜の乙女と騎士の卵
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帰って来た少女

北の果てにはその実、先がある。

海があり、島々がある。更にその先には、氷だけで出来た大陸もある。それらには獣が住み、闇の種族が住み、あるいは人の類が住んでいた。住めないわけではないのだ。困難があるにしても。

今。そんな場所からやってきた、逃亡者の姿があった。


  ◇


―――だいじょうぶ。あと少し。

月夜だった。

凍てついた海面を走るのは、毛皮で全身を覆い寒さから身を守る、小柄な人影。少女であろう。

彼女は、必死に走っていた。目的地は、大陸。その北の果てである。彼女は凍てついた海の島々からきた。うち一つにある集落から。

彼女が首から下げているのは氷神の聖印。特に北の果て、氷の上を渡る人々の信仰が篤い、火神の双子の妹神とも言われている神性の印である。

彼女は追われていた。獣の群れに。ただの獣ではない。魔獣の類であった。

少女を追跡するのは狼にも似た、白い獣の集団。

冬狼ウィンターウルフ。小柄だが高い知能を備え、そして魔法を使いこなす強力な怪物どもであった。時に闇の種族に従っている場合もある危険な相手だ。


―――RUUUOOOOOOOOOOONN!


冬狼の咆哮に宿るのは呪力。精霊へ祈願するその声は、聞き届けられた。氷の精霊が助力したのである。

少女を中心に、吹雪が巻き起こった。

致命的ではない。走り続けて温まった体。分厚く身を守っている毛皮。それらの防護を貫いて致命傷を与えるほどの威力はない。

されど。

体温がほんの少し、奪われる。熱が。

それで終わらない。


―――RUUUOOOOOOOOOOONN!

―――RUUUOOOOOOOOOOONN!


立て続けに咆哮。そして吹雪。

二度三度と続く魔法の攻撃は、少女の体温を着実に奪っていた。こうやって獲物を徐々にいたぶり、弱らせるのが奴らの手口なのだ。

少女の体力はもう限界だった。これ以上は走れない。このままならば。

だから、彼女は奇跡を願った。魂魄の奥底に自らが築いた祭壇を通じ、神に救いを求めたのである。

願いは無事聞き届けられ、祭壇を通じて強壮なる霊力が少女の肉体へと流れ込む。

それは、肉体を弱らせる冷気に退去を命じる、治癒の霊威という形で顕現した。

体力が戻る。冷え切っていた肉体の内側から活力が湧いてくる。熱が作られていく。

されど、その反動。神と接触したことによる、少女が受けた負荷は大きかった。既に彼女は幾度もの加護を請願していたのである。もう、後がなかった。

だから、彼女は走った。目的地。母の故郷である、村へと。


  ◇


女勇者が武装し、部屋から飛び出たのを見た少年騎士は、自身も剣を手に外へと飛び出した。

恐らく狼の声に反応したのであろう。この村の家屋であれば立てこもっていれば安全なはずだが、そうしなかったということは何かを察知したのだ、彼女は。

とはいえ騎士の脚力では追いつけない。女勇者の速度は驚異的である。だから、彼はズルをすることとした。

女勇者の進行方向を確認すると、高所へと移動したのである。続いてポケットへ手を突っ込み取り出したのは投石紐。

足元から適当に拾い上げた石を装填し、構える彼の前方で、何やら獣の群れが視界に入った。それに突っ込まんとする女勇者の姿も。

朝日が昇りかけていてよかった。辛うじて見える。

彼女の実力なら支援の必要はあるまい。されど、何もせぬのもしゃくである。だから騎士は、援護射撃を開始した。


  ◇


斜面を駆けおりた女勇者。その視線の先では、分厚い毛皮で寒さから身を守った小柄な人間が倒れ込み、多数の獣にまさしく食い殺されようとしていた。遠すぎる。走っていては間に合わぬ。竜の吐息(ドラゴンブレス)でも!

と、その時。獣どもが、獲物である人影から散った。至近へ落着した石弾にひるんだのである。投石紐か。あれの射程は四百メートルもあるが、狙った場所へ落とすのは難しい。よくぞあのような良い場所へ落とす。後で誰が放ったか確認せねば。

感心しつつ、己の肉体へ竜の力を宿す。背中から伸びたのは、翼。服を突き破るが問題ない。勢いのままに跳躍し、羽ばたく。

残りの距離を一気に詰め、空中より仔細を確認。狼に似た獣どもに人間が襲われている!

空中より降下。戦斧を振り回し、狼どもをひるませる。更には竜の吐息(ドラゴンブレス)を一発。

数匹の狼が炭と化し、そして残りは散っていった。勝てぬと悟ったのであろう。

敵を撃退できたことを確認し、倒れている小柄な人物へと歩み寄る。

うつぶせで倒れている人物を助け起こさねば。

なぬ。

―――馬鹿な。この少女が、先ほどの聖句を唱えていたのか?氷神の聖句を。

まさか。在り得ぬ。

信じがたいがしかし、少女の首から下げられているのは氷神の聖印。

女勇者は少女を抱き上げると振り返った。

その先。岬の上にいる騎士の姿を、女勇者の鋭敏な視覚は捉えた。先の支援は彼によるものだったのだろう。

彼は賢者でもあるという。ならば、この少女のような事例にも心当たりがあるのだろうか。

黒い肌と尖った耳を持ち、すらりと美しい容姿をした闇妖精ダークエルフの少女が、光の神々たる氷神を信仰しているという事実を。

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