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くっ殺から始まるデュラハン生活  作者: クファンジャル_CF
第六話 砂漠の魔物
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竜殺しの魔剣

首なし騎士(デュラハン)は、魔法的怪物としては最高峰の一つである。

より強力な魔法的創造物自体は多数存在する。だが。そんな怪物どもを上回る強みが、この不死の怪物にはあった。

急所がない(・・・・・)

より正確に言えば、急所を頭部という一点に集中させたうえで切り離すことで、並みの不死の怪物をはるかに上回る不死性を備えているのだった。首なし騎士(デュラハン)は死なぬ。胴体を両断されようが、四肢を切り落とされようが、頭部さえ無事ならば動き続けるのだ。

だが。

そんな彼女らを、頭部を狙わず完全に屠る方法がひとつだけある。

不死の魔法の破壊。

彼女らの偽りの生命を支えているのは魔法である。それを破壊してしまえば、首なし騎士(デュラハン)と言えども真に死すしかない。胴体の魔法を破壊すれば、霊的につながった頭部にまでも波及するのである。

今、暗黒魔導師が行おうとする術も、それを狙ったものだった。


  ◇


―――離れたか。よし。

暗黒魔導師は、戦乙女と首なし騎士(デュラハン)の距離が離れたことを確認すると、魔法の詠唱に取り掛かった。

いかなる死にぞこない(アンデッド)であろうとも確実に葬り去る事ができる、強力な魔法。

完全魔法消去パーフェクト・キャンセラレーション

すなわち、女勇者の生命を支える不死の魔法を破壊するべく呪句を唱え、印を切り始めたのである。

万物に宿る諸霊は彼の請願を聞き入れ、助力を与えた。

女勇者を焦点として、あらゆる魔法を破壊する魔力が収束する。


  ◇


―――なんだ。見えぬ。何が起こった!?

女勇者は混乱していた。首のない彼女が備える霊的な目。その視界が奪われたからである。

敵勢は離れているが気休めにもならぬ。敵首領は魔法使い。目が見えぬ戦士などどうとでも料理できよう。などという間に呪句が響き渡っているではないか!!

そこまで悟った女勇者は踏み込んだ。敵がいるであろう方向。乱戦に巻き込んでしまえば強力な魔法は使えまい。敵勢の刃で己の全身はズタズタにされるであろうが、火球の魔法で消し炭にされるよりはマシというものだった。仲間も目をやられている。後方から竜の吐息(ドラゴンブレス)は来ぬから問題ない。

見えぬままに戦斧を振るう。手ごたえ。骸骨の一体を砕いた。幸先がよい。更に踏み込む。二度目は外れた。どころか、腕に衝撃。右腕が切断される。勢いのあまり、左腕から戦斧がすっぽ抜けてしまった。腕を切断した敵へと体当たりを敢行する。ごつごつした骨のような手ごたえ。そいつはこちらに抱き着くと動きを封じてくる。力ずくで振り払わねば。

そこで、敵の魔法が完成した。

―――なんだ。何が来る!?

己の内の霊力を高める。魔法に対する抵抗レジストとはそれ自体が魔法である。魔法を拒否する魔法をぶつけることで、己にかけられた魔法の威力を低減するのだ。

最初に、視界が戻った。

盲目ブラインドネスの加護が破れたと悟る暇もなく、もみ合っていた骸骨―――竜牙兵スケルトン・ウォリアーが崩れ去るのを感じ取った。

そして自分自身。抵抗レジストの魔法だけではない。それとは別個。己の内側、生命そのものともいえる魔法。

不死の魔法が、強大な魔力に呑み込まれた。

それは、火に土を浴びせかけるのにも似ている。火より空気を断つかのように、魔法を支える魔力を圧し潰そうとする奔流。

の前が真っ暗になっていく。盲目ブラインドネスではない。意識そのものが暗転していくのだった。

女勇者は跪くと、そのまま前のめりに倒れた。


  ◇


この場にいた蜥蜴人リザードマンたちは、盲目ブラインドネスの効果を受けながらも善戦していた。牝山羊キマイラと互角にもみ合っていたのである。竜の鋭敏な感覚を宿す彼らは、多少は支障が出たものの、視覚を失っても完全に行動不能になる事はなかった。

うちの一人、地竜モールドラゴンへ変身していた青年は特に被害が少なかった。地下で活動する地竜モールドラゴンは、そもそも光に頼らず、鼻先に生えたひげで振動を感じ取り、活動していたから。

仲間たちの中でも真っ先に立ち直った彼は、前方で女勇者が倒れたのを感じ取ると怒りのうめき声を出した。仲間の復讐をするべく、10メートルの巨体で突進したのである。

敵首領を守る竜牙兵スケルトン・ウォリアーの一体が跳ね飛ばされた。敏捷さが違う。体格が違う。何より、質量が違う。

次いで彼の眼前・・に立ちふさがったのは、青銅の剣を構えた戦乙女。

炎が効かぬのは彼も見ていた。だから、繰り出した攻撃は右前肢の鉤爪。

地竜モールドラゴンの腕は穴を掘るために、頭部よりも前まで伸びる。長いのだ。そして爪は強靭極まりなかった。破壊力も凄まじい。

青銅の剣に激突する爪。

それは、砂礫のように切り裂かれた。

敵手は、青年の右側へと踏み込みつつ、刃を真横へ伸ばした。

まるで乳脂バターを切り裂くようにそれは青年の口へと潜り込む。どころか、戦乙女はそのまま前進したのである。刃を青年の体に突き込んだまま。

青年と戦乙女。両者がすれ違ったとき、青年の胴体は一文字に切り裂かれていた。口から尻までの右半身を断たれていたのである。刃の長さが足りていれば、一刀両断にされていたであろう。

即死であった。

竜殺し(ドラゴンスレイヤー)の魔剣を帯びた、竜の炎の洗礼を浴びし戦乙女。

まさしく竜の天敵たる彼女は、残った2名の敵に向けて構えを取った。

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