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くっ殺から始まるデュラハン生活  作者: クファンジャル_CF
第六話 砂漠の魔物
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堀の中の死闘

陥穽。落とし穴ともいう。

穴を掘り、それを隠蔽することで、上を通過した者を落下させるというだけの単純な罠であるが、その殺傷力を高める手段は無数に存在する。

底に尖ったものを敷き詰める。木や石で押しつぶす。深さそれ自体による落下の衝撃。

そして、生き埋め。

崩れ去った穴に埋まれば、その質量故に脱出は容易ではない。もちろんそんな穴を掘ることは大変な労力を必要としたが、実現した落とし穴の威力は抜群だった。

さらにもう一つ。罠の重要な効力がある。

敵の足を止めること。先に罠にかかった者を見れば、知性ある者ならば警戒する。他にも罠があるのではないか、と。

まさしくそれらの効果を狙った落とし穴が、今闇の軍勢の眼前に広がっていた。


  ◇


―――小癪な。

上空より使い魔の視界を得て戦場を俯瞰していた暗黒魔導師は、何が起きているのかを理解していた。

交戦は開始されている。弓や投石紐による一斉射撃を浴びせかけ、敵が頭を出す隙を封じたところで小鬼ゴブリンどもを堀に突入させたのである。

堀の中では敵の火炎が雑兵を焼き殺し、地獄の様相を呈していた。上空よりの俯瞰では敵の配置は見て取れたが、しかし突入部隊へと伝える術がない。

そして問題となるのが、主力であるはずの牝山羊キマイラども。奴らの何体かが、突如地面を踏み抜き落下していったのである。更には周囲から砂と土砂がなだれ込むというおまけつきで。

生き埋めだった。脱出するのも不可能。あれでは助かるまい。牝山羊キマイラは自然の生命同様呼吸を必要とする。

もちろん、人間であればあれほどの落とし穴をこの短期間に掘ることはできぬ。しかし地竜モールドラゴンであれば話は別だ。堀全体からすると土塁が妙に多いと思っていたが、落とし穴の土砂であったか。

とはいえ、落下していったのは一部に過ぎぬ。敵の戦力リソースにも限りがあろう。あの規模の落とし穴がそれほど大量にあるとは思えなかった。足を止めるのが目的なのだ。

使い魔を飛ばし、命令を伝達する。

牝山羊キマイラどもを、露呈した落とし穴周辺に集める。罠は堀の外側、全周に広く分散しているはずである。奴らも、こちらがどの方角から攻め入るかは分からなかったのだから。つまり落とし穴の近くには別の落とし穴はない。

さあ。進め。そして我が手に、竜王ドラゴンロードの秘宝をもたらすのだ。


  ◇


―――GUOOOOOOOOOOOOOO!

堀の中。

無数の小鬼ゴブリンどもを戦斧で切り殺しながら、女勇者はその咆哮を聞いた。

見上げれば、岩山の頂上に立つ物見が腕を伸ばしている。

それを確認した女勇者は、堀の中を走り、地下通路を抜け、目的地まで到達すると跳躍。更には壁を蹴飛ばし、地上へと躍り出た。

眼前には見上げるようなライオンの頭部。その額へと、戦斧を一撃する。

即死した怪物を無視して走る。更に後方より接近してきたもう一体の足を切断し、首を刎ねたところで後退。堀の中へと転がり落ちたところで、幾つもの弾けるような音が響き渡り、頭上を幾つもの稲光や火矢が飛び交っていく。

魔法による反撃であった。

一撃離脱。

それが、女勇者たちの選択した戦術である。敵に捕捉されれば魔法にやられる。ならば逃げ隠れしながら戦えばよい。そのために隠れ場所を大量に作ったのだ。上空には何やらフクロウが飛翔しているが恐らく敵の使い魔であろう。昼間だというのにご苦労なことだ。しかし、地下通路までは把握できまい。伝令も間に合わぬはず。

敵とてそんなことは承知の上であろう。犠牲を出してでも女勇者を押しつぶす覚悟なのは見て取れた。

―――さあ。我慢比べといこうではないか。

まだ太陽は昇ったばかり。敵は不浄の生命も闇の魔法も投入できぬ。対する蜥蜴人リザードマンたちはまだまだ元気である。砂漠の日差しも彼らは平気なのだ。あとは、太陽が沈むまでにいかにして敵に出血を強いるか。

不安材料もある。

敵勢が減れば、皮肉なことではあるが継戦能力は増大するはずである。物資に対して、それを胃袋へ納めるべき者どもが減るであろうから。夜になれば死体の再利用・・・もできる。現在の攻勢はそれを企図しての事だろう。口減らし(・・・・)というわけだ。こちらの戦力も削ることができて一石二鳥だ。いや三鳥か。

それでも、敵を減らさないという選択肢は存在しない。

だから、女勇者は念入りに雑兵の屍を砕いた。二度と立ち上がることがないように。

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